三十四話
俺たちは銀龍の船に乗って、南へ向かう。
夜に出向しているのは、魔物達が寝ている昼に奇襲を仕掛けるためらしい。
「タルスの兄貴!体は大丈夫なんでえ?」
「ああ。ぐっすり寝たから大丈夫だ……って、兄貴?」
「兄貴っすよそりゃ!俺たちを船長と一緒に助けてくれた英雄サマっすからねえ!」
「え、英雄……か。悪い気はしないな」
勇者になれなかった俺でも、こうして感謝を言われると悪い気はしない。こういう笑顔が見れるなら、頑張って修行したかいがあるというものだ。
「っ……!タルスの兄貴、ちょいあっちの方角見てくだせえ」
「お、おう。なんだ?」
受け取った双眼鏡で西の方角を見ると、数体のデーモンの群れが空を飛び、周囲を見回っていた。
デーモンは暗視の力を持っている者が多い。
すぐに戦闘ができるように、俺は刀に手をかけ……。
「大丈夫っす。あいつらが俺らに気づくことはないっすからねえ」
「……どういうことだ?」
「この船と船長のおかげっす。この船はあの海樹"レバリアンサ"でできているんすねえ。だから気付かれにくいんすねえ」
「なるほどな……」
海樹"レバリアンサ"。海の底で根を張るにもかかわらず、地上の木と同じ……いや、さらに大きく成長する樹だ。その樹の特徴は、ある魔術を織り混ぜることで、海に完全に擬態することができるというもの。さらに、その樹の表面は樹が吐き出した塩で覆われており、船底の強固なプロテクターにもなるとか。
「それなら、デザイカがその魔術を使えるのか」
「あー……そうじゃないんすねえ。魔術自体は船自体が発動させてるんで、定期的に魔力を送れば大丈夫なんすねえ」
「それなら……デザイカのおかげって?」
「よくぞ聞いてくれたっすねえ!船長の凄いところ……それは類稀なる航海能力なんすねえ!」
「ほうほう」
「よく考えても見てください。いくら海と同じになれるったって、船は船。不自然な形でバレるなんてザラなんすね。だけどそれをカバーできるのが船長なんすねえ!波の動きを読み、波に合わせ航海する。どんな荒波にも負けない豪胆さと、その心に隠れた繊細な操舵!惚れ込むのも無理はないんすねえ……」
「お、おう。なるほど……」
めちゃくちゃ饒舌に喋り出す姿に、少し及び腰になってしまう。
「つ、つまりだ。この船……いや、レバリアンサの力と、デザイカの操舵。それが見つかりにくい航海の秘訣ってことだな?」
「そういうことっすねえ!流石はタルスの兄貴!理解が速いっすねえ!」
「とはいえ……誤魔化すのも限界はあるだろ?こういう風に……なっ!」
「へ……?」
振り向きざまに、刀を抜いて横薙ぎ。
何故気づいた。と言わんばかりの形相をしたデーモンが、腹から真っ二つになり消える。
「……油断は禁物だな。怪我ないか?」
「だ、大丈夫っすね……また助けて貰っちゃったっすねえ……」
「無事ならそれでいい。次から気を付けろよ。……俺は他のところ見て回る」
「は、はいっ!了解っす。ここの見張りは俺に任せてくだせえ!」
元気に返事をする海賊を見ながら、俺は甲板を回ることにした。
「……隠れてるやつはいないな」
甲板を一通り回り、異常がないか確かめ終わる。
「真眼かい。いいスキル持ってるじゃないか」
「デザイカか。……操舵は大丈夫なのか?」
「この辺りはあんまり見張りがいないからね。後輩育てる意味でも、若い奴に任せてるのさ」
「そうか」
「……あんたは、なんであいつらといるんだい?兵士ってわけでもないだろ?」
「……罪の償いだ。俺は、騙すつもりなんてなかったんだがな……」
「そうかい。なら、それが終わったらどうするんだい?」
「終わったら……?」
そういえば、考えたこともなかった。
この旅が終われば、おそらく俺の罪は精算される。王子を救った団員の一人として。
多少の批判はコルネイアがなんとかしてくれるだろう。
……終わったらなんて、考えたこともなかった。
「何をするか、決まってないって顔だね」
「わかるか……。俺には隠し事は無理そうだな」
「皿割ったことを隠そうとした奴と同じ顔してる」
「マジか……」
「冗談だ。間に受けないでくれ。ははは」
「なんだ冗談か……」
「……さて、こっからは真面目な話だ。あんた、これが終わったらうちに来ないかい?」
「えっと、それって……」
「アタシはあんたを結構高く買ってるんだ。どうだい?うちに……海賊「銀龍」に来ないかい?」
「……」
思いもよらぬ提案だ。……悪くはない、が……。
「もう少し、考えさせてくれ」
「……まあ、そうだろうね。すぐに決めろとは言わないからさ、前向きに考えてくれると嬉しいよ」
そう言って、デザイカは立ち去る。
「……ありがとな」
その背中に、独り言のように呟く。




