episode4 思い出
翌日、昼の12時頃にいつもの公園に集合した。集合してから5分程で春翔の叔父さんの裕翔さんが車で迎えに来てくれた。挨拶をしてみんなで車に乗り込む。
「みんな元気そうだね」
裕翔さんが笑いながらそう言った。凄く優しそうな人だ。
「裕兄久しぶりに見たなー」
「2ヶ月ぶりくらいか」
優と裕翔さんが話しているのを見た感じ仲が良さそうだ。諒とも自然に話しているので、きっと2人のことは前から知っていたのだろうと分かる。
「2人は初めて会うね」
私と茜に声をかけてくれる。「よろしく」と微笑みかけてくれたので私たちもよろしくお願いしますと返した。
裕翔さんは本当に優しい人で、途中でコンビニに寄って飲み物やアイスを買ってくれた。
「ありがとう、裕兄」
優は裕翔さんに懐いているようで、まるで本当の兄のように接している。
「じゃあ、いつものところに行こうか」
裕翔さんが再び車を出す。私と茜はいつものところが分からないが春翔たちはテンションが上がっている。1時間ほど車に揺られると知らない地域に着いた。そして更に田舎の山道を通る。15分程すると目的地に着いた。車を降りると春翔が先頭を切り、草が生い茂る下り道を降りていく。
「草生えすぎ…虫出そう」
文句を垂れた茜に諒があと5分は歩くと助言し、茜が絶句する。諒の言う通り5分程歩くと波の音が聞こえてくる。
「着いたー!」
春翔が嬉しそうに走り出す。優も待てと言わんばかりに春翔を追う。2人の行く先を見れば青々と綺麗に光る海が見渡せた。
「わ、綺麗」
茜もやっと草から解放され、綺麗な海を見れて嬉しそうだ。
「ここ、夜になると星が綺麗なんだよ」
海へ真っ先に駆け出した3人を見ながら私と茜の横に立つ裕翔さんが言った。確かにここは街灯がないから星がよく見えるかもしれない。
「小羽と茜も来いよー!」
どんなものかと想像していると、こっちに来いと手招きをする春翔たち。
「見て!カニいた」
私たちが近付くと少し大きめのカニを春翔がこちらに向けてくる。茜は嫌そうに後ずさりする。
「触る?」
「それはいい」
春翔の言葉に即答で断った。茜はシーグラスを優と探し、諒は写真を撮ったりしている。飽きない私たちは鬼ごっこを始めたりもした。みんな好きなように行動しているところを裕翔さんが見守ってくれる。そうしてしばらく遊んでいると徐々に空が暗くなってきた。
「そろそろ準備するか」
「なんの?」
「バーベキュー」
「え!?」
私と茜は知らなかったので一緒に驚く。
「みんな準備するよー」
裕翔さんが奥から声をかけたので裕翔さんの元へ行く。バーベキューなどいつぶりだろうか。男子が力仕事をして私たち女子は運ばれてきた道具を準備する。ようやく準備が終わり、いよいよ始まる。裕翔さんと春翔が焼いてくれるらしい。焼けるのを待っている間みんなで雑談をしていると徐々にお肉や野菜の焼ける美味しそうな香りが漂いだす。裕翔さんが焼けたお肉をお皿に移し、私たちが取れるようにしてくれる。
「いただきまーす!」
裕翔さんに焼くのをお願いした春翔が威勢のいい声でそう言い、お肉を頬張る。
「最高に美味い!」
「おい、飛ばすなよ!汚い」
口に入れたまま喋り、食べカスを飛ばした春翔に優が怒る。
「お前ら本当に元気だな。こっちも元気出るよ」
その様子を見て裕翔さんが笑う。
「なんでこいつは裕兄みたいに爽やかじゃないんだよ」
「は?俺も爽やかだろ」
「うるさいだけでしょ」
「諒。お兄さんに向かって口の利き方が悪いな」
「お兄さんって思ったことない」
3人の会話に私や茜、裕翔さんは絶えず笑う。春翔の危なっかしい行動を裕翔さんは昔から見守っていたと思うとなんだか微笑ましい。
みんなでワイワイ騒ぎながらBBQを楽しむ。ふと夜空を見上げると、どこまでも続く暗闇の中に数えきれないほどキラキラした粒が散りばめられている。
「綺麗」
私の様子を見てみんなも一緒に夜空を見上げた。
「俺今幸せだわ」
「は?なんだよ急に」
春翔の言葉に優が気持ち悪がる。「急すぎだろ」とみんなで笑った。けど、春翔の気持ちが凄くよく分かる。私も今、とても幸せだ。
.
.
それからもBBQを楽しみ、いい時間帯になってきた頃に車に戻った。
「あー、楽しかった」
「お腹もいっぱいだよ」
「みんなが楽しめたならよかった」
裕翔さんが運転しながら微笑む。
「これどこ向かってるんですか?」
「それ思ってた。家と逆方向だよ」
「2人共お泊まりセットは持ってきてるんだよね?」
「はい。春翔に言われたので」
「なら不安になることないよ」
そうは言われても何も知らない私と茜は何が何だか分からない。春翔に言われてお泊まりセットを準備させられたが、理由は知らないのだ。いつものように諒の家かと思ったが、逆方向に向かっているのでそうでもなさそうだ。
結局何も分からないまま車に揺られる。これまた春翔たちはどこに行くかを分かっているようだ。どれくらい車に乗っていたかは分からないが、結構長かったと思う。目的地に着いてようやくお泊まりセットが必要だった理由が分かった。
「ホテル!?」
私と茜の言葉が被る。目の前には綺麗で豪華なホテル。一体どういうことか。
「部屋がめっちゃ広いんだよ、俺らの泊まるところ!」
「ちょっと待って。手持ちのお金で足りるか…」
「大丈夫だよ。俺が出してるから」
そう裕翔さんが言うが、ただでさえ車を出してもらってBBQの用意までしてくれたのだ。流石に気が引ける。
「春翔が頼んだんでしょ」
「うん。裕兄来たときじゃないとこんな贅沢できないし」
「あんた人様のお金で…」
みんなの会話に裕翔さんが笑う。
「いいよ、行っておいで。帰りは迎えに来るから」
私と茜で必死に頭を下げてる中、春翔たちは軽くお礼を言って車を降りていく。
「早く来いよー」
どうやらこれ以上は待てないようだ。裕翔さんも急かすので私たちも車を降りる。
「じゃあ、楽しんでおいで」
窓を開けてそう言うと裕翔さんは颯爽と車で行ってしまった。
「よし、行くぞ!」
春翔が先陣を切り中に入っていく。私たちも初めての場所に少し緊張しながら中に入る。春翔と優が受付をしている間、私たちは大人しく待つ。
「広いしお洒落…」
「凄いね…」
「何緊張してんの」
私と茜の様子を見て馬鹿にしたように諒が鼻で笑う。
「逆になんでしないの?」
「寝るところがいつもと違うだけじゃん」
「あんた人間じゃないよ」
諒の落ち着きぶりに恐ろしくなる。 春翔と優が戻ってきた。
「6階だってさ」
「早く行こうぜ」
落ち着きのない春翔に引っ張られ、みんなでエレベーターに乗る。6階を押し、1階、また1階と登っていく。6階に着きドアが開くとエレベーターを出て部屋を探す。
「ここだ!」
「こら、静かにしなさい」
相変わらずうるさい春翔に優がお母さんのように怒る。ドアを開けて入ってみると思っていた以上に広い部屋が見渡せた。
「すげー!」
「めっちゃ広いじゃん!」
春翔に続き茜まで騒がしくなる。こんなに広いホテルは初めてだ。夜景が見渡せて、みんなで寝るには狭くはあるがベッドもかなり大きく、部屋全体が広々としている。
「裕兄に感謝だね」
「うん。改めてお礼しなきゃ」
「ていうか、ずっと思ってたんだけど諒が持ってるその袋何?」
「酒」
「なんであんの!飲むの!?聞いてない!嬉しい!」
「茜落ち着いて。諒の家にあったから持ってきたんだって」
「どうせ飲みたくなる奴がいるでしょ」
諒がそう言いながら茜と春翔を見る。
「バレた?」
「無くても俺は買うつもりだった」
「そろそろ依存性になってそうで怖いよ」
「1番飲む優が言えることじゃない」
「小羽?俺のこと敵に回すの?」
ホテルにお酒と、気分が高ぶったみんながいつもより騒がしい。
「お風呂入ってから飲もうよ。その方がゆっくりできるし」
私の提案にみんな納得し、お酒を設置されている冷蔵庫に入れて順番で入っていく。
「茜遅せぇ!」
「だから最後なんでしょ?」
「怜さんいないんだから何しても一緒だろ」
「女心分からずにそういうこと言う男はクズって言うんだよ」
「諒よりはクズじゃない!」
「巻き込むの辞めてくれる?」
みんなで話しているとやっと茜も上がってきて、みんなでテーブルの周りに座る。
「はい、みんな開けて!」
多方面から聞こえるプシュッという音が既に美味しい。みんなが缶を上に挙げると春翔の「乾杯!」という声と共に缶のぶつかり合う音が聞こえた。ほぼ同時に喉に流し込んだアルコール。やはり美味しい。持参してきたおつまみをつまみながらお酒と共に流していく。しばらくすればアルコールが効いてきたのか、話が盛り上がり静まり返ることを知らない。
「ていうか、せっかくホテル来たのにいつもとやってること変わらないじゃん!」
「確かに。でも、他にやることないし」
「ホテルってみんな何してんだろうね」
「そんなの男と女がイチャついて」
「お前まじ最低。なんでそういうこと言うの?」
「イチャつくしか言ってないし。変なこと考えてんのお前だろ!」
「落ち着いてよ、2人共。諒がきしょくて仕方ないって顔してる」
「諒はやることやってるんだからそんな顔していいのは私だけだよ」
「だから…俺がやってる設定作ってんのなんで?」
「設定じゃないだろ!俺はしっかり見たぞ!ゴミ箱に捨てられた」
「それ以上言うな。私も女を連れ込むところ見たけど!」
下ネタばかりの話に痺れを切らし、優が怒りだす。
「なんでお前らはいつも下ネタばっかりなんだよ!」
「優もちょっと楽しんでるくせに」
「楽しんでない!茜は逆に楽しみすぎだよ!」
「でも、なんだかんだ盛り上がるのは下ネタでしょ?」
「お前冷静な顔でなんてことを…」
「春翔たちのせいでしょ。小羽がこうなったのは」
それからもしばらく雑談が続き、深夜2時。
茜が口に棒状のものを入れ、ライターで火を付けた。
「え、茜煙草吸うの?」
「ちょっとだけだよ?たまに吸うだけ」
「茜煙草嫌いじゃん」
「うん。でも、あの人が吸うから。寂しくなったときとか、会いたくなったときに吸ったらあの人の匂い思い出せるの」
あの人というのは茜が好きな怜さんのことだ。冒頭でも少し話したが、茜は裕翔さんの友人である怜さんに恋をしている。気になる点はあるだろうが、それは次の話で詳しく。
「怜さん許してくれてんの?」
「ううん、反対された。けど、私が駄々こねたらどうしてもってときだけってくれた」
「ほんとよかったな、怜さんで。お前完全アウトだぞ」
呆れた様子の春翔と優。きっと茜の体の心配をしているのだ。周りからは不良やらヤンキーやらと呼ばれるが、春翔たちは人に迷惑をかけたりすることはない。深夜徘徊、喧嘩、お酒、煙草などは人に迷惑をかけないならしていい、そういう考えの人たちで。一般的にはありえないだろうが、誰にも人の考えを否定していい権利はない。茜がこれで誰かに迷惑をかけたりするならきっと本気で叱るだろう。
「吸うのはいいけど吸いすぎは無しね」
「うん。優に嫌われたくないから守るよ」
「じゃあ、いい」
優がそう言うと茜はニッコリ笑った。諒を見るとどこか切なそうな表情をしている。諒はとにかくポーカーフェイスなので感情が表向きには分かりにくいのだが、どこか私と似ているところがあるので私にはなんとなく分かる。いくら受け入れているとはいえ、思うことはあるのだろう。しばらくすれば吸い終わったようで、茜は煙草の火を消した。
「もうそろそろ寝よっか」
歯磨きを済ませると、みんなどう寝るかについて話す。
「流石に普通の寝方じゃ5人は無理」
「寝相悪い奴は?」
「小羽と茜」
「じゃあ、お前らは床とソファーで寝てくださーい」
「無理!みんなが詰めたらはまるじゃん!」
「いや、余裕もって寝たいんだけど」
「じゃあ、諒がソファーね」
「それは無理」
「はいはい。どうせみんなベッドがいいんだから今日は狭い中寝るよ!」
優の言葉に諒が嫌そうな顔をしたものの、5人並んで寝ることにした。寝相が悪い私と茜は強制的に両サイドの端にされた。私の右隣には春翔がいる。5人もいるため、ぎゅうぎゅう詰めでお互いの肩が触れる。それだけで私の胸が高鳴ってしまう。
「まじで狭い。春翔もうちょっと寄って」
「これ以上寄ったら小羽が落ちるだろ!」
「諒が1番幅取ってるんだから我慢してよ。ガタイいいせいで狭いよ」
「俺のせいじゃない」
そう言い合いをしているうちに再び眠気が襲ってきたのか、静まりだす。
「電気消して…」
「そういえば、消してなかったね」
「もうこのままでいいんじゃね。動くの面倒くさいし」
「駄目。私真っ暗じゃないと寝れない」
「わがままかよ。端っこの茜か小羽が消せよ」
「ええ、動きたくない」
私が駄々をこねると消せと言い出した茜が仕方なくベッドから起き上がり電気を消した。
「みんなおやすみ」
「おやすみー」
そう言って15分程経つと相当眠かったのか、みんなの寝息が聞こえ始めた。私は中々寝つけず、何もない天井を眺める。
「んー…」
小さく唸りながら春翔が寝返りをうつ。狭いからか寝にくそうで、眉間にシワが寄っている。どうせ私はまだ寝付けないし、寝るまでソファーにいれば少しは楽に寝れるかと思い、ベッドから出ることにした。そっと起き上がり、足を床につけたとき右手に温かい感覚がした。振り向いてみれば春翔が私の手を握っている。
「え、」
咄嗟に小さく声が漏れてしまう。起きているのかとしばらく顔を見るが、寝息が聞こえるばかり。起こしてしまいそうで動くか迷う。私はソファーから出ることを辞め、ベッドに足を入れ直した。春翔はまだ私の右手を握ったままだ。安心したからか、なんだか急に眠気が襲ってきて私は目を閉じた。
.
.
.
.
.




