武将 古田織部 第50話 手柄
折れ曲がりを突破した重然隊は、
斜面を登り切った勢いのまま、城門前へと迫った。
土塀の影に退いた敵兵が、
慌ただしく再集結しているのが見える。
城門は厚く、鉄の帯が何本も巻かれていた。
だが、すでに清秀隊の別働が、
破城槌を押し上げてきていた。
「門を揺らせ! 前へ出ろ!」
重然の声に、槌を担いだ兵たちが走り出す。
槌が門に叩きつけられるたび、
重然の足元にまで振動が伝わった。
城門の木が軋み、鉄の帯が鳴る。
上から石が落ち、火矢が飛ぶ。
火矢の煙が鼻を刺し、土埃が舞い上がる。
重然は盾を掲げた兵を前に出し、
槌の兵を守るように配置した。
「もう一度だ! 揺らせ!」
三度目の衝撃で、
門の蝶番が悲鳴を上げた。
次の瞬間、
大きな破裂音とともに門が外へ倒れ、
土煙が一気に吹き出した。
「突入!」
重然は槍を構え、
土煙の中へ飛び込んだ。
城内は狭く、足場は悪い。
土塀と建物の間の細い通路に、
敵兵が押し寄せてくる。
槍の穂先が交錯し、
兵の叫びと金属音が狭い空間に反響した。
重然は前へ出る。
槍を突き、払い、
敵の肩口を打ち砕く。
味方の掛け声が背後から押し寄せ、
敵兵はじりじりと後退した。
そのとき、
通路の奥から一人の武将が歩み出た。
鎧は黒漆、
槍は長く、
その立ち姿だけで兵が道を開けた。
名のある武人であることは、
重然には一目でわかった。
武将は名乗らず、
ただ槍を構えた。
重然も槍を立てる。
周囲の兵が自然と距離を取り、
狭い通路に静寂が落ちた。
武将が先に踏み込んだ。
槍の穂先が重然の喉元を狙う。
重然は身をひねり、
穂先を紙一重でかわす。
衝撃が腕に伝わり、
槍がしなる。
二合、三合。
武将の一撃は重く、
間合いも長い。
重然は押され、
足が土塀に触れた。
だが、
武将の呼吸がわずかに乱れた瞬間を、
重然は見逃さなかった。
「はっ!」
重然は踏み込み、
槍を斜め下から突き上げた。
武将の槍が弾かれ、
胸の鎧に重然の穂先が深く食い込む。
武将は一歩、二歩と後退し、
そのまま膝をついた。
通路に静寂が戻る。
次の瞬間、
敵兵の列が崩れた。
「討たれたぞ! 退け!」
叫びが城内に広がり、
兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
清秀隊、右近隊、光泰隊が
次々と城内へ雪崩れ込み、
抵抗は瞬く間に消えた。
重然は槍を引き抜き、
深く息を吐いた。
土埃と血の匂いが混じる空気の中で、
城山城が落ちたことを悟った。
織田軍の勝利である。




