そのに
ある日のことである。
二年周期の交代で、砦に新しい人員がやってきた。
魔の森の砦は圧倒的に不人気な現場なので、重要度が高いわりに人員は尖っている。
とりあえず連携が取れて指示に従える程度の最低基準の認識は持ち合わせていても、俺のように好戦的な性質の獣人や、身体欠損を戦闘用の魔導装具で補った騎士崩れ、中には生体をわざわざ魔導装具に変えた戦闘狂もいる。
その辺の傭兵隊よりガラの悪い連中がワサワサとむさくるしい状態でやってくるのが常なのだ。
ただ、今回は一人だけ変わったのが混じっていた。
人間の女である。
造作は整っていて、美形の範疇。
背が低く、ちんまりして、肉付きも微妙だ。胸以外は。
目立つ双丘はたわわであるのに、まったくもって色気を感じないのは、ひっつめた長い髪とぽへ~とした間の抜けた表情のせいかもしれない。
美人の基準は満たしているのに、美人に見えないのが不思議だ。
絶対に少女と呼べる年齢ではないし、乙女と呼ぶには何かが足りないし、とりあえず女だとわかるが、年齢不詳な感じでもある。
なんだありゃ? と心の中だけでつぶやいたが、他の者も似たような顔をしていた。
オカシイのが混じっているとざわつく男たちの中で、たった一人喜ぶ者がいた。
俺たちの中では「微笑みの天使」と呼ばれている魔導医師だ。
糸目すぎて常に笑っているように見えるジジイで、美しさ皆無の天使だが。
「苦節五年。やっとワシ、医療に集中できるの~やれやれじゃ」
医者なのに魔導装具までやらされてしんどかったと、ホエホエと笑っている。
どうやらあの女は、爺さん待望の専門の魔導装具師らしい。
ジジイは魔導医療の専門家で、天国の門を越えた患者すら現世に連れ戻すと噂されるぐらい凄腕なのだが、凄腕すぎて「一人で大丈夫だよね、天使だし」って今まで上部に申告を無視されていたらしい。
ジジイにしたら、できないことはないが専門外なので、いい迷惑である。
本物の魔導装具士でついでに医療の知識もある奴をよこせと、ここに派遣されてからずっと要望を出していたそうだ。
魔の森に来たがる魔導医師など皆無なので、ジジイはここから離れられないらしい。
戦闘員と違って医師は任期が長いな~俺と一緒で仕事が趣味の、魔の森大好き人間かもしれない、といった程度の認識で見ていたので、とんだ勘違いをしていた。
魔導・医療関係の人員要望は部署が違い、俺を通さないので実状に気付かなかった。
酷い話だ。交代要員ゼロだと、休日すらない激務なのに。
ジジイ天使がぽっくり逝って、本物の天使になったらどうしてくれる。
親父皇帝に言ってその辺はキッチリ改善させることにして、魔導装具士の女のことはとりあえずジジイ天使に頼んでおいた。
とりあえず同業種のよしみで、タッグを組む相棒として扱ってくれるようだ。
一応、ジジイ以外は若い男なので、ひ弱そうな人間の女の身の回りの世話を頼む気にはならなかった。
それでも、隔絶された殺伐とした環境に、警戒心皆無の小娘が紛れ込むのだから、厄介ごとが起こるに決まっている。
初めは様子見でお互いに遠慮もあるが、一ヵ月もすれば色々と表面化する。
目に見える変化ほど、問題は大きい。
もちろん、良い事もあった。
戦闘系を専門とする魔導装具士という触れ込みは伊達ではなかった。
今まで義手や義足を使っている獣人は、人化状態でしか戦えなかった。
形状が人型で製作されているので、獣化すると外れてしまうのだ。
だが、女のつくる作新型の義肢は持ち主の姿の変化に合わせて、即座に形状を変えるし、耐久性もグンと上がった。
また、義手の中に内包した鎖や刃に仕込んだ魔導の発動マナは持ち主のマナを利用していたが、森に漂う自然のマナを吸引・放出することも簡単にやってのけた。
魔の森にある濃いマナを利用できれば、実質、利用できるマナ量が無限で尽きることはない。
義眼や魔導皮膚といった繊細でメンテナンスが頻繁に必要な物も、女は顔を合わせただけで相手の魔力の揺らぎがわかるらしく、患者が自覚していない不調まで看破して即座に正常な状態へと直していく。
魔導装具師は優秀な魔導道具師でもあるので、砦の中の備品や日用品の修理や製作もお手の物だった。
あの女が増えただけで、日常生活の便利度が爆上がりである。
医療知識も豊富らしく、ジジイの補佐だけでなく治療も行っていた。
ジジイ天使が手を叩いて喜ぶほど、彼女は多才で優秀だった。
そこはかとなく漂う変人臭が問題なだけで。
ガラの悪い男たちとも関わる距離が近くなると、厄介ごとは頻繁に起こる。
砦唯一の女にちょっかいをかける者が絶えず、満身創痍。死屍累々。
言語にできない悲惨な状態になってしまった。
主に砦の内壁が。
もう一度、言おう。
ズタボロになり、簡単に修理できないほど傷ついたのだ。
主に砦の内壁が。
「やばいっすよ! ごっそり魔力を持っていかれたっす!」
「アイスアローがぶっ飛んだんだぞ!」
「爆炎が追ってきて焦ったわ、マジで」
「俺なんて電撃だぞ!」
砦の内部の惨状の原因を聴きとるために、現場に居合わせた男たちを呼び出せば、その理由を「乳もケツも凶器だ」と口々に申し立てる。
心なし興奮した厳つい男たちの言葉に、俺は眉間に深いしわを刻むしかなかった。




