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武将 古田織部 第67話 秀吉の中入り作戦
森長可が突出し、そのまま討たれた──
その噂は、戦の火がもう消えないことを示していた。
昼過ぎ、右近からの使者が駆け込んできた。
「秀吉様、三河へ……“中入り”を企てておられるとのこと」
重然は顔を上げた。
中入り──
家康の本拠を突くため、尾張を避けて三河へ直接入る策。
正面の小牧山を崩せないなら、
“背を突く”という大胆な手だ。
使者は続けた。
「別働隊の中心は池田恒興。
森長可の死が、秀吉様の決断を早めたとも聞きます」
重然は静かに息を吐いた。
森長可の勢いは、時に戦を動かす。
だが、その死が戦略を動かすこともある。
「摂津衆はどう動くのだ」
重然が問うと、使者は首を振った。
「まだ命は下りておりませぬ。
秀吉様は、まず尾張の地を固めるおつもりかと。
中入りは、あくまで別働隊の動きにございます」
戦の中心にいないという事実が、
胸の奥に妙なざわめきを残した。
戦場の熱を知らぬまま、
ただ遠くで戦が形を変えていくのを見ているだけ。
不安定な立場が、どこか落ち着かない。
使者は最後に言った。
「右近様より──“鎧の紐だけは、いつでも締められるようにしておけ”と」
重然はうなずいた。
鎧櫃の中の泥は、まだ乾いたまま。
だが、胸の奥の熱は、確かに強くなっていた。




