↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/28

それぞれの覚悟

 《終環》という敵の輪郭が見え始めてから、旅の空気は変わった。三人はそれぞれ、自分が何のために旅を続けているのかを、初めて言葉にする夜を迎えた。


「私は、ヴァンダールを取り戻す。それだけよ」


 焚き火を挟んで、リゼルが静かに言った。


「でも、故国が没落したのが本当に《終環》のせいなら――私はただ家を再興したいだけじゃなくなる。あの人たちが何をしたのか、突き止めなきゃ気が済まない」


「あたしは、家族」


 フィアがぽつりと続けた。いつもの明るさが、少しだけ影を潜めていた。


「物心ついた時には、もう一座に預けられてた。『光なき者』だからって、実の親がどこかに引き取られていったって話だけ、聞いたことがある。……もしかしたら、って思う自分がいる。あの紋様と、何か関係あるんじゃないかって」


 初めて聞く話に、ゼロは何も言えなかった。ただ黙って、フィアの言葉の続きを待った。


「大丈夫、湿っぽいのはここまで。あたしは深刻ぶるの苦手なの」


 いつもの調子で笑ってみせるフィアに、リゼルが小さく苦笑した。


「――で、あなたは?」


 矛先を向けられ、ゼロは少し考えてから口を開いた。


「俺は、自分の氷が何なのか、知りたいんです。剣の形になったり、こうして戦うたびに強くなっていったり……普通の氷魔法じゃないのは分かってます。でも、それが何なのか、誰も教えてくれないんです」


「知って、どうするの」


 リゼルの問いに、ゼロはしばらく黙り込んだ。


「……分かりません。ただ、正体の分からないものを抱えたまま、大事な人を守ろうとするのは、なんだか怖いんです」


 三者三様の目的が、焚き火の炎に照らされて、静かに重なり合っていた。誰かに命じられた旅ではない。それぞれが、それぞれの理由で、同じ方角を見ている。ただそれだけのことが、思いのほか心強かった。


 ふと、ゼロが口を開いた。


「これって、まだ『護衛の仕事』なんですかね」


 リゼルが、怪訝な顔をした。


「今更、何を言ってるの」


「いや……最初は、報酬をもらって、あなたを守るだけの仕事だったはずなのに。今は、俺自身が知りたくて、俺自身が追いかけてる。それって、護衛の範囲、超えてる気がして」


 リゼルは、しばらく黙り込んだ。それから、小さく笑った。


「――今更、契約書の話をするつもり? それなら、報酬は据え置きよ。文句は受け付けない」


「そういうことじゃなくて」


「分かってる」


 リゼルは、焚き火の炎を見つめながら、静かに続けた。


「あなたが、雇われたからついてきているだけじゃないってことくらい、とっくに分かってる。……それでいいのよ、別に」


 それ以上、何も言わなかった。だが、ゼロの中で、何かがすとんと収まったような気がした。「護衛」という言葉が、もう自分の立ち位置を正しく表していないと、初めて、はっきり自覚した夜だった。


「――なら、決まりね」


 リゼルが立ち上がり、剣の柄に手をかけながら言った。


「《終環》を追う。それぞれの目的のために」


「賛成」


 フィアが元気よく手を挙げる。ゼロも、静かに頷いた。


 その道すがら、宿場町で聞いた噂話が、頭の片隅に引っかかっていた。


「ヴァンダール国境の村で、得体の知れない病が流行ってるらしいぞ」

「聞いた聞いた。あっという間に村ごと弱っちまうんだと」


 その時はただの噂として聞き流していたが、《終環》を追うと決めた今、その言葉の意味が、ずっしりと重みを増していくようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。