そのいち
五番目の皇子。
それも正妃・側妃もポコポコと子を産んで、変り種の愛妾から生まれた末子であると、身の振り方が難しい。
政略も望まれるのは上からで、婿入りも上から。
皇子の数が五人なら、当然ながら皇女も同じ数だけいるので、実質十番目の子供となると順番が廻ってくるはずもなく。
愛妾の母が獣人なので血の確かさも微妙。
それが狼殿下と呼ばれる俺である。
そもそも好戦的な獣人の血が濃くお上品な暮らしを受け付けない。
あってないような王位継承権を放棄して傭兵にでもなりたくとも、高貴な血筋が邪魔をしてホイホイと市井に降りることができず、ましてや他国に流れるわけにもいかない。
結局のところ、功績をたてて爵位ぐらい自力でもぎ取ってこいと、騎士団の中でも貴族籍を持つ者で構成された隊に放り込まれたが、上品すぎて水が合わず即リタイアした。
最終的に、自ら志願して辺境の魔獣討伐隊に身を置いた。
魔獣討伐隊が常駐するのは、国境に近い魔の森で人里から遠く離れている。
森から迷い出た魔物・魔獣を駆除したり、生態系を維持する程度に魔物・魔獣の数を調整するのが俺のお仕事である。
普通の王都生まれ・王都暮らし・御貴族様のボンボンなら半日で根を上げただろうが、狼殿下と呼ばれる俺にはちょうど良かった。
ちなみに狼殿下の狼は比喩ではなく、母親が銀狼の獣人である。
なんでも皇太子時代の父が皇族の義務で辺境視察に出ている時、運悪く飛竜の群れに出くわして、全滅を覚悟したところで獣人の傭兵団に救われた。
怪我人だらけの騎士団の連中も保護して、王都に届ける旅程はそれなりに遠く。
看病した傭兵の母と看病された皇太子の父は常に寝食を共にすることで、短くない旅路の間に深い仲になってしまったらしい。
怪我をして高熱を出した状態で、王城育ちの皇太子が野営に耐えられるはずもなく、緊急措置で獣化した銀狼人獣人の母がふかふかのお布団代わりになったそうだ。
柔らかな毛並みに包まれて、命をつないだのが二人のなれそめだと聞いている。
覇気も薄いひょろりとした貧弱な人間の父のどこが良かったのかと、解せぬ気持ちのまま母に聞いたこともあった。
だが、獣人の私よりも狡猾で激しいケダモノだからねぇと頬を染めてモジモジするので、聞かなきゃよかったと耳をふさいだのはいつだったか。
しかし、愛のパワーで王城暮らしを満喫する母と俺は違う。
自分の意志で人にも狼になれる身に、身分はむしろ邪魔なものだ。
一応は高貴な血筋なので一兵卒になれず、問答無用で面倒くさい団長なんて押し付けられたものの、そのぐらいはお城暮らし思えば耐えられる。
魔の森に満ちたマナでその身の半分に流れる銀狼の血は活性化されている。
王都では乱れがちな体内の魔力も整って、討伐隊に加わってから実に調子が良いのだ。
魔の森の近くに作られた砦の討伐隊は、任期が二年周期で人員は入れ替わるが、俺はかれこれ十年ばかりここにいる。
帰ってこいとか孫が見たいとの催促は届くけれど、いまさら皇子様ぶった暮らしなどしたくないし、御貴族様の貧弱なお嫁様を気遣うなんて面倒だから、手紙に目は通すが完全に無視していた。
美人の姿絵? なにそれ、焚き付けにちょうど良い。
母の子は俺だけだが、父には十人も子供がいるのだから、孫は他に託す。
兄上たちが俺の分までポコポコと頑張ればいい話だ。
悠々自適でこれほど暮らしやすい場所があるのに、今更、王城暮らしなど冗談ではないのだ。




