Day7. Hello, Narou!
助けられてからの毎日はゆっくりと進んでいった。
朝は日差しに起こされ、
ロニアと一緒に食事をし、
この世界のことを学ぶ。
ロニアと他愛のないことで笑いあい、
日が落ちたら眠る。
ここまでの怒涛の日々が嘘のようだ。
身体の痛みだけが本当の出来事だと教えてくれる。
けれど、その痛みとも別れの時は近いらしい。
窓からの日差しで目が覚める。
カーテンがないからこればっかりは仕方ない。
むしろ太陽と一緒に生活してるみたいで悪くない。
ベッドから身体を起こす。
最初は痛みで寝れそうもなかったくらいなのに、
今では身体を起こすくらいなら何の問題もない。
人間ってすごいんだな……
さて、ここまでは問題ない。
が、ここからが勝負だ。
ベッドから足をおろす。
ロニアがいつも座っている椅子に手を掛ける。
ゆっくりと息を吸い、気合を入れる。
「よしっ……」
意を決し、立とうとする。
けれども、足にうまく力が入らない。
ふらつきそうになる身体を椅子で支える。
自分の足に、少しずつ重みを返していく。
「……なんとか立てたな」
身体のあちこちからまだ早いとアラートが伝わってくる。
が、思ってたより全然いける。
両足で地面を掴む。
そのまま一歩踏み出す。
よし、いける。
椅子や壁で身体を支えながら一歩、また一歩と歩く。
そしてそのまま部屋の外へ踏み出す。
隣の部屋ではロニアがいつものように料理をしていた。
耳がぴょこぴょこと動いている、ご機嫌そうだ。
「おはよう、ロニア」
いつものように声を掛ける。
ロニアがびっくりしたようにこちらを見る。
丸く大きな目がさらに丸くなる。
「リスケ!?――!!」
ロニアが両手を口に当てる。
おいおい、立っただけで大げさだな。
手をひらひらと軽く振って答える。
ロニアが勢いよく駆け寄ってきて、
そのまま急ブレーキを踏んだ。
両手をわなわなとさせてもどかしそうにしている。
飛びつきたくてしょうがないって感じだな。
こんなロニアはじめて見た。
「あっははははは」
その姿があまりにもいじらしく笑ってしまった。
「――!」
ロニアが顔を真っ赤にして、抗議してきた。
耳がピンッとまっすぐに立っている。
「あっははははは」
意外な反応にまた笑ってしまう。
「リスケ!――!」
ロニアが頬を膨らませてぽかぽかと肩を叩いてくる。
けど全然痛くない、手加減してくれてるらしい。
「ごめん!ごめん!」
伝わらないのはわかるがつい口にしてしまう。
両手を合わせ、頭を軽く下げる。
むっとしていたロニアの表情が緩む。
眉が下がって、もう!って感じだ。
ロニアがそのまま鍋まで歩いていく。
俺も鍋の前まで行き手伝おうとする。
が、ロニアが首を横に振る。
「リスケ、――。」
おっと、知らない単語だ。
どうしたものか。
頭を悩ませていると、ロニアがスッと椅子を指さす。
椅子?椅子はもう知ってたはず。
ロニアが俺を指さし、そのまま椅子を指さす。
ああ、なるほど。
座れってことかな。
俺は椅子に座り、ロニアが口にした単語を繰り返す。
ロニアがコクコクと頷いている。
俺は念のため再度立ち、座りながらロニアに聞く。
「座る」
ロニアが首を縦に振る。
「リスケ、座る」
なるほど。
動作は実際にしながら聞くのがいいか。
「……っと結局手伝いできなかったな」
今は邪魔になるかもしれない。
怪我が治ってからだな……
ロニアと一緒に食事を取る。
正面には飯を食べるロニアがいる。
いつも横だったから新鮮だな。
まぁ、味がうまいのには変わりないんだが。
よく見るとロニアの耳がぴこぴこ揺れている。
一口一口食べるたびにニコニコしている。
本当に美味しそうに食うな。
こっちまで楽しくなってくる。
がんばって立ってみてよかったな。
俺も食事をほおばる。
今日は一段と美味しい気がした。
「ごちそうさまでした」
食べ終わり、手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
ロニアも俺の真似をしている。
こっちを見てにこっと笑う。
釣られて俺も笑う。
意味はわかってないが、なぜか気に入ってるらしい。
自分が食べた食器を、シンクらしきところへ持っていく。
そのまま洗おうとして、
「リスケ、座る!」
ロニアに怒られた。
やっぱりダメか。
椅子に座り、考える。
そういえばここはどこなんだろうか。
ここ数日ずっと看病してもらってたが、
俺はロニアしか見たことがない。
たまに外に出かけては帰ってくる。
少なくとも、この家の外に何かはあるはずだ。
ここが村なのか街なのか、どれくらいの人がいるのか。
俺はなにもしらない。
「ロニア、外……」
を見たいと言おうとして言葉が詰まる。
とっさに手で輪を作り目に当てる。
双眼鏡のポーズだ。
そのままあたりをゆっくり眺める動作をする。
「リスケ、外、――?」
あーこれは伝わったのかな。
「そう、リスケ、外、見る」
俺って言いたいがわからないから自分のことをリスケと呼ぶ。
自分で自分の名前を言うのが少し恥ずかしいが我慢だ。
ロニアはしばらく考えて……
「リスケ、外、見る」
コクリと頷いてくれた。
そうと決まれば話は早い。
「ロニア、布」
皿を指さして、拭く仕草をする。
ロニアの耳がぴんと立ち、そのまま嬉しそうに揺れた。
これくらいなら許してくれるらしい。
「さ、早く片付けちゃおう」
二人でやればすぐだろう。
拭くだけでも結構大変だった。
毎日大変だったろうな……
一息入れたくなるが、まずは外だ。
「ロニア」
俺が呼びかける。
ロニアが頷き、別の部屋にパタパタと走って行く。
どこに行くんだ??
ロニアが入った部屋を眺めてると、
「リスケ、これ」
ロニアが杖を持ってきた。
自分だけで歩くのは辛いが、
ずっとロニアに肩を貸してもらうわけにもいかないし。
素直にありがたい。
「ありがとう」
杖を受け取る。
ロニアがにこにこしている。
杖の扱いはなれたもんだ。
杖を使い立ち上がる。
ただの木の棒と違って握りやすい。
俺の杖さばきに、ロニアもびっくりしてる。
「大したもんだろ」
得意げにふるまう。
杖ついてるだけでなにをしてるんだ、いったい。
そのまま、ドアへと近づく。
ロニアがいつも外出してたドア。
ドアノブを握る。
少し力が入る。
俺はドアノブを捻り、扉を前へと押した。
「っ!」
眩しい。
思わず手で影を作る。
窓からの光や、室内の灯りで慣れてるはずなのに、
やけに眩しく感じた。
だんだん目が慣れてくる。
落ち着いた俺の目に映ったのは……
――人の営みだった。
木造の家が見える。
それも、一軒や二軒じゃない。
真ん中を、大きな坂道が上へと伸びている。
その坂に沿うように、何軒もの家が建っている。
視線で坂の奥を追う。
かなり奥まで家が建っているみたいだ。
軒先では洗濯物が揺れている。
手すりはところどころ塗装が剥げ、下の木肌が覗いていた。
割られた薪の束が、家の脇に無造作に積まれている。
そんな景色の一つ一つが、
ここが映画のセットなんかじゃなく、
誰かがちゃんと暮らしている場所なんだと教えてくれる。
俺の見慣れた森が家越しに見える。
どうやら森の中にあるらしい。
けど、匂いがまるで違う。
土や木の匂いだけではない、煙突から上がる煙の匂い、
どこからか漂ってくる食べ物の匂いや洗濯ものの香り。
まったく別の場所に来たみたいだ。
人だ、人がいる……
荷物を抱えて歩く人。坂道で誰かと話す人。
無邪気にはしゃぐ子供。
喧騒、とまで言うと大げさかもしれない。
けれど、確かに人のにぎやかさがある。
家は多いが、街というほどではなさそうだ。
おそらく村だろう。
村を歩く人たちは、形は違えど頭に獣の耳が付いている。
中にはしっぽがある人もいる。
「ほえー」
あっけに取られていると、
坂道を歩く人がこちらに気付く。
「――!」
こちらを指さし何か言っている。
その言葉に反応し、周りの人もこちらを一斉に見る。
たくさんの人と目が合う。
次の瞬間、
「――!」「――!!」「――?――!」
人が大量に押し寄せてくる。
「うわっ」
なんだ、なんだ!!
あまりの勢いに目が回る。
俺が反応に困ってると後ろからロニアが出てきて、
「――!――!」
両手をグッと握り、頭の横まで突き上げる。
大きな声でなにか呼びかけてるらしい。
ロニアがこんな大声出すなんて、
なんか珍しいな。
ロニアの一声を聞き、村の人たちが渋々と散っていく。
目まぐるしく起きる出来事に置いて行かれてると、
ロニアが俺の手を取る。
そのまま引っ張っていこうとする。
どこに連れていかれるのかはわからないが、
今はロニアについていけばいいだろう。
杖をつき、一歩を踏み出した。
ロニアがゆっくりと引っ張っていく。
ロニアの慎重さに頬が緩む。
随分とゆっくりだな。
けどこの遅さが心地いい。
杖をついて歩いている姿だけ見れば、数日前と変わらない。
むしろ身体はボロボロだし、痛みもある。
けど、不思議と足が軽いのはなんでだろうな。
9/23 20:10にDay7を投稿しましたが、
著者が思っていた以上に話を圧縮して詰め込みすぎていたため、改稿しています。
途中までをDay7とし、後半は別のエピソードに分けて投稿予定です。
改稿前に、すでに最後まで読んでくださった方は、少し先の話まで先読みした形になります。
21:30 改稿終了
立つところと村に出たところ、あとラストが少し変わってます。




