10万Wの雷撃 vs 完璧なアース
快適室温24度の聖域(引きこもり部屋)に、最悪な外来ノイズが接近中。
10万Wの軍勢を率いて現れたのは、コウノスを追放した実家の脳筋兄・レジスだった。
「無能のゴミめ! 10万Wの雷撃で塵になれ!」と陽キャ全開で吠えるレジスに対し、コウノスは関わりたくない一心で、静かに1本の太い銅線を地面にぶっ刺す。
陰キャ職人の徹底した安全対策(理詰め)が、過負荷な脳筋どもを襲う!
「おいおいおいおい! 誰もが三日で狂い死ぬ死の大地で、何おままごとやってんだよォ、無能のコウノス弟くぅん!」
小屋の扉を蹴破らんばかりの勢いで現れたのは、マツシーータ家の嫡男、つまり俺の兄であるレジスだった。
後ろには、いかにも「俺たち高出力っす」みたいなツラをした、ギラギラした鎧の私兵が十数人。どいつもこいつも、魔力を無駄に放出して身体の周りをパチパチ光らせている。眩しい。視覚的ノイズが凄くて目がチカチカする。本気で帰ってほしい。
「……あ、兄さん。靴、脱いでよ。黒い炭素砂が床に落ちると、自動ルンバのフィルターが詰まるんだけど」
俺は作業机の陰に少し身を隠しながら、ボソボソと蚊の鳴くような早口で言った。目を合わせたくない。陽キャの軍勢、怖すぎる。
「あァ!? 何言ってんだ陰キャが! おい見ろよ、この小屋の中、めちゃくちゃ涼しいぞ! 妖術か? おいリィン、お前技術ギルドの指名手配犯だろ。我がマツシーータ家の最新兵器のノウハウを盗んだな!」
レジスが腰の『1万Wの雷撃魔槍』をこれ見よがしにチャキィンと構える。
その瞬間、槍から漏れ出た過電圧の電磁波がバリバリと部屋の空気を震わせた。
ピピッ、とエアコン(キリガミネ)の警告音が鳴る。
『外来ノイズ感知。省エネモードを一時中断します』
(……あ。こいつ、僕のキリガミネのエコモード(丁寧な暮らし)を強制解除しやがった。……絶対に許さない)
俺の中で、職人としての静かなブチギレ回路がパチンと接続された。
「マスター、お下がりください!」
リィンがマキータ(回転魔槍)を構えて俺の前に出ようとするが、俺はそっと彼女の肩を引いた。
「リィン、下がって。君の直した回路に、あんな汚い波形の電流を近づけちゃダメだ。はんだが劣化する」
「あははは! 5Wのゴミが何かボソボソ言ってやがるぜ! 喰らいな、我が実家の誇る最大出力――10万Wの雷撃をなぁぁぁ!」
レジスが槍を天に掲げると、私兵たちの魔導具からも導線が伸び、兄の槍へとグチャグチャに巻き付いた。複数の魔導具を直列で無理やり繋ぐ、恐怖の超タコ足配線だ。
槍の先端には、今にも爆発しそうなほど膨れ上がった、紫色の凶悪な雷球が形成されていく。
「これを見ろ! この圧倒的な輝き(パワー)こそが正義だ!」
「……うわぁ」
俺は心底ドン引きして、一歩後ろに下がった。
「……何あのアホな設計。並列のバランスも考えてないから、電流が逆流しかけてるじゃん。あんなの撃ったら、受け止める基盤(定格)がないから確実にバックドラフトが――」
「死ねぇぇぇ無能がぁぁぁ!!」
レジスが槍を突き出す。
バリバリバリィィィィン!! と、小屋の壁を突き破る勢いで、10万Wの凶悪な雷撃が俺の胸元めがけて一直線に放たれた。
「マスター――ッ!?」
リィンが悲鳴をあげる。
しかし、俺はすでに動いていた。というか、レジスが長々と大声をあげて技名を叫んでいる間に、作業机の下から『直径5センチの極太の純銅製ケーブル』を取り出し、床の点検口から死の大地の地中深くへ、すでにガチッと固定(接地)していたのだ。
俺は迫り来る雷撃の軌道上に、その銅線の先端をぽん、と置いた。
パチ。
「へ?」
レジスが、マヌケな声をあげた。
10万Wの、世界を滅ぼすような雷撃。
それは、俺の差し出した銅線に触れた瞬間――吸い込まれるようにして、全て地中へと消え去った。
光も、熱も、破壊の衝撃も、何も起きない。ただ、銅線がほんのり温かくなっただけだ。
「な、何が起きた……!? 我が10万Wの雷撃が、消え……!?」
「消えてないよ。地球に逃がしただけ」
俺は耳を塞いだまま、ボソボソと解説した。
「電気(魔力)っていうのはね、抵抗の低い方へと流れる性質があるんだよ。君の狂ったタコ足配線の槍よりも、僕が用意した純度99.9%の無酸素銅ケーブルの方が、圧倒的に電気抵抗が低い。だから、10万Wだろうが何だろうが、自動的に全部地面に流れるの。安全対策の基礎中の基礎だよ。教科書に書いてあるよ」
「な、安全、たいさ……? わけのわからん呪文を吐くなぁぁ! もう一発だ!」
レジスが再び槍に魔力を込めようとした。
だが、それは物理的に不可能なことだった。
「あ、もうトリガー引かない方がいいよ。さっき言った通り、定格を超えた電流を無理やり流したから――」
ピシッ。
レジスの持つ槍の基盤から、嫌な音が響いた。
「へ?」
「――受け止めるブレーキ(安全回路)がないから、戻ってきた過電圧で、中の魔石がショートする」
ドガァァァァァァァァン!!!
「ぎゃああああああああっ!?」
次の瞬間、レジスの槍が大爆発を起こした。
タコ足配線で数珠繋ぎになっていた私兵たちの鎧や武器も、ドカドカドカッとドミノ倒しのように連鎖爆発を起こしていく。
「あつい! ケツが爆発した!」「槍が! 俺の誇りの槍が溶解して――!?」
「うわ、煙がこっちに来る。リィン、換気扇回して。『強』で」
「は、はいっ! マスター!」
煙まみれになり、ボロボロのパンツ一丁姿で床に転がるレジス。
俺は一歩も動かず、はんだごてを持ったまま、冷たい目で彼らを見下ろした。
「……用が済んだら早く帰ってよ。君たちのせいで、部屋の電磁ノイズ濃度が上がって、僕の丁寧な暮らしのQOLが著しく下がったんだけど」
「お、おのれ無能がぁ……! 覚えてやがれぇぇ!」
レジスは、溶解した槍の残骸を抱え、私兵たちと共にお互いのケツを庇い合いながら、命からがら小屋から這い出て逃げ去っていった。
「す、素晴らしい……! 戦うことすらなく、ただ1本の紐(銅線)で、10万Wの軍勢を自滅させるなんて……! やはりマスターは、この世の混沌を裁く定格の神……!」
リィンが背後で、完全に目をハート(過負荷)にしながら両手を合わせている。
「いや、だからただのアースだってば……。あー、最悪。せっかくの24度が台無し。ちょっと麦茶飲んで落ち着こう……」
俺は早口で愚痴をこぼしながら、再びパイプ椅子に深く腰掛け、はんだをいじり始めるのだった。
(第6話へ続く)
第5話をお読みいただき、ありがとうございました!
10万Wの脳筋攻撃を「アース一本」で無力化する、これぞ陰キャ職人コウノスの理詰め無双(?)です。戦うのすら面倒くさいから接地しただけなのですが、お兄さんたちは勝手にタコ足配線で自滅していきました。
しかし、レジスが逃げ帰ったことで、マツシーータ伯爵家、そして帝国側も「死の大地にヤバい無能(神)がいる」と気づき始めます。
次回第6話は、帝国トップの技術公爵家「イナバ家」の超天才令嬢アイリスが、コウノスの聖域を調査しにやってきます! 彼女もまた、この世界の「過負荷」に潰されかけている一人で……?
「実家の自滅ざまぁが気持ちいい!」という方は、ぜひブックマークや星評価で、コウノスの要塞化(アキハバラ建国)を応援してください! 次回も定格駆動で執筆します!




