Day8. ちりも積もれば山となろう!
2026/09/23 21:30より前にDay7を読まれた方は、少し内容が被ります。
ロニアに引っ張られ、坂道を登っていく。
その後ろ姿が、左右に軽く揺れている。
なんだか楽しそうだな。
こっちまで嬉しくなってくる。
傾斜はそんなにきつくない。
病み上がりの俺でも歩けるくらいだ。
ロニアから視線を外し、まわりを見てみる。
森に隠された秘密基地みたいな村だな。
家の間から森が見える。
その景色も相まってちょっとしたハイキングをしてる気分だ。
どこかから薪を割る音がする。
風に混じって、何かを焼く匂いも流れてきた。
森では味わえなかった感覚だ。
坂道に沿うように、家が建てられている。
その軒先で女の人が洗濯物を干していた。
女の人がこちらに気付いた。
「ロニア、おはよう」
「――、おはよう」
「――、――」
かろうじて挨拶をしてるんだなってことはわかる。
が、それ以外の内容はさっぱりわからない。
ぼーっとあたりを眺めていると、
「――?」
こちらを見ている子供と目が合った。
軽く手を振ってみる。
ビクッと肩を震わせ、走っていく。
物陰に隠れ、こちらをこっそりと伺っている。
あちゃー、びっくりさせちゃったかな。
どうやら俺はここだと少し浮いてるらしい。
ここの人たちは俺たちが言うところの獣人って感じだ。
……そうか。
俺から見ればこの村の人たちが珍しいけど、
向こうから見れば俺の方が珍しいのか。
どおりであれだけ人が殺到するわけだ。
家から出た直後の光景を思い出す。
耳もしっぽもないつるつる人間が面白かったんだな。
「リスケ」
ロニアが声をかけてくる。
どうやら話は終わったらしい。
俺が頷くと、そのまま歩き始めた。
獣人ばっかなことを除けば、村自体はそんなに珍しい感じはしない。
寂れた感じでも無く、街ほど賑わってるわけでもない。
スローライフを送るならここだなって感じ。
ちょうどいい村だ。
ロニアが道すがらすれ違う人と挨拶をかわしてく。
俺もなにかした方がいいかなと思わなくもないが……
言葉がわからない以上どうしようもない。
借りてきた猫の如くおとなしくしておこう。
そう高を括って歩いていると、
道沿いで作業をしている人と目が合ってしまった。
それもがっつりと。
どうやら露店の整理をしているようだ。
箱を下ろして一息つく瞬間にかち合ってしまったらしい。
なんてこった。
なにかしなきゃ、と思い咄嗟に俺が知っている単語を放つ。
「お、おはよう」
緊張のあまり声が裏返ってしまった。
向こうは最初、目を丸くしてたが、目をキラキラ輝かせ、
「おはよう!――!――!!リスケ?――!――!」
音の洪水だ……
何を言ってるか聞き取れない……
俺が助けを求めてあたふたしてると、
ズイッと何かを手渡される。
これは……野菜か??
露店で整理してた箱に入ってたものだ。
あっけに取られてるとそのまま、
「――!!」
ニカっと笑い、そのまま手を振って作業に戻ってしまった……
「あっ、ちょっ、おい!」
これ、売り物じゃないのか??
野菜を改めてみる。
土が丁寧に落とされてる。
手のひらに日差しのぬくもりが伝わってくる。
やっぱ売り物だよな、これ。
ただでもらうのも申し訳ないんだが……
返そうにも返しようがない。
……仕方ない、ありがたくもらっておくか。
と、振り返ると、
ロニアがこちらを見ていた。
俺と野菜を交互に見る。
目元がふっとやわらいだ。
そのまま手を口にあて、にやにやと笑いだした。
こいつ朝の仕返ししてるな??
俺は野菜をわきに抱え、手を開き、指を揃える。
いわゆる手刀だ。
それをそのまま上にあげ、トンッとロニアの頭に軽くあてた。
「こらっ」
ロニアがはにかみながら手を頭にあてる。
えへへって効果音が付きそうだ。
そのまま俺の手を取って歩き出した。
耳がぴょこぴょこと揺れている。
そんなに俺が面白かったんだろうか。
その後も道すがら挨拶し、奥へ向かってく。
ロニアが村の人に挨拶し、それに合わせて俺も挨拶していく。
その後の会話はできなくても、挨拶くらいはできる。
なに、一度やってしまえば慣れたもんだ。
「おはよう」
と挨拶をしていると、
「――?」
こちらを指さして何かを言っている。
なんだ、なにかやらかしたか……?
どうやらわきに抱えてた野菜を指さしてるらしい。
もしかして……盗ったと思われた??
「あっこれは」
慌てて何か弁解しようとするがなんて言っていいかわからない。
が、どうやら違ったらしい。
「――、――!」
ロニアが笑顔でなにか説明している。
それを聞いて向こうも笑顔になり、
野菜を渡された。
……なんで??
ロニアを見るとまたにやにやしている。
断ろうとしたが……
手をぐっと取られ、野菜をバシンと握らされてしまった。
ロニアが笑ってる。渡してきた人も笑ってる。
おいおい、どういう状況なんだ……
ロニアが袖を引っ張る。
もう行くらしい。
「え、あっ、ちょっと??」
脇に抱えていた野菜と、今もらった野菜を腕に抱える。
振り返ると、さっきの人がひらひらと手を振っている。
いいのか?これ……
判断もつかないまま先へと進むことに。
道を進み、挨拶をし、腕にものが追加される。
さらに進み、挨拶をし、腕にさらに乗せられる。
これは……歓迎されてるってことなのか……?
なんとなく好意でくれてるんだろうなってことはわかってきた。
それはいいんだが……
……だんだん手に持つ荷物が増えてきた。
野菜は両手で抱えなきゃ落としそうな量になってる。
杖なんかもう地面から離れて荷物Aと化してる。
まずい、このままだと落としそうだ……
落とさないように慎重に歩いてると、
「――!」
横から箱が出てきた。
恰幅のいいおばちゃんが箱を差し出している。
どういうことだ?と迷っていると、
荷物と箱を交互に指さしてる。
どうやら箱に入れろってことらしい。
俺は箱に野菜を入れ、ぺこりと頭を下げる。
「あはははは」
おばさんが笑いながら手を振って戻っていく。
零れ落ちないのはいいんだが……
箱を持つために、ロニアに杖を預ける。
箱の下を両手で掴み、腰を使って持ち上げる。
くぅ~~~!
痛い!ってほどではないがなかなか堪えるな。
持ちやすいのは助かるんだが……
なんだか何をしているのかわからなくなってきた。
ロニアに袖を引っ張られ歩き出す。
両手で箱を抱え、道すがら挨拶をしていく。
箱から顔だけ出して歩いていく。
その様子が可笑しいのか、
村の人たちが箱にものを入れる頻度が上がってきた。
みんな楽しそうにおいていく。
……俺あそばれてないか??これ。
箱には野菜だけでなく、肉や、手では持ちにくそうなもの。
さらには、なにに使うんだこれ?ってものまで載せられていく。
顔が狼の、木彫りのマッチョ像が目に入る。
ほんとになんだこれ……
その後もどんどん荷物が増えていく。
おいおい、さすがに多すぎる……
プレゼントの山で視界が埋まる。
村を見に来たはずなのに、山しか見えない。
ロニアの袖引きだけが唯一の俺の手がかりだ。
歩いて挨拶するたびに荷物が増える。
荷物が増えるたびに、ロニアも心配そうにこちらを何度ものぞき込むようになった。
腕が震えてきた。
力が抜けそうになる。
まずい、そろそろ限界だ……
身体全体でなんとか持ちこたえようとする。
が、身体が痛んでうまくいかない。
ロニアが横でおろおろしている。
疲れからか、足が思ったように上がらない。
「あっ!」
つま先を坂道に引っ掛ける。
「リスケ!!」
ロニアの驚いた声がする。
やばい、倒れる!!
目をグッとつぶり、身体に力を込める。
衝突のために覚悟を固める。
「……あれ?」
地面の鈍い感触がいつまで経ってもやってこない。
身体がなにかに支えられてる?
大きくごつごつとした手が身体を支えている。
もう片方の手が、崩れそうな荷物を受け止めていた。
そのまま荷物をひょいっと持っていかれる。
視界がひらける。
むちゃくちゃ恰幅のいいおっちゃんが、
俺の荷物を抱えて立っていた。
「――?ロニア、――、リスケ?」
ロニアとおっちゃんがなにか話している。
俺は目の前のおっちゃんをじっと見ていた。
狼のような尖った耳、ふさふさの体毛。
顔つきもかなり狼に近い。
背中には弓と矢筒が背負われていた。
おっちゃんがこっちを見る。
「リスケ」
親指で後ろを指さしながら、顎でくいッとしゃくる。
ついてこいってことか…?




