Day 11. 気になろう!!
前回までのあらすじ!
日が暮れたから、村に降りて家に帰ろうとなった俺たち!
そこに現れた、想像を絶するプレゼントの山!
こんな山、一体どうしろっていうんだよ!!
どうなっちゃうの!俺たち!!
「……っは!」
現実逃避してた意識が戻される。
どれだけ妄想に逃げても現実は変わらない。
ジェルグは酔っぱらってるし、荷物は山のままだし、
身体もちゃんと痛い。
きちんと向き合うしかないか……
荷物の山と対峙する。
今見ると改めてすごい量だ。
一時とはいえこれを持ってたのが信じられない。
とてもじゃないが持って帰れないだろう。
うーん、どうしたものか。
普通ならここに置かせてもらって、半分ずつ運ぶといいんだが……
言葉がなー!!伝わらないんだよな!!
半分ここに置いて、明日取りに来ていいですか。
こんな簡単なことが言えない。
もどかしい、実にもどかしい……
じゃあここでいつものアレやってみますか。
国境どころか世界を超えるボディランゲージ。
って言いたいのはやまやまなんだが……
ボディランゲージで明日ってどう表現するんだよ。
明日、どころかまた取りに来るすらどうやって説明するんだよ。
絵が描けたらなーとは思うが、絵が描けたところでこの問題は解決しない。
「明日また取りに来る」も絵で説明できないからな……
ぬがあああああああああ。
チートが一個もないどころか、なんで言葉すら通じないんだよ!!
なろうとか異世界ものって普通は伝わるだろ!!
草原で遭難するわ、チートは一切ないわ、死にかけるわ。
一体どうなってんだよ俺の異世界生活。
こんななろう読んだことないっつーの。
荷物の山を改めて眺める。
身体が万全なら休み休みで持って行けたかもしれないが……
上りは荷物がなくてもいっぱいいっぱいだったからな。
もともとの体力がないのか、体力が落ちているのかはさておき、
今の俺の体力はロニア以下だ。
杖を持ってるにも関わらず、ロニアが息切れを一切してない坂を、
俺は肩で息をしながら登ってたし。
とてもじゃないがこの荷物を持っては帰れない。
……いや、休みながらならいけるか??
ロニアと箱をふたり一緒に運べばいいのではとは思ったが……
意地というか、なんというか、ロニアに持たせるのは忍びない。
やっぱりこういうのは俺の方が持たないとなと思ってしまう。
前時代的なのかねぇ……
その時、俺にあるお告げが降りてきた。
――もしかして、「気」なのでは……?
この世界では魔法とかではなく、気の巡りを使い、
武術的ななにかで身体を強化する。
そんな世界なのでは?
俺は意を決し、荷物へと歩みを進める。
「リスケ?」
俺の表情からただならぬ何かを感じたロニアが、
心配そうにこちらを見ている。
シェイラも武人のよしみと言わんばかりに、真剣な顔つきで見守っている。
ジェルグは酔っぱらっている。
俺は荷物の前に立つと、静かに目を閉じる。
へその下にある丹田を意識する。
そこから湧き上がるエネルギーを全身へめぐらせ、
循環させるイメージ。
丹田から肺、肺に来たエネルギーを呼吸で膨らませ、
血管を通し、腕から指先へ。
腰から太ももを通し、足へ。
――来た。
身体が熱を持つ感じがする。
これが気が満ちるってことなんだろうか。
今ならいける気がする。
箱へゆっくりと手を伸ばす。
そのまま箱に手を掛ける。
――ここだ!!
俺はカッと目を見開き、
両腕に力を込めた。
「いや、無理無理無理無理!」
全然持ち上がる気がしない。
身体が熱いのもこれ、ジェルグからもらった酒で火照ってるだけだ。
「リスケ!」
ロニアが怒ってる。
それはもう烈火のごとく。
耳どころか全身の毛が逆立ってる。
そのままズンズンとこちらへ距離を詰めてくる。
「いや、違うんだよ!あの、なんというか、
『気』が!いけると思ったんだよ!!」
思わず、日本語で言い訳にもならない言い訳を並べてしまう。
「リスケ!!」
当然伝わらない。
伝わったとしても多分、通じない。
助けを求めてシェイラの方をちらっと見る。
「あっはははははははははは!」
笑ってる……
腹を抱えて大爆笑してる。
さっきまでの気高さとか美しさとか微塵もなく腹を抱えて大爆笑してる。
とっさにジェルグの方を見る。
酔っぱらってる。
ついにロニアが俺の目の前にたどり着いてしまった。
「リスケ!!――!――!!――!!」
ロニアが人差し指を立て、俺に突きつけながら何かを話している。
多分、いや。
絶対にこれは怒られている……
俺が無理をして荷物の山を持とうとしたことで叱られている。
ジェルグの時のように肩をすぼめ、しゅんとする。
こうなってしまっては嵐が過ぎ去るのを待つしかない。
俺は全身で降伏のポーズを取り続けた。
案外この中で一番強いのはロニアなのかもな……
「ロニア」
笑い声がしてた方から声がする。
大爆笑してた姉さんが止めに入った。
やっと笑い終わったらしい。
俺は少し恨めしげにシェイラの方を見る。
シェイラが苦笑いしながら、ひらひらと手を振る。
一応、申し訳なさそうな雰囲気を感じる。
まぁ、もとはと言えば俺が悪いんだが。
「リスケ、――?」
ロニアが身体をぺたぺたと触ってくる。
そのまま包帯を覗き込んだり、その周りを軽く押したりしている。
その表情は真剣そのものだ。
「あのー」
と、気まずさについ声を出してしまった俺を、
ロニアがむっとした顔でねめつける。
アッ、ハイ。
これは下手に逆らわないほうがよさそうだ。
ロニアと過ごしたのはそんなに長くはないが、
それでもこうなったら梃子でも動かないのは知ってる。
試しにシェイラに視線を送る。
助けてくれー!
シェイラに意図は伝わったものの、
左右の手のひらを顔の横に持ってきて、首を横に振っている。
その表情からははっきりと、
諦めろ。
というメッセージが伝わる。
おお、言語を越えた意思疎通。
素晴らしいなー。
涙が出てきた。
どうやら長い付き合いらしいシェイラから見ても、
こうなったロニアは変わらないらしい。
ロニアは場所を変えながら、丁寧にぺたぺたと身体を確かめていく。
まぁ、なんだ、その、
身体自体は、特に悪くなった感じはないんだが……
ぺたぺたされるのがこそばゆいのと、
そこまで気に掛けられるのが恥ずかしいのとで、
二重にむずがゆい。
シェイラが苦笑いしながら、こちらを眺めている。
どうやらロニアがこうなのはいつものことらしい。
お、どうやらロニアのチェックが終わったみたいだ。
俺の身体を一通り見たあと、コクンと頷いて離れた。
特に問題は見つからなかったようだ。
ほんまにええこや……
……怒らせたのは俺なんだけど。
さて、帰ってきてしまったか。
この山どうすんだよ問題に。
来た時と同じように、
ジェルグに頼むのが一番丸いんだが……
ちらりとジェルグの方をみてみる。
気持ちよさそうにうとうとしている。
なんでだよ。
ジェルグが飲みすぎなのか、酒に弱すぎなのか。
普通、酒強いだろ、こういうタイプ。
運んでくれくらいならボディランゲージで、
伝えられただろうけど……
まぁ、あんまり頼むのも申し訳ないしな。
とはいえ、どうしたもんかねぇ。
と悩んでいると、ロニアがこちらをのぞき込んでくる。
その後、荷物の山をちらっと見て、
シェイラの方へぱたぱた歩いて行った。
「シェイラ」
後ろから声がする。
ロニアがシェイラに声を掛けたらしい。
ん?なんだ?
ロニアがシェイラを見つめている。
すると、シェイラが何かを察知したらしい。
コクンと一頷きするとこちらへ歩いてきた。
「リスケ」
と優しく声をかけられ、手で下がるように指示される。
いやいやいや、意図はわかるけど……
流石に無理でしょ。
シェイラは、狩人で鍛冶もしてる。
たしかに、普通の人より力はあるだろう。
だけどシェイラ自身はかなりの細身だ。
俺よりスリムなんじゃないか??
……別に俺が太ってるわけじゃないぞ。
その細身でとてもじゃないが、あの山を持てるとは思えない。
ありがたいが、辞退しておこう。
シェイラが荷物が入った箱に手を掛ける。
やはり荷物を持ってくれるつもりなんだろう。
「あの、シェイラ」
と、声を掛けようとした瞬間――
シェイラが荷物の山をひょいと持ち上げた。
「えええええええええええええええええええ」
嘘だろ!?
持ち上げただけならまだしも、
鍋を持ち上げるくらいの気軽さだったぞ今!?
シェイラはそのままさらに、ひょいと片手で肩に担いでしまった。
おい、どうなってんだ。
そのスリムモデル体型のどこからそんな力出てくるんだよ。
むしろ俺の力がなさすぎるのか??
上ってくる時も俺だけ息切れして、ロニアはしてなかったし。
唖然とする俺にお構いなしにシェイラが外に出ていく。
俺はその背中をぼーっと眺めてるしかできなかった。
「リスケ」
ロニアに呼ばれて我に返る。
ロニアは平然としてる。
どうやら当たり前のことらしい。
マジかよ。
異世界、すげぇ。
ほんと俺以外のところで異世界感じるな。
俺はロニアとシェイラの後に続き、詰め所を出た。
後ろからジェルグのいびきが聞こえてきた。
ふたりの感じからしてほっといていいらしい。
さらば……ジェルグ……
外に出ると、空はもうかなり赤く染まっていた。
もう少し遅れてたら夜になってたかもな。
シェイラが作業場の入口で待っている。
俺は作業場の入口まで歩いていき――
言葉を失った。
目の前には、村が広がっていた。
山の斜面に沿って並ぶ家々。
その間を縫うように、細い道が伸びている。
昼間、俺が歩いた道だ。
あれだけ広く感じていた村も、ここから見ると全部がひとつにつながって見える。
家々の屋根からは、細い煙がゆっくりと空へ昇っていた。
道を歩く人の姿も、ここからでは小さな影にしか見えない。
その向こうには、どこまでも森が続いている。
傾いた夕日が、村を、森を、遠くの山まで柔らかな橙色に染めていた。
木々の隙間からこぼれた光が屋根を照らし、長く伸びた影が道の上に重なっていく。
昼間とはまるで違う場所みたいだった。
思わずため息が出る。
「綺麗だ……」
口から自然とこぼれた。
ロニアとシェイラがこちらを見る。
ふたりとも見惚れる俺を笑ったりせず、
柔らかく微笑みながら見守ってくれている。
別に、異世界でしか見られないような景色じゃない。
村があって、森があって、夕日が沈んでいく。
ただそれだけなのに、
なぜか目が離せなかった。
こんな景色、
今までにも見たことがあったのかもしれない。
なのに――
はじめて見たような気がした。
しばらく、みんなでその景色を眺めていた。
3人の影だけが、ゆっくりと伸びていった。




