武将 古田織部 第51話 戦の後
城山城が落ちて七日。
重然は上久世荘へ戻った。
屋敷の門をくぐると、
家臣たちが次々と駆け寄ってきた。
「殿、お戻りなさいませ」
重然はうなずき、
馬から静かに降りた。
足にまだ戦の疲れが残っている。
鎧には血と土の匂いが染みついていた。
屋敷の土間に入ると、
家臣の一人が声を上げた。
「殿、清秀様の使者が到着しております」
重然は鎧の紐を解きながら、
「通せ」と短く答えた。
ほどなくして、
馬の汗の匂いをまとった使者が現れた。
腰の包みを両手で抱え、深く頭を下げる。
「中川清秀様より、重然殿の武功、まこと見事とのこと。
ここに感状と、金子百貫を賜ります」
使者が感状を広げ、
墨の匂いがふわりと漂った。
「先手として折れ曲がりを突破し、
敵将を討ち取り、本丸を制したる功、比類なし──」
家臣たちが静かに息を呑む。
重然は紙のざらつきを指先で確かめ、
深く頭を下げた。
「ありがたく頂戴する」
金子の包みは重かった。
その重みは、戦の重みでもあった。
その日の夕刻、
重然は家臣たちを座敷に集めた。
「この金子の使い道を決める」
家臣たちが正座し、
それぞれ意見を述べる。
「槍を新しくすべきかと」
「戦死者の家へ見舞金を」
「馬の購入も必要かと」
「蔵の修繕もございます」
重然は一つひとつ聞き、
静かにうなずいた。
「まず、家臣への褒美を配る。
戦死者の家には見舞金を。
槍と鎧は補修し、蔵の修繕も進めよ」
家臣たちは深く頭を下げた。
重然は続けて言った。
「この金は、我らが次の戦に備えるためのものでもある。
無駄には使わぬ」
その言葉に、
家臣たちの表情が引き締まった。
翌朝、重然は茶を包みに入れ、
上久世荘近くの寺へ向かった。
寺は小高い丘の上にあり、
石段には朝露が残っていた。
本堂の前に立つと、
線香の匂いが静かに漂ってくる。
「重然殿、無事で何より」
重然は深く頭を下げた。
「城山城は落ちました。
清秀様より、感状と金子を賜りました。
その報告に参りました」
住職は茶を受け取り、
静かにうなずいた。
「よい働きであったようだな。
だが、金子はただ持っているだけでは力にならぬ」
重然は姿勢を正した。
「いかが使うべきか」
住職はゆっくりと言った。
「まず、織田家へ礼を欠かぬように。
次に、中原殿とは縁を深めるがよい。
そして──」
住職は重然を見つめた。
「東善寺の和尚へも、今のおぬしを知らせてやれ。
あの方は、おぬしを見出した恩人であろう」
重然は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……はい。必ず」
住職は微笑んだ。
「戦は人の力だけではない。
縁と恩が、おぬしをここまで連れてきたのだ」
重然は深く頭を下げた。
その夜。
屋敷の庭に出ると、
風が頬を撫でた。
戦場の匂いは薄れ、
代わりに土と草の匂いが広がっていた。
金子の包みの重みを思い出す。
和尚の言葉が胸に残る。
「……まだ、終わらぬか」
播磨の戦は続く。
だが、
自分は一人ではない。
重然は静かに息を吸い、
次の戦への備えを心に固めた。




