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「『グリーン・アイズ』も言ってたんですよね、瑞穂にそれは似合わないって。私はそれなりにいいと思うんですよ、それなりに」
境谷は未練いっぱいで衣装を差し上げていたが、瑞穂にどうにもその気がないと見ると、渋々口をとがらせて畳み直した。
「でも、ま、はい、お嫌なら仕方ないですよね、やっぱり。もって生まれたキャラクターっていうのもありますし」
ぶつぶつつぶやき、ひょいと目を上げていきなりほほ笑む。
「ところで、突然ですが、『グリーン・アイズ』と仲がよくなられたようですね。よかったです」
無意識に熱くなった頬をさとられまいと瞬きする瑞穂に気づいてるのかいないのか、境谷は飄々と続けた。
「これで、壊れたランプの価値もあろうというもの。従業員同士の恋愛は大賛成ですよ、みなさんきれいになってくださるし、特に、はい、『グリーン・アイズ』は見栄えが命ですから」
ぴっと指をたてて念押しするような仕草をする。まじめなんだかふざけてるんだか、よくわからない境谷に苦笑して、瑞穂は居住まいを正した。
「境谷さん」
「はい?」
何事ですか、そんな顔で境谷も慌てて姿勢を正した。
「今回は本当にありがとうございました。病院の手続きとか、学校の連絡とか、みんなしてくださったそうですね。なのに、わたし、全然お仕事できなくて」
瑞穂のことばを聞いていた境谷の唇に、唐突にそれまでと打って変わって異質な、ふんわりとした笑みが広がった。
「覚えてらっしゃらない、と思ってました」
「は?」
「鷹栖瑞穂さん、そうおっしゃるのだなあと、申し込みを書いていただいたとき、私はとてもうれしかったのですが」
「申し込みのとき、ですか?」
「はい」
頭を上げた瑞穂に、境谷はうなずいた。
「目のこと、お話ししましたよね?」
「はい、この間ですよね」
境谷は一瞬目を閉じ、思い切ったように話し出した。
「鷹栖さんが入院しておられた病院にね、私も以前入院していました。大震災ね、あのときです」
瑞穂は顔を引き締めた。死者数千人の大災害、それに境谷が巻き込まれていたとは知らなかった。
「大ケガをしていったんは回復したんですが、その後目の調子が悪くなって、あそこで摘出したんです。で、そこで眼球がないのに見えることがわかった……わかってしまったんですよね」
境谷の顔がわずかに白くなった。穏やかな表情の下で押さえつけた殺気のようなものが流れ去っていく。
「まさか、自分がそんな特異な体だとは思いませんでした。化け物みたい、といった看護婦がいましたよ、物陰でね。学会論文にと申し出てくれた医師もいました。そうされた後の私の処遇は彼の気にはならなかったようですが」
淡々と話す境谷の口調は冷めている。
「私の眼球は元からまともに働いてなくて、飾り物だったらしいです。執刀してくれた医師がいい人で、そういうこともありだろうよと言ってはくれたんですが、苦しくて。気持ちの行き場が、どこにもなくてね」
長部のようなにこやかな笑みを浮かべて、それを境谷は崩さなかった。その笑みの意味を瑞穂は今では読み取ることができる。
わたしは大丈夫だから、あなたに迷惑をかけないから、どうか私を嫌わないで下さい。
自分の傷みを押し殺して、人に向ける懇願の笑み。
「あの地震で死んだと思えばいいんだって思い始めてました。自分はきっと亡霊のようなもので、この世界には生きていてはだめなんだろうって」
ふ、と小さく息を吐く。それから気を取り直したように、
「そんな時、鷹栖さん、あなたが病院にいらっしゃった。ご家族と一緒に。親せきの方のお見舞いだとおっしゃってました。……あなたまだ、小学生でした」
境谷は今度は真しな、優しく深い声で続けた。
「中庭でベンチに座り込んでいた私に、あなたはこうおっしゃったんですよ。不思議な目をしてるのね、と」
境谷は笑みを消して、どこか切なそうに瑞穂から目を逸らせた。
「不思議な目、と」
少しそのことばを味わうように沈黙する。その沈黙に瑞穂は付き合った。
「天啓のようでした」
境谷はそっと続けた。
「そうか、私の目は化け物の目ではなく、奇妙な物体でもなく、『不思議な目』なんだ。なぜでしょうかね、ふいに心からそう納得しました。その瞬間から世界が変わりました。そうか、私の目は『不思議な目』なんだ、ならば不思議な世界を見ていればいい、不思議な世界を見る仕事をやろう。『エターナル・カンパニー』は、そうやって生まれたんです」
境谷は立ち上がった。何かの気持ちを振り切った、そんな厳粛な顔で瑞穂を見下ろし、それから深々と頭を下げる。
「鷹栖さん、私こそ、あなたが苦しんでいるときに何の仕事もしなかった、申し訳ないことです。ほんとはもっと早く探してお礼がいいたかった、私に新しい人生を与えてくれたあなたに。けれど、すみません、あなたの一番厳しいときには間に合わなかったんです」




