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武将 古田織部 第45話 寺の住職との縁

苔むした石段を上がると、

本堂の脇にある小さな書院風の座敷から、

豪快な笑い声が響いた。

「おお、京から来た若造ってのはお前か!」

襖が勢いよく開き、

大柄な住職が姿を現した。

僧衣の袖を乱暴にまくり上げ、

まるで武士のような立ち姿だった。

「東禅寺のあいつにな、頼まれとるんだ。

 “重然を見てやってくれ”とな。

 あいつは真面目すぎて堅苦しい、

 お前を選んだのも納得よ。同類だな。」

住職はそう言うと、

重然が持参した茶壺を手に取り、

重さを確かめるように軽く振った。

「京の茶か。ならば、まずは点ててみせよう。」

座敷は簡素だったが、

床の間には小さな掛物があり、

窓際には付書院がついていた。

光が静かに差し込み、

茶を点てるには十分な空間だった。

住職の点前は粗野に見えた。

だが、無駄が一つもなかった。

湯を注ぐ角度、茶筅の動き、

すべてが自然で、流れに逆らわない。

「茶はな、形じゃない。

 流れを見るんだ。

 お前はよく見ておるが、

 “見よう”とする目は固くなる。」

重然は息を呑んだ。

自分の観察癖を、初対面で見抜かれたからだ。

茶を飲み終えると、

住職は急に声を低くした。

「さて、茶の話はここまでだ。

 織田家での動き様、聞いておるか?」

重然は姿勢を正した。

「信長公はな、数字より“動き”を見るお方だ。

 俵の数を報告するだけでは足りん。

 名主の顔色、村の空気……

 そういう“線”を読める代官が重宝される。」

住職は茶碗を指で軽く叩いた。

「茶も同じよ。

 茶碗の向きより、

 お前の呼吸の乱れのほうが大事だ。」

住職は笑いながら言った。


「東禅寺のあいつは、

 お前に礼法を叩き込もうとするだろうが、

 わしは違う。

 お前の“目”を育てる。

 それが代官の仕事にも、

 茶の湯にも通じるからな。」


その日から、

重然は寺に通うようになった。

茶の稽古と、政治の助言。

豪放な住職の言葉は、

重然の中で静かに根を張り始めた。

のちに“古田織部”と呼ばれる男の

美意識と政治感覚の基層は、

この寺の座敷で育ち始めていた。


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