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武将 古田織部 第66話 羽黒の戦い

小牧山に家康が入った翌日。

上久世荘の空気は、さらに重くなっていた。

風の向きが変わるたびに、胸の奥がざわつく。

戦の形が、遠くで固まりつつあるのが分かった。

昼過ぎ、また馬の蹄の音が響いた。

昨日よりも速い。

使者の顔は、息を切らしたまま強張っている。


「羽黒で……戦がありました」

使者は続けた。

「森長可が突出し、家康方と衝突したとのこと。

  規模は大きくありませんが……

  戦の火は、もう消えませぬ」


羽黒──

その地名も、重然は地図でしか知らない。

だが、戦の“最初の音”がそこから響いたことだけは分かった。

遠くの空気が、わずかに震えるような感覚があった。


「秀吉様はどう動かれるのですか」

 重然が問うと、使者は首を振った。

「まだ分かりませぬ。

  ただ……羽黒の戦いで、

 家康方が勢いづいたとの噂もあります。

  小牧山の守りは固い。

  秀吉様も、簡単には動けませぬ」


重然は空を見上げた。

雲が速く流れていく。

戦の影は、まだ遠い。

だが、確実にこちらへ向かっている。

右近からの次の命が、いつ届いてもおかしくない。

鎧櫃の中の泥は、まだ乾いたままだった。

だが、胸の奥の熱だけは、ゆっくりと戻りつつあった。


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