小さき者の戦い
「――巨人の郷?」
カリナが提案したのは、意外な行き先だった。
「ガルムンドの連中は、人間とはまるで違う体格で戦う。力任せの戦い方じゃ通用しない相手だ。お前がガレオンに何を学ぶべきか、あそこに行きゃ分かる」
平均身長三メートルを超える巨人族の郷は、見るものすべてが規格外だった。人間はここでは「小さき者」と呼ばれ、多くの巨人は一段見下してくる――ただし、腕を認めさせれば態度は一変するのだと、道すがら住人が教えてくれた。
歓迎の宴の輪の中でも、ゼロはどこか上の空だった。頭の片隅では、ガレオンの大剣が振り下ろされる感触が、何度も繰り返し再生されていた。
(弱い奴は、守れない――か)
長老と呼ばれる老巨人に稽古をつけてもらうことになったが、最初の一撃で、ゼロは軽く吹き飛ばされた。
「ハハッ、力比べなら儂の勝ちじゃ。だが小僧、お前の武器は力ではなかろう。氷、じゃったか。ならば、儂の得物の間合いも、動きの癖も、全部利用してみせよ。力で敵わんなら、頭を使え」
何度も転がされながら、踏み込みの重さ、振り下ろす軌道、体重移動の癖を観察するうち、ゼロの中に少しずつ「勝てないなりの戦い方」が見え始めた。夜、一人で素振りを重ねる背中を、フィアが遠くから心配そうに見ていた。
「――らしくないね、あんな根詰め方」
「今は、そっとしといてやれ。あいつなりに、消化しなきゃならんもんがあるんだろ」
そしてある日、地面を凍らせて長老の足元を滑らせることに、ようやく成功した。体勢を崩した一瞬の隙に、氷の刃を喉元に突きつける。
「――ほう。力じゃ児戯にも及ばんが、悪くない工夫じゃ。カリナの見立て通りだったな」
その一言で、張り詰めていたものが、ふっと緩んだ。ゼロは久しぶりに、肩の力を抜いて笑った。
「ようやくいつもの調子。心配したんだからね」
駆け寄ってきたフィアが、その背中をばしんと叩く。
その夜、長老は焚き火の向こうで、ふと遠い目をしてこう漏らした。
「――昔な、蛇の紋を掲げた人間どもが、この郷にも来たことがある。儂らの力を『利用できる』と踏んだんじゃろう。追い返したが、あの目つきは今でも忘れん」
ゼロとリゼルは、思わず顔を見合わせた。カリナが、ぽつりと言った。
「お前、ガレオンにやられてからずっと、何かに追い立てられるみたいな顔してたな。……今は違う。少しは、自分の戦い方が見えてきたって顔だ」
そんな折、薬草を採りに行くと言って一人で郷を出たゼロが、半日経っても戻らない騒ぎがあった。郷の反対側の崖でしゃがみ込んでいるところを、呆れ顔のカリナに発見される。
「……お前、剣も魔法も一人前になってきたってのに、なんで方向感覚だけ壊滅的なんだ」
「自分でも謎だ」
「戦場で迷子になったら洒落にならんぞ」
以来、フィアは事あるごとに「迷子の氷使い」とからかい、リゼルは念のためにと、簡単な地図の描き方をゼロに教え込むのが恒例になった。




