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武将 古田織部 第65話 犬山城の占拠と小牧山の対陣
大坂から戻ってしばらく、
上久世荘の空気は、さらに落ち着かないものになっていた。
右近の言葉が、まだ胸の奥に残っている。
犬山が揺れれば、尾張全体が動く──
その事実が、静かな村に影を落としていた。
昼前、馬の蹄の音が響いた。
使者の顔は強張っている。
「犬山が……池田恒興の謀反です。」
その一言で、重然の背筋に冷たいものが走った。
戦が始まったとは誰も言わない。
だが、現実だけが先に動いてしまう瞬間だった。
使者は続けた。
「家康殿、小牧山に入られたとのこと。
尾張北部は、もう対陣の形にございます」
小牧山──
重然はその名を地図でしか知らない。
だが、独立した山で守りに強いという話は聞いていた。
そこに家康が入るということは、
戦の形が固まったも同じだった。
風が強くなり、畑の麦がざわめいた。
遠くの空が、ゆっくりと暗くなる。
戦は、いつも遠くから始まる。
だが、その影は必ずこちらへ向かってくる。
重然は静かに息を吐いた。
まだ鎧は着ていない。
だが、胸の奥の熱だけは、確かに戻ってきていた。




