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武将 古田織部 第68話 長久手の戦い

中入りの知らせが届いてから三日後の朝だった。

上久世荘の空気は、どこか張りつめていた。

風の向きが変わるたび、胸の奥がざわつく。

戦が遠くで燃え上がっているのが、肌で分かる。


昼前、馬の蹄の音が響いた。

昨日までの使者とは違う。

もっと深いところから、何かを引きずってくるような音だった。

使者は土埃にまみれたまま、重然の前に膝をついた。

「……長久手で、大きな戦がございました」

重然は息を呑んだ。

その声の震えだけで、ただ事ではないと分かった。

「池田恒興……討たれました。

  その子・元助も……森家の残兵も……

  別働隊は、ほとんど壊滅とのこと」

言葉が落ちるたび、胸の奥が冷えていく。

羽黒で森長可が討たれ、

今度は池田恒興が倒れた。

中入りの別働隊は、

家康方の奇襲に遭い、

長久手の谷で挟まれたという。

「秀吉様は……どうされる」

重然の声は、自分でも驚くほど低かった。

使者は首を振った。

「まだ分かりませぬ。

  ただ……中入りは、これで止まるでしょう。

  秀吉様は、尾張の地を固め直すおつもりかと」


重然は空を見上げた。

雲が速く流れていく。

戦の熱は、まだ遠い。

だが、その影は確実にこちらへ向かっている。

池田恒興が倒れたという事実は、

戦の流れが大きく変わったことを示していた。

右近からの命は、まだ届かない。

だが、鎧櫃の前に立つと、

胸の奥の熱だけは、確かに強くなっていた。

戦は、もう止まらない。


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