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Day17. 坂の上のなろ

いつまでもここにいるわけにもいかないし、

そろそろ行くか。


俺は空を見上げて太陽の位置を確認する。

まだそこまで高くは無い。

真上、いわゆる正午になるまではまだありそうだ。

この世界でも正午って言うのかは知らないが。


すぐにでも出発したいんだが……

この袋どうするかだよな。

俺はゴーグルのおっちゃんから貰った袋を見つめる。


手で持てばいいっちゃいいんだが……

片手が常に塞がってるのも、なんか落ち着かないな。

このままじゃ手のひらに袋を乗せ続けて、

ウェイターみたいに過ごさないといけなくなる。


うーん、どうしたもんか。

腕を組み悩もうとした俺の腕に何かが当たる。

オシャレじゃん!とウキウキで着けてきた腰帯だ。


その瞬間、俺に電流が走る。

俺は咄嗟に手元の袋を確認した。

ある、紐がある!


俺は袋の紐を使い、腰帯に袋を括り付けた。

……お、おお!

付いてる!付いてるぞ!


腰から少し重さを感じるが、ウェイター状態より全然マシだ。

我ながら名案じゃないか!?


俺はウキウキで一歩踏み出した。

すると正面にさっきの女の子がいた。

干し場の椅子で、足をパタパタとさせている。


あー、俺が手伝ったせいで暇になっちゃったのか。

なんだか悪いことしたかもな。


軽い罪悪感に苛まれてると、女の子がこっちに気付いた。

目が合い、女の子の表情がぱっと明るくなり、こちらに走ってきた。


おー、わんぱく全開だな。

女の子が近づいてくる。

けど勢いが弱まる気配がない。


ん?おい、ちょっと待て、まさか。

俺の予想通り、勢いそのままに腰にしがみついてきた。

腰に衝撃が伝わる。

これは……まずい!


わんぱく少女のタックルは俺の想像以上に鋭い。

これは受け止めきれないぞ。

衝撃に押されるようによろめいて――

視界が青空に染まった。


視界の端になにかが飛んでいくのが見える。

お、俺の燻製袋!!


手を必死に伸ばすが、届かない。

俺の努力も虚しく、ケツから衝撃のおかわりがきた。

今日ってこんなに天気が良かったんだな……


子供すら受け止められない貧弱さがうらめしい。

けどそれにしても強烈だったな。

見た目からは想像できなかった。


いててて。

尻が痛い。俺に尻もちの才能があって助かった。


って、そうだ!俺の燻製袋!

辺りを見渡すと近くに無造作に転がっていた。

中身はどうやら無事らしい。

よかった……。


「――!――!」

当の本人はそんなことを気にする様子もなく、

俺の腹の上で両手をあげてはしゃいでる。


やれやれだな。

苦笑いしつつ頭を軽く撫でた。

女の子が気持ちよさそうに目を細める。


撫で終わると、また元気いっぱいの顔に戻り、

「――!――!」

と、訴えかけてくる。

なんだろ、遊んでほしいのかな。


うーん、どうしたもんかな。

遊んであげたいのはやまやまなんだけど……


畑も見に行きたいしなぁ。

そもそもこのわんぱくさに今の身体で俺はついてけるのか?


……いや、今日は畑を優先しよう。

昼には戻らないとロニアにも怒られるらしいし。

今度、身体が治ったら遊びに来よう。


意を決して、身体を起こそうとする。

はしゃいでた女の子がひょいと離れた。


起き上がり、女の子の方を見る。

「――!――!」

相変わらず元気いっぱいだ。


燻製袋の方へ歩き、拾い上げる。

袋の紐を、再度腰帯に結び直す。


今度は外れないようにキツく結んどこう。

これでもかと念入りに括り付ける。


こんなことしてる間も、女の子は楽しそうに跳ね回ってる。

この笑顔を曇らせることを考えると、少し心苦しい。

が、心を強く持つ。

「いや」

俺は首を横に振り答えた。


女の子が悲しそうな顔をしてうつむいてしまった。

ああ、いや、違うんだ!!


俺は慌ててしゃがみ込み、女の子と目線を合わせる。

自分に指さした後に、坂の下の方を指さす。

女の子が指の先を見た。


その後こっちを見て、

「行くの?」

と、耳をへにょりと下げながら聞いてくる。


あー、もう、心が折れそうだ。

「ああ」

俺は心を鬼にして頷いた。


けど、このままでは終わらせない。

俺はすぐに服を少しめくり包帯を見せた。

そのまま腕を曲げ、力こぶを見せるようなポーズを取る。

包帯を見せ、元気いっぱいのポーズを取った後に、すぐさま今の場所を指さす。


治ったら来るって伝えたいんだけど……

伝わらないか……?


「――、――?」

女の子が不安そうに聞いてくる。

来てくれるか?ってことか?

そんなの聞かれるまでもない。


「ああ」

俺は女の子の目を見てしっかりと頷く。

そのまま指切りの形で小指を差し出してしまった。


しまった、ついやってしまったけど伝わるのかこれ。

女の子は不思議そうに見ていたが、俺の表情を見て同じようにマネする。

そのまま小指を結んで、しっかりと握る。


女の子の表情が和らいでいく。

よかった、なんとか伝わったみたいだ。


俺は自分を指さして名前を伝える。

「リ、スケ?」

たどたどしく俺の発音を真似してる。


あー、やっぱそうなるか。

俺は笑みをこぼしたまま頷いた。


女の子を指さしてみる。

ちょっときょとんとしてからはっとした表情になる。

「リル!」

明るく、陰りのない表情で答えてくれた。


見たかった顔だ、よかった。

俺は頭を撫でながら立ち上がる。


「ここ、来る」

足元を指さしながら伝えた。


女の子が元気よく頷いて答えてくれる。

「またな、リル」

「またね!リスケ!」


歩き出した俺に向けて元気よく手が振られる。

俺も振り向き、軽く手を振り返し、前を向いた。


その後も木材の加工場やら露店やらを横目に坂をくだり続ける。


ん?あれ?

道が2つに別れてる。


なんか意外だな。

てっきり一本道とばかり思ってた。


どうしたもんか。

正面には今まで通りの坂道が続いてる。

が、突然左手側に脇道が出てきたもんだから、

どちらに進むか迷う。


脇道の方をちらりと見る。

少し暗いと思ったが、なんだあれ?

トン……ネル……?


よく見るとトンネルはトンネルでも、巨大樹の枝葉で出来たトンネルだ。

道にはみ出した枝葉だけが切り払われ、残った枝葉が壁や天井みたいに通りを覆っている。


……なんだか、秘密の通路みたいだな。

よし!こっちにしてみよう!

こういう道っていくつになってもワクワクするよな。


トンネルに踏み込むと少し静かになったような気がする。

暗いからか空気もひんやりしてる気がしてきた。


この通路、結構短いんだな。

ゆっくり歩いてると先の方が明るくなってきた。


トンネルを抜けると、視界が一気に開けた。

うわ、眩しい!

咄嗟に手で影をつくる。


少しずつ目が馴染んでくる。

俺の目の前に広がっていたのは――

一面の青空の下、大きく広がるだんだん畑だった。


おお、すげぇ。

天空畑みたいな印象だ。

マチュピチュとかこんな感じだったのかな。


畑が扇を開いたみたいに広がっている。

それが斜面に沿って何段も続いていて、でっかい階段みたいだ。

土の茶色と畑の緑が交互に重なって、山肌そのものが一枚の絵みたいに見える。


しばらくぼーっと眺めてると、畑で作業をしてる人たちが見える。

土を耕してる人、しゃがみ込んで何かを植えてる人、葉の間を覗き込みながら手を動かしてる人。


畑の位置によってやっている作業が違う。

育ててる野菜が違うのかな?


何となく辺りを歩き回ってみる。

サラサラサラサラと、水が流れてくるような音が聞こえてきた。


どこから聞こえてきたんだ?

音の出処を探すと、それはすぐに見つかった。


畑の横の溝に水が流れている。

こんな所にどうやって水なんか引いてるんだ?


好奇心に勧められるがまま、溝を辿っていく。

あれは……川?

いや、違う。

人工的に作られた流水路だ。


小川くらいの幅がある水路から、

細かい溝の形の水路に水が分けられていた。

流水路を目で追っていくと森の奥に繋がってる。


川から水を引いてるのか?

なんていうか、大胆というか大味というか……

けどたしかに、1度作ってしまえば楽だし便利だよな。


畑に視線を戻すと、ちょうど水路を使うところらしい。

農家の人が溝のところまで歩いてきた。


細い水路にあるついたてみたいな板を開け、水が流れ出す。

畝畝(うね)と畝の間に流れ出し、畑を潤していく。


おおー便利だな。

畑にいちいち水をまかなくてもいいのはすごいな。


あたりをざっと見渡してみる。

改めて見ると、すごい広いな。


村の規模的にここまでの広さは必要なのか?

思ってたよりずっと食べ物には余裕があるのかもな。


そんなことを考えながら、ぼーっと眺める。

畑で作業をしてる人と目が合った。


俺は軽く頭を下げ、会釈する。

……完全に癖だな、伝わるのかこれ。


農家の人がはっとした顔になり、

「――!――!」

まわりの人に大声で声を掛け始めた。


なんだ、なんだ?

もしかして入っちゃいけなかったのか?


胃がきゅっとなり、嫌な汗が出てくる。

まずい、なにかあってもどうにもできないぞ。


慌てふためく俺なんざお構いなしに、どんどん人が集まってきた。

その中の一人が前に出てくる。


怒られる、そう腹をくくってると、

「リスケ?――、リスケ、大丈夫なのか?」

むちゃくちゃ笑顔で話しかけられた。


「――!」「――?」「――、――」「――!」

それを皮切りにまわりの人たちもどんどん話しかけてくる。


なんだ!なんだ!なにを言われてるのかわからん!

色んな事を言われながらもみくちゃにされる。


前もあったなこんなこと……

怒られてるわけではないのはよかったけど、身動きが取れない。

人の波に押されて、だんだん目が回ってきた。

だ、誰か助けてくれー!


ここにはロニアもジェルグもシェイラもいない。

自分でなんとかしようにも、やめてすら言えない。

情緒教育中の幼児か、俺は。


ああ、バターになる……

抵抗をあきらめてぐるぐる回され続ける俺。


「――!――?」

諫めるような大声があたりに響き渡る。


まわりが驚いたように肩を震わせ、

人の波がスッと引いていった。


みんなバツが悪そうにそそくさと作業に戻っていく。

あれだけ盛り上がっていたのが嘘みたいだ。


声の主を探すと、すぐに見つかった。

少し離れたところに、白髪のじいさんがこちらを見ていた。


「ありがとう!」

俺は手を振りながら大声で礼を伝えた。


が、白髪のじいさんはそんな俺を見てフン、と鼻を鳴らし、

そのまま歩いていってしまった。



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