Day 3. 意外となんとかなろう!!
頬に落ち葉の柔らかい感触がする。
土の匂いだ。
いつの間にか寝てたのか……
腕には宝物みたいに、ただの木の棒が抱かれてる。
まるで、サンタにプレゼントをもらった子供だな……
思わず苦笑いする。
体が鉛のように重い。
「……夢じゃなかったのか。」
夢ではなく、
憧れた俺の異世界生活、その第一歩は遭難らしい。
起き上がる気力もない。
なんとか、転がり仰向けになる。
巨大樹が作る空から、光が差し込んでいる。
朝だ。
木漏れ日が暖かくて気持ちいい。
昨日、あれだけ不気味だったのが嘘みたいだ。
……なんだ?
なにか聞こえる……。
耳を澄ます。
サァァ……と、遠くで何かが流れる音がする。
……水?
反射的に起きようとする。
が、体に力が入らない。
天然のクッションに派手にダイブする。
「いてててて……」
災難ばっかで溜息が出そうになる。
木の棒を支えに、立ち上がる。
小鹿よろしく、足が震える。
筋肉痛だ。
「翌朝からアポなし訪問かよ……」
若いっていいねぇ、ちくしょう。
逸る気持ちを抑え、一歩ずつ音の方へ進んでいく。
音が段々クリアになってきた。
ほんのり空気も潤ってる気がする。
少しずつ足が速くなる。
木が途切れ、光が差し込む。
あまりの眩しさに目がくらむ。
「……川だ。」
思わず走ろうとする。
が、足がもつれる。
派手に転んだがお構いなしに這っていく。
川の水はとても澄んでいて、きらきらと輝いている。
両手で掬い、喉に流し込む。
ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁ……
「……うまい。」
もう一度、両手で掬い、流し込む。
ビールなんて目じゃない。
ただの川の水が体中に染みわたる。
ぐぅ~~~~~~と音が鳴る。
喉が潤ったことで、空腹をより感じる。
とはいえ、すぐに食べられそうなものは見当たらない。
「……水で腹満たしとくか。」
飯の代わりにはならないが、からっぽよりマシだろう。
「……さてと」
そうなると、今度は飯だ。
水があっても飯がないと生きていけないしな。
そういえば、人って水だけだと、どれくらい持つんだっけ?
1週間……?もっとだっけ?
自慢じゃないが、俺なら3日も持たない気がする。
なるべく早く何か見つける必要があるな。
昨日、森の中を歩いてた時は何もなかった。
「となると、森の中は探しても仕方ないか。」
じゃあ、水辺はどうだろうか。
水辺だと植物も育ちやすいし、何か見つかるかもしれない。
「とりあえず、川沿いに歩いてみますか。」
◇◇◇
「しばらく歩いてみたけど……」
まぁ、あんまり大差ないな。
ただ、森の中よりは景色は変わる。
ほんとに川沿いの散歩って感じだ。
休日に散歩するやつの気持ちが少しわかる。
「川魚とかいればよかったんだけどねぇ」
いたとして火を起こせるかどうか。
そもそも俺に獲れるのか??
まぁ、いない奴の話をしてても仕方ないか。
「……ん?」
少し先の茂みに赤い何かが見える。
「ベリーかなにかか?」
丸みを帯びた葉の間に、実がたくさんついてる。
木の実というには少し大きい。
指先でつまむっていうより、指で掴む感じだ。
綺麗な赤色で、毒々しいって感じはしないな。
近づいて一つ手に取ってみる。
結構柔らかい。
ほんのりと甘い香りがする。
「やばい、かぶりつきたくなるな……」
口に放り込むのを我慢し、もう少し観察する。
虫とかもついてないし、有毒!って感じはしないな。
けど、虫すらついてないってのはどうなんだ?
毒があると虫もつかないらしいが……
考えてても仕方ないか。
「ええい、ままよ!」
一口かじってみる。
丸ごと放り込まないのがチキンというか俺らしいというか……
「……ん?うまい!」
瑞々しくてほんのり甘い。
木の実ってより果物みたいでうまい。
つまむつまむ、どんどんつまむ。
1日ぶりの食べ物に手が止まらない。
「うまい!うんまぁーい!」
俺ってこんな食いしん坊な感じだっけ??
空腹はスパイスとは言うが本当にそうだ。
ただの実がこんなに美味いんだから。
「いやー食った食った……」
我ながらよくこんなに食ったなって感じだ。
というより、この木の実が本当においしい。
最初は空腹のせいかと思ってたんだが、
それなりに食べてもうまかった。
こいつでデザートなんか作ったらいいかもな。
「さて、そろそろ行くか」
本当はこいつを持っていきたいところではあるが……
袋もないし、俺の手は杖代わりのデクノカリバーで片手しか空いてない。
「まぁ、ここだけってわけでもなし、また見つかるだろ」
綺麗な水もあるし、腹も膨れた。
少なくとも今すぐ死ぬわけではない。
「意外となんとかなるんじゃないか?」
最初こそ、思ってた始まりとは違ったが、
これはこれで冒険感があって悪くない。
遭難してることには変わりないが、絶望的じゃない。
あとは街さえ見つければいうことなしだな!
「まぁ、それもそのうちなんとかなるだろ」
異世界ものってそういうものなんだから。
◇◇◇
川をどんどん下ってく。
俺の見立てどおり、赤い実はちょくちょく出てくる。
これくらい出てくるならわざわざ持ってかなくてもいいな。
俺の冒険も安定してきて鼻歌まで出てきた。
とはいえ、今日森を出るのは難しそうだ。
「……そろそろ寝床も探しとかないとな」
昨日はそれで失敗した。
完全に日が沈む前に、用意しないと。
幸い、落ち葉が多い。
かき集めれば寝床になる。
それに寝心地も悪くない。
横になれるくらい開けた場所で、風さえしのげればそれでいい。
それとなく寝床になりそうな位置を探しておくか。
歩き続けてほどなく、ちょうどよさそうな場所があった。
このまま行ってもいいが……
「いや、暗くなってから歩くのは危ない。」
やめといた方がいいだろう。
それより寝床をしっかり作って、疲れを残さないほうが大切だ。
といっても材料は葉っぱだけなんだが。
さてどうやって作るか。
葉っぱをたっぷり敷き詰めればそれだけでベッドにはなる。
そのうえに大量の葉っぱを載せれば掛布団にもなる。
ミノムシスタイルだ。
けど枕だけはいかんともしがたい。
葉っぱだけだと高さが出ないし。
「うーん、どうしたものか……」
寝床予定地とにらめっこしていると、川が目に入る。
「あっ」
そうか石を使えばいいか。
石をまわりに並べればベッドの形も作れる。
平べったい石を並べて葉っぱをクッションにすれば枕になるだろう。
「そうと決まれば、材料集めだな」
自分のベッドづくり。
恵まれた状況ではないはずなのに、俺の足取りは軽かった。
◇◇◇
「できた!俺の寝床だ!」
簡素ながら満足のいく出来になった。
石のおかげで葉っぱも散らないし、ちゃんとふかふかだ。
枕もちょうどいい高さで、頭も痛くない。
「我ながらいい出来だ……」
こんなDIYもどきでも、妙に達成感がある。
ちょっと嬉しい。
ちょうど日もいい感じに沈み、休むにはいい頃合いだ。
「寝る前に小腹でも満たしますか!」
材料集めの時に、赤い実がある場所は確認済だ。
我ながら手際の良さにほれぼれする。
「さぁて、待っててくれよー、赤い実くーん!」
確認した場所に、戻ってきた。
細い葉の間に赤い実がこれでもかと実っている。
「お、あったあった」
相変わらずうまそうな見た目をしてるな。
昼間のようにつまんで確かめる。
「赤い実ヨシ!虫ヨシ!汚れヨシ!香りヨシ!」
特に問題なさそうだ。
「それじゃ、いただきまーす!」
「うまい!」
甘みのなかにほどよい酸味があって、いくらでも食べられそうだ。
すすむ、すすむ、指がすすむ。
わんこ木の実のようにするする入る。
「いやー食った食った。」
腹いっぱいで気持ちよく寝られそうだ。
「さて、帰るか!」
鼻歌交じりに寝床に帰る途中、違和感を感じる。
……なんだ?
胃のあたりが気持ち悪い。
急に汗が噴き出してくる。
「……うっ」
ふらついて、足に力が入らない。
デクノカリバーを慌てて探す。
が、ない。
「そうか……」
そこまで離れてないから置いてきたんだった。
木を支えに一歩ずつ歩く。
「うっ、うぉえっ……! げほっ、げほっ……」
こらえる間もなく吐く。
喉が胃液で焼けつく。
視界がグルグル回る。
苦しい。
なんだ、なにが起こった?
事態が飲み込めない。
頭もぼーっとして、うまくまとまらない。
嫌な汗が、止まらない。
なんだこれ、毒……?
「いや、でもなんで……」
昼に食べたときはなにもなかったんだ??
昼に食べたやつが今出てきた?
いや、それにしては時間が経ちすぎてる。
水?いや、水なんか散々飲んでる。
ダメだ、考えがまとまらない。
這うようにして、なんとか寝床までたどり着いた。
寝床に横になる。寒気がする。
さっきまであんなにふかふかだった葉っぱが、今はやけに冷たい。
苦しい、頭も痛い。
「なんで急に……」
いや、そうか。さっきの赤い実だ。
味が微妙に違ってた。
腐ってた?
「いや、違うはず……」
腐ってるなら匂いに出るはず。
そもそも形だってあんなに綺麗じゃないはず。
頭にモヤがかかったようだ。
吐き気も止まらない。汗がやけに冷たい。
手足の感覚も鈍い。
食中毒?いや腐ってなかったはず。
……毒?
だったら昼間はなんで……
「木の実の……種類が……違う……?」
もう少しでなにか掴めそうなのに届かない。
考えよりも身体の方に意識が引っ張られる。
寒いのに汗が止まらない。苦しい。
視界の端にデクノカリバーが映る。
手を伸ばそうとして、やめた。
なんだよこれ……なんなんだよ!!
今日は上手くいってたはずなのに!
憧れてた異世界要素なんて何一つなくて。
ただ生きるだけで精一杯で。
でも、俺でも、なんとかやれるかもって。
ちょっとだけ、そう思えたのに。
視界がゆがむ。
それが、涙のせいか、毒のせいか。
俺にはわからなかった。




