武将 古田織部 第7話 形を覚える日々
庭の砂は、朝になると父が掃いた線でそろっていた。
重然はその線の上に立ち、右足を前に出した。
砂がこすれ、細い音がひとつ出る。
左足を寄せる。
腰が少し浮く。
「浮くな。」
父の声が落ちる。
重然は腰を沈めた。
足裏に重さが戻り、砂がわずかに沈む。
次の日も、同じ場所で同じ声が落ちた。
「右。」
重然は右足を滑らせた。
砂の上に細い線が伸びる。
「左。」
左足を寄せる。
腰の高さが少しだけ安定する。
父は重然の肩を軽く押した。
肩が揃っていない。
「ずれている。」
重然は肩の位置を直した。
影が砂の上でまっすぐになる。
別の日。
父は弓掛けの前に立ち、弓を手に取った。
「来い。」
重然は弓の前に立つ。
父は弦を軽く弾いた。
短い音が空気を押す。
「握れ。」
重然は弓を持った。
指の間に木の感触が入る。
「引け。」
弦を引くと、腕が震える。
弦が揺れ、光が細く跳ねる。
「止めろ。」
重然は揺れを止めた。
弦の張りが指に残る。
父はうなずき、短く言った。
「戻せ。」
重然は弦をゆっくり戻した。
音がひとつ落ちる。
また別の日。
槍の前に立つと、父は柄を重然に渡した。
「立て。」
重然は槍を立てた。
穂先が揺れる。
「揺らすな。」
重然は腕に力を入れた。
揺れが少しだけ小さくなる。
父は槍の中央を指で押した。
重然の腕が沈む。
「弱い。」
重然は握り直した。
穂先がまっすぐ上に向く。
日が変わっても、
父の言葉は変わらなかった。
「右。」
「左。」
「浮くな。」
「揺らすな。」
「止まれ。」
重然は毎朝、同じ線の上で足を動かした。
砂の上に残る足跡は、少しずつ揃い始めた。
弓の揺れは短くなり、槍の影はまっすぐ伸びる日が増えた。
庭の光が変わるたび、
重然の動きも少しずつ変わっていった。




