武将 古田織部 第49話 神谷城攻め
夜明け前の空はまだ青く沈み、
山の端だけがわずかに白んでいた。
重然は馬上から前方の山影を見つめた。
その山の中腹に、
今日攻め落とすべき 城山城 がある。
城山城は、
尾根の先端に築かれた典型的な山城だった。
三方は急峻な崖、
唯一の登り道は細く、
途中で二度折れ曲がる。
守る側にとっては天険、
攻める側にとっては悪夢のような地形。
だが、ここを落とさねば
播磨の戦線は前に進まない。
重然は深く息を吸った。
山の匂い、湿った土の匂い、
そして、これから血の匂いが混じるであろう空気。
「殿、各隊、配置につきました」
家臣の報告にうなずき、
重然は視線を山の裾へ向けた。
そこには、
中川清秀の本隊が布陣している。
その左右に、
右近隊と光泰隊が広がり、
さらにその前方には
重然の率いる三十名の小隊が
“先手の一角”として配置されていた。
「ここからが我らの役目だ」
重然は馬を降り、
槍を手に取った。
山の斜面は朝露で濡れ、
足を滑らせればそのまま転げ落ちる。
だが、敵も同じ条件だ。
問題は、
敵は上から、こちらは下から
という一点に尽きる。
「進め!」
重然の声とともに、
小隊は山道へ踏み込んだ。
最初の折れ曲がりまでは静かだった。
ただ、鳥の声と、
兵たちの息遣いだけが聞こえる。
だが、
二つ目の折れ曲がりに差しかかった瞬間、
山の上から怒号が響いた。
「来たぞ! 撃てぇ!」
矢が雨のように降り注いだ。
重然はとっさに木の陰へ身を隠し、
周囲の兵に叫んだ。
「盾を上げろ! 前へ出すな!」
盾持ちの兵が前に出て、
頭上に盾を掲げる。
矢が次々と突き刺さり、
木の皮が飛び散った。
「殿、どうします!」
「前へ出る。
ここで止まれば、後ろが詰まる!」
重然は盾の陰から飛び出し、
斜面を駆け上がった。




