武将 古田織部 第55話 高槻城 揺れる陣中
高槻城の門前に着くと、
槍を構えた兵が重然を見て眉を寄せた。
「……上久世荘の代官殿か」
「古田重然。参着した」
兵はうなずいたが、
その手は槍を強く握りすぎていた。
案内に従い、城内へ入る。
廊下を行く家臣たちは、
重然を見るとわずかに道を開けた。
誰も目を合わせようとしない。
奥の間に入ると、
清秀が地図の前に立っていた。
振り返った顔には疲れが浮かんでいる。
「重然か。来たか」
「兵三十名、参着いたしました」
清秀は短くうなずいた。
その間が、いつもより長い。
「……うむ。まずは陣を張れ。
軍議は……後でよい」
言い終えると、
清秀は視線を地図に戻した。
翌日。
重然が廊下を歩いていると、
二人の家臣がひそひそ声で話していた。
重然が近づくと、
二人は慌てて口をつぐんだ。
重然は奥の間へ向かった。
奥の間に入ると、
清秀は巻紙を手にしたまま、
深く考え込んでいるように見えた。
「清秀殿……」
声をかけると、
清秀はゆっくり顔を上げた。
「……重然。お前はどう思う」
「何を、でございますか」
清秀は巻紙を握りしめた。
「村重は……摂津を立て直すために動くと言う。
信長公は……摂津を軽んじておられる、とも」
重然は答えなかった。
沈黙が落ちる。
清秀は目を閉じた。
「……まだ、決められぬ」
その一言に、
重然は清秀の迷いの深さを知った。
三日目の朝。
清秀は軍議の席に座っていたが、
家臣たちの視線が揺れていた。
「殿、指示を……」
「……待て」
清秀は短く言った。
だが、その“待て”には力がなかった。
重然は清秀の背中を見つめた。
その背は、揺れていた。
「殿……」
重然が一歩近づくと、
清秀はかすかに振り返った。
「重然。
……摂津は、どうなると思う」
「信長公が勝利するは必然。」
清秀の目が揺れた。
その揺れは、
村重と信長の間で引き裂かれる者の揺れだった。
重然は静かに息を吸った。
「殿。
皆が見ております。」
清秀は言葉を失ったように重然を見た。
その視線の奥に、
決断の影がわずかに動いた。




