武将 古田織部 第21話 父の態度の変化
朝の空気が冷たく、家の前の道に薄い影が落ちていた。
重然が薪を運んでいると、座敷の方から金属の細い音が聞こえた。
父が刀を手入れしている。
光が刃に当たり、白く揺れる。
父の手の動きは静かで、ゆっくりだった。
家の戸が静かに開き、父が外に出てきた。
刀は鞘に納められ、腰に下げられていた。
父は重然の手元を一度だけ見た。
その視線は短く、すぐに道の方へ向けられた。
「……行ってくる。」
父はそれだけ言い、歩き出した。
足音は深く、地面をゆっくり踏んだ。
背の影が道に長く伸びた。
昼過ぎ、父が戻ってきた。
歩みは静かだが、肩の線がいつもより硬かった。
家の戸を開ける音が、重く響いた。
重然が座敷の前を通ると、
父は書状を広げていた。
光が紙に反射し、白く揺れた。
父は重然に気づいたが、顔を上げなかった。
「重然。」
父は眼を落したまま言った。
「家の前を、よう見ておけ。」
声は低く、畳に落ちた。
重然は静かに頷き、座敷を離れた。
夕方、家の前を掃いていると、
父が戸口に立っていた。
影が長く伸び、重然の足元に重なった。
父は道の先を見ていた。
風が衣の裾を揺らした。
「……しばらく、客が増える。」
父は重然の方を見ずに言った。
「家の中を乱すな。」
重然が頷くと、父はゆっくり家の中へ戻った。
戸が閉まる音が、夕暮れの空気に沈んだ。
重然は箒を握り直し、道を見た。
陽が沈みかけ、家の影だけが濃く残っていた。




