Day 2. ならん系異世界転移!!
来た!来た!ついに来た!
毎日あこがれ続けたなろうの世界!
夢にまで見た異世界転移!!
太陽がさんさんと輝き、草が瑞々しく生い茂っている!
あぁ、不思議と空気までおいしく感じてくる!
世界はこんなに輝いて見える!
「しかもこの体、間違いない」
「絶対に若返ってる!」
この肌のハリ!体の軽さ!
俺のわけのわからないダンスにまで即座に対応してくる!
みぃてくださいよぉ!このレスポンスの良さ!
思わず、深夜のテレビショッピングのテンションで解説したくなる。
ああ、生きてるってなんてすばらしいんだ……
「うっひょー!」
思わず草原に転がり込む。
全身で草の感触を味わう。
「めっちゃ青くせぇ~!」
肌にちくちくと刺さる。痛い。
「痛いってことは!夢じゃない!!」
本当に、本当に来たんだ!俺!
「ふぅー……流石にはしゃぎすぎだよな」
冷静になると流石に恥ずかしくなる。
けどそれくらい嬉しかったんだ、誰も見てないしいいよな。
勢いよく飛び起き、しっかりと地面に立つ。
身軽って最高だ…
「さて、異世界転移となろう系とくれば!」
「やっぱりあれだよな!」
そりゃそうだろ!あれがないと始まらない!
意を決し、思いっきり手のひらを前に突き出す。
「ステータスオープン!!」
俺の叫びがむなしく空に消えていく。
……なにもおこらない。
「……あれぇ、おかしいな……」
向きが悪かったのかな?
手のひらを空に掲げ、
「ステータスオープン!!」
風まで止んだ気がする……。
世界が止まったみたいだ。
草だけがちくちく刺さって痛い。
「んーポーズが悪かったのかな???」
呼び出すのにお決まりのポーズが必要なパターンもあるしな!
「ステータスオープン!」
「ステータス!オープン!!」
「Status!! Open!!」
その後も、あらゆるポーズと呼び方を試す。
だがどれだけ試しても出てこない。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
肩が大きく上下する。
流石に疲れた……。
「あーはいはい!そういうタイプね!」
ステータスが見れないタイプの世界なんだろう。
「じゃあ魔法はどうだ!」
目を閉じ、体の輪郭を意識する。
手のひらを前に突き出し、自分の中を巡る力が手のひらに集まるイメージ。
そのまま、集まった力が燃えながら!
手のひらから飛び出すイメージで!
「ファイア!!!」
……何も出ない。
そよ風だけが頬を撫でる。
「いでよ炎!」「フレイム!」「紅蓮!」「漆黒の闇より出でし原初の炎!!!」
当然、何も出ない。
「まぁ、流石に最初から魔法ってのもできすぎだよな……」
そのうち覚えられるだろ!異世界だし!
「さんざん動き回ったせいで喉が渇いたな……」
あれだけはしゃいだんだ無理もない。
こういう時は、あれだよな!
「アイテムウィンドウ!」「収納ボックス!」「インベントリオープン!」
……出ない。何も出ない。
「おいおい嘘だろ?」
収納までないのは流石に困る。
だって俺、布の服オンリーだぞ??
着の身着のまま放り出されるって、どうなってんだよ!?
「あまりにもハードモードすぎるだろ!!」
勇者ですら50Gとこんぼうはもらえるぞ!?
「……となれば……」
ゆっくりと周囲を見渡す。
が、草しかない。
「あれ?」
それならこのあたりで誰かと出会うのがお約束なんだが……
残念ながら360°どこを見ても人影すら見当たらない。草はある。
「はぁー……まぁいいや」
「少し歩けば、どっか着くだろ……」
草はもう見飽きたし。
「こんななろう、読んだことなかったな……」
思い描いていた異世界転移とは違い、早くもうんざりしてきた。
「帰りてぇ~~……」
歩く足取りは重い。
「この先どうなるんだろうな……」
◇◇◇
しばらく歩き続け、ようやく草以外の景色が見えてきた。
やっとだ……。
もう当分、草は見たくない。
遠くからでも一目でわかるくらい、デカい森だ。
「助かった……」
あれほど大きな森なら、日差しもかなりマシになるだろう。
眩しかった太陽が高く上り、今では忌々しさすら感じる。
太陽のそのテンションに付き合ってやれる余裕はない。
干からびてしまう。
それに、足もかなりくたくたになってきた。
止まるともう歩けないんじゃないか?
少なくとも俺のギフトとかチートとかは肉体強化ではないらしい。
悲しいが、この足がなによりの証拠だろう。
森に入ると、スッと体の熱が引いていくのを感じる。
それどころか涼しいくらいだ。
それに思ったより足元も開けている。
少なくとも歩いていてなにかに引っかかることはなさそうだ。
サクッサクッと落ち葉を踏みしめる音がする。
落ち葉がクッション代わりになって助かる。
この薄っぺらい革靴じゃ、足の裏に地面の硬さが全部伝わってくる。
毎日履いてた革靴の優秀さが染みてくる。
さらに一歩ずつ森を歩いていく。
驚くほど静かだ。
生き物の声も聞こえてこない。
人の気配なんてもちろんない。
進んでも進んでも、景色が変わらない。
鬱蒼とした風景がどこまでも続く。
足もそうだが、俺は本当に進んでるのか???
同じ光景ばかりで、まっすぐ歩けてるのかもわからない。
一生ここにいることになるんじゃないかと思わされる。
「……俺、ここから出られるのか……?」
サクッサクッと落ち葉を踏みしめる音だけが響く。
「スナック菓子食べるSEってこうやって作ってんだろうなぁ……」
しょうもないことを考えて気を紛らわせる。
「いかんいかん、めげるな、俺」
下を向きそうになるのをぐっとこらえ、前を見る。
「ん?なんだあれ?」
木々の間に、周囲とは明らかに色の違うものが見えた。
黄土色の、細長い何か。
もしかしたらなにか道具かもしれない!
疲れた足に活を入れ、足を速める。
「なんでもいい!なにか打開できるもの!」
思わずへたり込む。
……期待した自分が馬鹿だった。
「木の棒だ……」
こんな森にポツンと都合のいいものが落ちてるはずない。
少し考えればわかりそうなものなのに。
怒りに任せて木の棒を掴む。
が、投げ捨てようにも、うまく持ち上がらない。
「なっ!おっも……」
それはそうだ。
ただの木の棒というには大きすぎる。
両手剣くらいの長さはありそうだ。
今の俺には持て余す。
よろよろと木の棒を支えに立ち上がる。
なんだ?少し体が楽だぞ。
足にかかる重さが少し減っている。
「……そうか、杖にすればいいのか」
振るには大きすぎるが、杖にはちょうどいい。
「ははっ、こんだけ歩いてようやく得た成果が木の棒か……」
まったく、あまりのありがたさに涙が出てくるねぇ……
◇◇◇
相変わらず森は続いている。
ここまで景色が変わらないとあの草ですら恋しくなる。
「はぁ……」
溜息がうまく出ない。
喉で引っかかってるみたいだ。
息を吐くだけで喉がひりつく。
唾を飲み込んでも、口の中が全然潤わない。
その事実にまた溜息をつきそうになると、
ぐぅ~~~……
腹から愉快な音も鳴ってきた。
あまりに情けない音に笑いそうになる。
そりゃそうだよな、朝から何も食ってないし。
それどころか、水すら飲んでいない。
まずい、さすがにこれはまずい。
水か食べ物、なにか見つけないと。
なにかないかと、あたりを見回す。
……なにもない。
これだけの自然なら、木の実ぐらい落ちててもいいだろうに。
落ちているのは葉っぱばかり。
「……葉っぱって、食えないよな??」
まださすがにそこまで試すほどではない。
落ちてないなら上はどうだと見上げる。
が、なにもない。
見上げても、幹がどこまで続いているのかわからない。
枝と葉が何重にも重なって、空がほとんど見えない。
地球じゃまず見ることのない大きさだ。
「最悪だ……」
こんなことで異世界を感じたくなかった。
◇◇◇
あんなに輝いていた太陽も、もうずいぶん前から見えない。
木もでかけりゃ、森もでかい。
「寒っ……」
そよ風がやけに冷たい。
マイナスイオンに冷やされたのか?
違う、そうじゃない。
もう日が沈んでるんだ。
あまりに鬱蒼としているから気が付かなかった。
俺、このままここで寝るのか……??
「マズい、どこか休む場所……」
ここまでずっとそれどころじゃなくて、今日をどう終えるかなんて考えてなかった。
どんな場所がいいかもわからないまま当てもなく歩き続ける。
日が沈んだとわかったからか、余計に寒く感じる。
ちょっとした風が冷たく、簡素なぬののふくにダイレクトに効く。
「なんで半袖なんだよ……」
なんの機能もないTHE・ぬののふく。
こんな装備で勇者を旅立たせてたゲーム、正気か?
足取りが怪しい。うまく動かない。
まるで足が木の棒みたいだ。
これで木の棒が3つ。3人パーティまでいけるな。
「まぁ、パーティーどころか人がいればこんなことになってないんだけどな、ははっ……」
もうダメだ、限界だ。
頭もぼーっとして、自分でも意味の分からないことばかり出てくる。
とてもじゃないが、寝床を探す余裕なんてない。
少しだけ休もう……
開けた場所を見つけ、木の根元に腰を下ろす。
うまく頭がまわらない。視界もぼやけてきた。
手足が自分のものじゃないみたいだ。
まぁ、そりゃそうか……
今日1日歩き回って水すら飲んでいない。
今日の成果は、宝物のように抱えてる木の棒だけ。
なんだよこれ。
なろうってもっと輝いて、特別で、憧れるような……
そのまま倒れ込むように、意識を手放した。




