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武将 古田織部 第8話 爺の薪割

庭の奥では、爺が薪を割っている。

重然が近づくと、爺は斧を下ろし、ゆっくり振り返った。

「おう、重然か。」

声は低く、やわらかい。

父の声とは違い、空気を押さない。

爺は斧を脇に置き、割った薪を手でそろえた。

木の端が地面に触れ、乾いた音がひとつ落ちる。

「見てるだけじゃ、わからんぞ。」

爺は重然の前に小さな薪を置いた。

重然の足元に影が落ちる。

「持ってみい。」

重然は薪を両手で持ち上げた。

木の重さが腕に落ちる。

「そうそう。しっかりつかむんだ。」

爺は重然の手を軽く包むように触れ、

指の位置を少しだけ直した。

その動きはゆっくりで、力がない。

「ここを、こうや。」

重然の指が木の節に沿う。

爺は薪をもう一つ取り、

重然の前でゆっくり割れ目を見せた。

「割るときはな、木が教えてくれる。」

爺は薪の割れ目を指でなぞった。

「ここや。ここに刃を落とす。」

重然はその線を見た。

木の表面に細い筋が続いている。


「重然、よう見とけ。」

爺は斧を持ち上げた。

肩の高さまで上がると、動きが止まる。

斧が落ちる。

刃が木に入る瞬間、短い音がひとつ出る。

木が左右に開き、光が割れ目に差し込む。

爺は割れた薪を横に寄せた。

「ほれ、こうなる。」


爺は重然のほうを見た。

目元が少しだけゆるむ。

「おまえは、急がんでええ。

 ゆっくりでええんや。」

重然は割れた薪の線を見た。

朝の光がその線に沿って細く伸びていた。

爺は斧を持ち直し、

重然の頭を軽く一度だけ撫でた。

「また来い。」


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