武将 古田織部 第4話 弓に触れる
庭の端に、弓掛けがある。
朝の光が弓の端に当たり、細い部分だけ明るい。
父は弓掛けの前に立ち、弓を手に取った。
「今日は弓だ。」
重然は弓掛けのそばまで歩いた。
足元の砂がわずかに沈む。
父は弓を横に向け、重然の前に差し出した。
「持て。」
重然は両手を伸ばした。
弓の木の部分が手のひらに触れる。
思ったより重く、腕が少し下がる。
父はその下がりを見た。
「落とすな。」
重然は腕を上げ直した。
弓の端が光を受け、細い線が明るくなる。
父は弦を指で弾いた。
短い音が空気を震わせ、重然の胸のあたりまで届く。
「音を聞け。」
重然は弦の部分を見た。
細い線がまっすぐ伸びている。
父は重然の手を取り、弓の握りの位置を直した。
指の間に木の感触が入り、位置が一定になる。
「引け。」
重然は弦に指をかけた。
指先に細い張りが触れる。
少し引くと、弦が重然の力を押し返す。
父はその動きを見て、短く言った。
「もっと。」
重然は弦をさらに引いた。
腕が震え、弦がわずかに揺れる。
揺れが光を受け、細い影が重然の腕に落ちる。
父は弓の端を押さえ、揺れを止めた。
「止めろ。」
重然は息を止め、腕を固定した。
弦の張りが指に強く伝わる。
「戻せ。」
重然は弦をゆっくり戻した。
父は弓を受け取り、軽く引いて、弾いた。
音が庭に広がり、竹林のほうへ消えていく。
「覚えろ。これが弓だ。」
重然は弓掛けに戻された弓を見た。
光が弓の端に細く当たり、
朝の空気の中で静かに明るくなっていた。




