武将 古田織部 第57話 妙顕寺城の茶会
「重然。支度をせよ。
今日は妙顕寺城で利休殿の茶会だ。
秀吉様もお出ましになる」
戦支度ではない。
だが、清秀の声には、戦場とは別の張りつめた気があった。
重然は黙って頷き、衣を整えた。
京の東善寺で和尚に叩き込まれた作法が、
自然と身体の奥から立ち上がる。
武の構えとは違う、静の構え。
それでも、どこか戦に似た緊張があった。
妙顕寺城の門前には、
織田家の重臣たちが静かに集まっていた。
丹羽長秀。
蜂須賀小六。
前田利家。
佐々成政。
戦場で名を馳せた武人たちが
、刀を帯びたまま、しかし沈黙して並んでいる。
その沈黙が、戦場の喧騒よりも重い。
重然は思った。
これは戦ではない。だが、戦より息が詰まる。
利休が姿を現した。
静かすぎる歩み。
動きの一つひとつが“作為”でできている。
自然ではない。
ゆがみではなく、ゆがませている。
水石の“自然のゆがみ”とはまったく違う。
その違和感が、胸の奥に刺さった。
広間に通されると、利休が清秀に目を向けた。
「そちらの若い方は?」
「義弟にございます。作法は京の東善寺で学ばせました」
利休の視線が重然に移る。
「では、一服点ててみなされ」
突然の指名。
重然は一歩進み、膝をついた。
身体が勝手に動く。
和尚に叩き込まれた端正な作法が、静かに流れ出す。
無駄がない。
飾りもない。
ただ、自然で、澄んでいる。
武人として鍛えた身体の芯が、そのまま茶の動きに現れる。
重臣たちが息を呑む気配がした。
「若いのに、あの落ち着きは何だ」
「利休殿の侘びとは違うが……強い」
「いや、美しいというより、強い」
利休は微笑んだ。
「……よい手前でございます。
自然で、澄んでおる」
褒めている。
だが、利休の美とは違う。
利休はそれを理解している。
重然もまた、言葉にならぬまま、それを感じていた。
茶会が終わり、清秀が小声で言った。
「よくやった。
おまえの作法は、利休殿の作為とは違う。
だが、それがよかったのだ」
重然は答えなかった。
ただ、胸の奥に“揺らぎ”が残った。
美とは何だ。
自然とは何だ。
作為とは何だ。
その問いが、静かに芽を出した。




