武将 古田織部 第5話 槍を持たされる
庭の隅に、槍が立てかけてあった。
柄の長い影が砂の上に伸びている。
朝の光が穂先に当たり、細い部分だけ白く光った。
父は槍の前に立ち、柄を片手で持ち上げた。
長い影がゆっくり揺れる。
「今日は槍だ。」
重然は槍のそばまで歩いた。
足元の砂がわずかに沈む。
父は槍を横に向け、重然の前に差し出した。
「持て。」
重然は両手を伸ばした。
柄が手のひらに触れた瞬間、重さが腕に落ちる。
弓よりも重く、長い。
腕が少し下がる。
父はその下がりを見た。
「落とすな。」
重然は腕を上げ直した。
父は重然の手の位置を直した。
右手が前、左手が後ろ。
指の間に木の感触が入り、位置が一定になる。
「立てろ。」
重然は槍を立てようとした。
穂先が揺れ、左右にぶれる。
父は槍の中央を軽く押さえた。
揺れが止まる。
「こうだ。」
父は槍を受け取り、まっすぐ立てた。
穂先が動かず、影が砂の上に一本の線になる。
「立てろ。」
重然は槍を持ち直し、まっすぐ立てた。
腕が震え、穂先がわずかに揺れる。
揺れが砂の上に細い影を作る。
父はその影を見た。
「揺らすな。」
重然は腕に力を入れた。
揺れが少しだけ小さくなる。
父はうなずき、短く言った。
「前へ。」
重然は槍を前に倒した。
柄が長く、重さが前へ引っ張る。
足が半歩出る。
砂がこすれ、低い音がひとつ出る。
父はその足を見た。
「強い。押しすぎだ。」
重然は力を抜いた。
槍の重さが腕に戻る。
「戻せ。」
重然は槍を立て直した。
穂先がまっすぐ上に向く。
影がまた一本の線になる。
父は槍を受け取り、前に伸ばして止めた。
「覚えろ。長いものは揺れる。」
重然は槍の影を見た。
細い線が砂の上にまっすぐ伸びていた。




