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episode4 日常と気配

リビングから聞こえる物音で目が覚めた。時刻を見るともう10時。隣ではまだ春翔が寝ている。起こさないようにゆっくり立ち上がり、リビングに出た。

「あ、起きたんだ」

ドアを開けた音に気付き、テーブルを片していた茜がこちらを振り向いた。

「春翔と一緒に寝ちゃってー」

「腰が痛かったから借りただけだよ」

ニヤニヤして私を見てくる茜にそう言って私も片付けるのを手伝う。

「優と諒は?」

「ゴミ捨てに行ってる」

「そうなんだ」

「春翔はまだ寝てるの?」

「うん。昨日夜中に起きてたみたいだし眠り足りないのかも」

玄関の方から声が聞こえ、ゴミ捨てに行っていた2人が帰ってきたと分かる。

「ただいま。あ、小羽も起きたんだね。おはよう」

天使のような笑顔を私に向ける優。右頬にできる浅い笑窪が更に可愛さを引き立たせる。

「お前人のベッドで勝手に寝るなよ」

「ごめん。腰痛かったし諒だからいいかなって」

「諒がいろんな女の子を抱いたベッドに小羽と春翔が…!」

「は?してないし」

「諒…その嘘は通じないよ」

「いやいや、何その顔。嘘じゃないし」

茜の寸劇に優も混ざる。諒と見知らぬ女の子たちが一緒に寝てきたベッドか…。ちょっと気持ち悪い。ごめん、諒。

「何、朝から…うるさい…」

私の背後から声が聞こえ、みんなで一斉に振り返る。

「あ、春翔。おはよう」

「おはよう…何で盛り上がってんの」

「諒が女の子を抱いたベッドで小羽と春翔が寝たことに盛り上がってたんだよ」

優の言葉に春翔が少し黙り込み、口を開いたと思えば少し困惑した様子で話す。

「…え、いや、俺たちしてない」

「…誰もあんたと小羽がしたとか言ってないんだけど。辞めてよ、気持ち悪い。引っ張叩くよ?」

「真顔で酷い言葉並べないであげて、茜」

「ツッコむところおかしいから。俺してないって」

「お前それはもう手遅れだぞ」

「は!?春翔までそんなこと言う?」

「どんまい、諒」

「全然励みになってないし。そもそも原因お前だからね」

ずっと無駄な否定をし続ける諒。もう諦めろという顔で話を聞かない優と春翔と茜。いつも通りの会話にふと疑問に思う。

「そういえば、優学校は?茜と春翔もバイトじゃないの?」

「俺は学校休むことにしたよ。今日くらいいいかなって」

「私も」

「俺は元々ないけど優は分かるとして、茜は今日だけじゃないだろ」

「こんな状態で行ったってまともに働けないもん」

「お前あんだけの量で二日酔いになったの?」

「茜の場合は二日酔いとかじゃなくて甘えだと思うよ」

「流石優!よく分かってる!結婚しよ!」

「ありがとう。気持ちだけ受け取っとくよ。甘えって自覚はあるんだね」

みんな休みということは今日はずっと一緒にいるのだろうか。最近一日中一緒だったことはなかったから嬉しい。

「今のところ晴れてるし、今日は花火できそうだね」

「それまでどうする?」

「映画見たい」

「いいじゃん!ホラーね!」

「お菓子とかないし買いに行こうよ」

優の言葉に賛成し、みんなで何を食べるか話しながら靴を履く。

「ポップコーンは欠かせないよな!」

「コーラと三ツ矢サイダーも買わないと」

そんな会話をしながらコンビニに着き、目的のものを買う。家に着くと早速お菓子やジュースを広げた。諒の家にあるソファーは大きくて贅沢に座れるのが助かる。右から優、私、春翔、諒、茜の順がいつも座る並びだった。今日もその順番で座り、優が部屋の明かりを消した。

「何見る?」

「ITしか勝たん」

私がITと言いかけたときに茜が先に言う。同じ気持ちだったようだ。

「お前本当にIT好きだな」

「IIはみんなで見たことなくない?」

「II見ようよ!最後吐き出されたガムみたいになって面白いんだから」

「どういうことだよ」

みんなで話す中、諒がリモコンでITを探す。

「最初グロかったんだよなー」

「お前ネタバレしてきそう」

「ネタバレしたら1発ずつ食らわすゲームする?」

「映画に集中してよ」

優が呆れたように言ったとき、いよいよ始まった。さっきまでうるさかった部屋は映画の音だけが響く。みんな集中しているようだ。時々誰かが悲鳴を上げたり、春翔がいきなり大声を出して茜が驚いたり、諒がコーラを盛大に零したりとトラブルを起こしながらも終盤にきた。

「来る来る来る!吐き出されたガム来る!」

「うっわ!気持ち悪!」

「想像以上に吐き出されたガムだ」

「でしょ?言ったじゃん。可愛い」

「可愛くないでしょ」

終盤はみんなで興奮して騒いでしまったが何とか見終わった。

「いやー、やっぱり面白かった」

「リッチー最高!」

「ずっと言ってるじゃん」

見終わったあとはまた別の映画を決め、見始める。これを繰り返して過ごしているうちに外は暗くなっていた。

「もう6時じゃん」

「そろそろ花火行こっか」

テーブルの上を片付け、花火に必要なものを持って外に出る。夜道を歩いていると誰かのスマートフォンが鳴る。

「誰かスマホ鳴ってない?」

「私だ」

茜がスマートフォンを見ると、最悪とでもいうように顔をしかめた。

「先生からだ…連絡するの忘れてた」

「馬鹿だろ」

「俺もしてない」

「春翔と諒は諦められてると思うよ」

茜が少し離れたところに行き、電話に出る。

「小羽もくるんじゃない?」

「うん。今お母さんに連絡してもらうように頼む」

お母さんに学校に電話するよう頼み、スマートフォンを直すと茜も丁度戻ってきた。

「めっちゃ怪しまれたわ」

「だろうね。全員休みだし」

「まあ、花火して忘れよ!」

自分も関係しているというのに脳天気な春翔がそう言い、また海に向かう。

「星めっちゃ見える!」

「綺麗」

「電灯が少ないからよく見えるね」

空を見るとどこまでも続いていく暗闇の中にキラキラと光る星が沢山散らばって輝いていてとても綺麗だ。

「よし!花火するか!」

春翔がそう言うと、それを合図に水を組んだり、怪我に繋がらないようライトを照らしたりと準備をした。自分の気になる花火を1個ずつ取り、優が火を付けていくとバチバチと音を立てながら綺麗な火花を咲かせて花火が付きだす。

「めっちゃ綺麗!」

「お前の火力凄くない?」

「諒の性格と一緒じゃん」

「は?」

「ちょ!危ねぇ!向けてくんな!」

春翔と諒がおちゃらけだしてみんなで笑う。火が消えればまた新しく火を付けてずっと火花を咲かせる。暗闇の中に5つの光。きっと遠くから見ても綺麗だろう。春翔が花火を振り回したり、それを優が注意したり、諒が優に花火を近付けたりと、みんなでわーわー騒ぎながら花火をしているとすぐに無くなり、残ったのは線香花火だけになった。

「よし、誰が1番長く保てるか勝負な!負けたやつアイス奢り」

輪になって集まると線香花火に火を付け、勝負が始まった。誰一人として喋らないので波の音だけが聞こえる。みんな絶対に奢りたくないのだろう。いつも奢られる側の諒を負けさせたいのか、春翔が諒の脇腹を擽りだす。必死に耐えているが元々擽りに弱いのもあって体が少しずつ動いていく。すると1つの火花が地面に落ちた。誰のかと見てみればそれは春翔のだった。

「春翔、落ちてるよ」

優がそう言うと春翔が驚いた顔で地面を見る。

「え!?なんで俺の!?」

「バチが当たったんでしょ」

奢る人が決まり、みんな落ちるまで気楽に喋る。1つ、また1つと落ちていき、私だけが残った。

「小羽すげえ」

「普段からそんなに動かないしね」

悪口を言われているようだが正論なので何も言えない。面倒くさくなり自分で火を消せば花火は終了した。まだ遊び足りてない様子の男子がいるのでしばらく3人が走り回っている姿を茜と2人で見守る。

「馬鹿っぽいな」

「馬鹿なんだよ」

茜と2人で女子トークをしていると息切れしながらこちらに歩いてくる3人の影が見えたので、遊び終わったことに気付く。私と茜も立つと、「行くか」と春翔が疲れた顔で言う。走りすぎだ。

.

.

コンビニに行くと約束通り春翔は全員分のアイスを奢った。みんなでアイスを食べながら帰る。途中で諒と茜と別れて私たち3人で帰った。優とも別れ、春翔と2人。

「小羽さ、まだ時間ある?」

「うん」

「じゃあ、ちょっと付き合ってよ」

春翔が口を四角にして笑う。急な誘いと春翔の笑顔にドキドキした。

暗くて少し肌寒い外を2人で並んで歩く。私よりずっと身長の高い春翔を見上げると春翔は星が輝く空を見ていた。

「何かあったの?急に誘うって」

「何も!まだ帰りたい気分じゃないし、小羽もそうかと思って」

「うん。帰りたくなかった」

「だろ」

春翔がこちらを見て笑うのでまた胸がドキドキする。油断ができない人だ。

「俺さ、どっか遠いとこ行きたいんだよね」

「え?」

「誰もいないところ」

春翔が少し落ち着いた声でそう言う。昨日の胸騒ぎが再度起こる。

「1人?」

「うん。1人」

春翔の返答に足が止まる。少し先へ行った春翔が気付き、足を止めて後ろを振り向く。

「どうした?」

「…嫌だよ」

「ん?」

「1人とか…嫌だ」

「どうしたんだよ」

春翔は笑っているけど私は本当にどこか遠くに行ってしまいそうで心配なのだ。いつかふらっと姿を消すのではないかと胸が苦しくなる。

「春翔がいないと嫌だよ」

自然と声が震えてしまう。

「小羽が感情的なの珍しいな」

「春翔!」

あまりにヘラヘラしている春翔につい怒りが湧いてしまう。

「大丈夫だよ。俺がお前らから離れられるわけないだろ?」

そう言うけど、春翔は機会があれば今すぐにでも離れられるだろう。私にはそんな気がしてならないのだ。私たちの前から春翔がいなくなってしまったら。きっと私はそんな生活耐えられない。春翔と出会う前の生活に戻るなど、考えられないのだ。

「そんな顔すんなよ」

春翔が私のところに来て昨日と同じように頭を雑に撫でる。

「春翔がいないと嫌だよ」

その手の温もりで我慢していた涙が零れてしまった。柄にもない。泣きたくなんかないのに。

「…ありがとう」

「何かあるなら言ってよ。1人で抱え込んでほしくない」

「…おう」

「春翔がいないなんて耐えられないよ」

時間のせいか、春翔のせいか。気持ちを抑えることができず、素直な気持ちをぶつけてしまう。春翔が私を優しく抱きしめる。初めてのことで緊張して体が強ばる。

「小羽がそんな風に思ってくれてんの嬉しい」

見えないけど、きっと口を四角にして笑っている。

「うるさい」

「急に冷てぇな」

私が泣き終わったのを確認して春翔が離れる。

「みんなでならいいだろ?」

「みんな?」

「明日俺の叔父が帰ってくるからドライブ連れてってもらおうぜ」

「…うん!」

「そろそろ帰るか」

そう言って春翔が私の手を取って歩き出した。

.

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