武将 古田織部 第40話 婚礼の支度
(1569年・正月 東善寺の一室)
朝の光が、
部屋の障子を薄く照らしていた。
光が畳の目に沿って伸び、
部屋の奥で細く止まった。
重然は包みを開き、
布の端を持ち上げた。
布が擦れる音が小さく落ち、
畳の上で静かに広がった。
中には、
仙の家へ送る贈り物が入っていた。
器の縁が光を受け、
白い線が短く揺れた。
重然は器を持ち上げ、
位置を確かめた。
指に伝わる温度が、
京の冬の空気と混じった。
廊下の向こうで、
箱を運ぶ音が続いていた。
箱が畳に置かれるたび、
板の音が短く響いた。
仙の家から届いた包みも、
机の端に並んでいた。
布の折り目が整い、
どれも乱れがなかった。
重然は衣の包みを開いた。
父が選んだ婚礼の衣が入っていた。
布の表が光を受け、
細い影が畳に落ちた。
重然は折り目を指でなぞり、
衣を静かに畳み直した。
戸口の外で足音が止まった。
重然が顔を上げると、
古田父が立っていた。
父は部屋に入り、
衣の包みを手に取った。
布の温度が手に移り、
指がゆっくり動いた。
父は衣を見つめ、
折り目を整えた。
「京のことは、
お前に任せる。」
声は短く、
まっすぐ届いた。
重然は姿勢を正し、
父の言葉を受けた。
父は衣を包みに戻し、
位置を整えた。
布の端が光を受け、
白い線が細く揺れた。
父は部屋を出ていき、
足音が廊下を進んだ。
音が遠ざかり、
家の中の動きが元に戻った。
重然は机の前に座り、
仙の家から届いた包みを開いた。
紙が擦れ、
中の器が光を受けた。
縁の白さが畳に落ち、
細い影が伸びた。
仙が整えた宿所の記憶が、
器の並びと重なった。
水の位置、
火鉢の向き、
布の折り方。
どれも乱れがなく、
家の息が静かに続いていた。
重然は最後の包みを閉じ、
机の端に置いた。
置いた瞬間、
紙の線が少し変わった。
婚礼の支度は、
家の中でゆっくり積み重なっていた。
光の線、
器の位置、
布の折り目。
それらが一つの方向へ向かい、
重然の前に静かに形を作り始めていた。




