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マキータの回転魔槍と、不器用な彼女へのトルク管理

コウノスを「世界のバグを直す調和神」として狂信し始めたエルフの少女、リィン。

追い出すに追い出せず、ひとまず彼女を「チェアー(椅子)」に座らせて休ませるコウノスだったが、リィンのお腹から盛大な音が鳴り響き――?

死の大地で炊き上がる、完璧に定格制御された白米のぬくもり。

そして、リィンが抱える「もう一つの壊れた道具」に、ジャンク屋のプロの目が光る!

「ぐぅぅぅぅぅぅ……」

室温24度、湿度45%。

完璧にノイズがデバッグされた静寂の小屋の中に、およそ美少女のものとは思えない、盛大で情けない重低音が響き渡った。

音の発生源は、ベッドの代わりにパイプ椅子(座面にクッション敷き)に背筋をピンと伸ばして座っていた、エルフのリィンだった。

彼女は一瞬で耳の先まで真っ赤に染め上げ、うつむいた。

「あ、あの……申し訳ありません、我がマスター。神聖なる聖域の周波数を、私の不浄な腹鳴ノイズで乱してしまい……っ」

「いや、ただの生理現象だから。周波数とか関係ないから」

俺は工具箱の片付けを止め、やれやれと首を振った。

見れば、彼女の衣服はところどころ擦り切れている。

実家から追放され、この死の大地を数日間も彷徨っていたのだろう。ノイズで脳を焼かれかけていた上に、まともな食事も摂っていなかったに違いない。

「……ちょうどいいや。僕もそろそろ昼飯(定格補給)にしようと思ってたし。ちょっと待ってて」

俺は小屋の隅に鎮座する、もう一つの『超古代のジャンク』の前に立った。

丸みを帯びた白い筐体。前世の日本の家庭ならどこにでもあった、だがこの世界では失われた失われた至高のインフラ。

そう、**【魔導炊飯器(1升炊き仕様)】**だ。

これも炭素の砂漠から発掘した時は、制御基盤マイコンが過電圧で完全に焼き切れていた代物だ。俺がはんだごて一本で回路をバイパスし、ミリ単位の熱量制御プログラムを5Wの魔力で組み直して蘇らせた。

「主よ、それは……古代の封印魔導炉ですか?」

リィンが恐る恐る尋ねてくる。

「いや、米を炊く機械。……あ、お米っていうのは、僕がこの地で見つけた穀物のことね」

俺は砂漠のオアシス(ノイズの隙間)で自生していた稲の穂から、手作業で脱穀・精米した、ピカピカの白米を内釜に入れる。水加減は、内側の目盛りに狂いなくピタリ。

コンセント(魔力接続端子)を差し込み、俺の5Wの魔力を微弱電流として流す。

ピッ、と電子音が鳴り、液晶画面に『白米・急速』の文字が浮かんだ。

「この異世界の料理は、強火(高出力)で一気に焼くことしか考えてない。だから中身がパサパサになるし、焦げるんだ。熱量っていうのはね、吸水、沸騰、蒸らし、それぞれの工程に最適な『定格の波』があるんだよ」

ブツブツと早口で呟く俺を、リィンは息を呑んで見つめている。

数十分後。

ピー、ピー、ピー、と心地よい報知音が鳴ると同時に、炊飯器の蒸気口から、圧倒的な「暴力」が解き放たれた。

ツヤツヤと輝き、一粒一粒が自立するように美しく立ち上がった、炊き立ての白米の香気。

「な、なんという……甘やかで、脳の奥を揺さぶるような馨しい香り……っ! これが、5Wの奇跡……!」

「大袈裟だな。ほら、冷めないうちに食べて」

俺は木を削って自作した茶碗と箸に米を盛り、彼女に手渡した。一応、砂漠の塩ゴボウで作った即席の漬物も添えておく。

リィンは、震える手で箸を持ち、白米を一口、口に運んだ。

その瞬間。

「――っ!?」

彼女の身体が、ビクンと硬直した。

噛み締めた瞬間、口いっぱいに広がる圧倒的な澱粉の甘み。ふっくらとした水分量。優しく胃の腑を温めていく、完璧にコントロールされた熱の塊。

「美味しい……美味しいです、マスター……っ! 帝国で食べたどんな高級な宮廷料理よりも、この白い粒は……暖かくて、身体の芯の傷が、溶けていくみたいで……っ!」

大粒の涙をボロボロと流しながら、リィンは猛烈な勢いで白米を掻き込み始めた。

喉を詰まらせないか心配になるほどの食べっぷりだ。

「……良かった。前世の象印の設計思想は、異世界のエルフにも通じるみたいだね」

俺は冷たい麦茶を注ぎ足しながら、ふと、彼女の腰のベルトに引っかかっている『もう一つのジャンク』に目を留めた。

それは、ピストルのような形状をした、緑色の硬質プラスチック製の道具だった。

先端には、六角形の金属ビットが差し込まれている。

(あれは……魔導回転槍(電動ドライバー)のジャンク!? しかもロゴの擦れ具合からして……『マキータ(超古代ブランド)』の製品じゃん……!)

前世のジャンク屋時代、何百台と分解・修理してきた大好きな工具の姿に、俺の職人魂が、本日二度目のドクンという跳ね上がりを見せた。

「ねぇ、リィン。それ、ちょっと見せて」

「ふぇ? あ、はい! 食べかけで申し訳ありません!」

リィンから受け取った『マキータ』は、外殻がひどく傷ついていた。

トリガー(引き金)を引いても、ウンともスンとも言わない。完全にモーターのコイルが焼き切れているか、内部のバッテリー(魔石)が過放電を起こしている。

「これ、君が使ってたの?」

「はい……。実家を追放される前、護身用にギルドのジャンク市で買ったのですが、一度使ったら『ギャギャギャ!』と恐ろしい悲鳴をあげて煙を吹き、それ以来、動かなくなってしまって……」

「あー、典型的なオーバートルク(過剰負荷)だね」

俺は使い古したプラスチックのボディを愛おしそうに撫でた。

「ネジを締めるのにも、穴をあけるのにも、素材に見合った最適な『回転数とトルク(締め付け力)』があるんだよ。この異世界の連中は、とにかくトリガーを最大まで引いて、出せる限界のパワーで力任せにネジをねじ込もうとする。だから中のギヤが噛み込んで、モーターが過電流で焼き切れるんだ」

不器用な彼女は、きっとこの道具の「限界(定格)」を知らずに、ただ必死に力を込めてしまったのだろう。

「リィン。君は、ちょっと不器用だけど、真面目な子だね」

「えっ……? あ、あの、突然何を……」

「白米の食べ方を見てて分かった。一粒もこぼさないように、箸の角度を均一に保とうとしてる。君は、自分の力を『均一に保つ』素質がある。……だったら、このマキータは、君に一番向いてる工具だよ」

「マスター……」

「よし。お礼(白米の代金)代わりに、これ、君の手に馴染むように『トルク管理回路』を組み直してあげるよ」

俺ははんだごてを再び握り、ジャンク屋の、プロの目の色になった。

追放された5Wの無能と、不器用なエルフ。

エアコンの風が優しく吹く中で、壊れた工具のデバッグが、静かに始まった。

(第4話へ続く)

第3話をお読みいただき、ありがとうございました!

5Wの魔導炊飯器が叩き出す白米のポテンシャル、恐るべし。リィンちゃんの胃袋は完全に秋葉原のジャンク屋に支配されました。

そして登場した、超古代のロマン工具『マキータ』!

次回第4話は、コウノスがリィンに「正しい工具の使い方(トルク管理)」を優しく(?)指導する、ガチの技術職人回です。しかし、そんな平和なアキハバラ(予定地)に、実家からのタコ足配線なアイツが早くも迫りくる……!?


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