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Day 10. 狩人のお仕事

ロニアがシェイラと話してる。

耳がぴょこぴょこ跳ねてる。

耳どころか身体も実際に跳ねてる。


シェイラがそれを見て頭を撫でたり、

微笑ましそうにしてる。

そんな二人を俺とジェルグは少し離れたところから見てた。


こうやってみると、なんか姉妹みたいだな。

髪の色も、ロニアは綺麗な白。

対してシェイラは情熱的な赤。

耳もうさぎのほわほわした耳と、狼の尖った鋭い耳で全く違うのに。


多分あの二人、実は姉妹ですよって言われても納得できる。

というか実際にそうなんじゃないか??

家ではロニアしかみたことなかったけど。

なんでだろ。

ロニア以外に住んでる気配もなかったな。


ふたりとも狩りでしばらく外に出てたんだろうか。

そう思い、ジェルグの方をちらっと見た。


……樽??

机の上に馬鹿でかいジョッキが置かれてた。

中からほのかにアルコールの香りがしてくる。


ジョッキをジェルグがむんずとわしづかみ。

ゴクッゴクッゴクッ……

水を飲むみたいに飲みだした。


いやいやいやいや。

何だこのデカさ!?しかも水じゃないだろそれ。

これ一杯で何人酔いつぶれるんだ!?


ドンッと机にジョッキが置かれる。

こえええええ。

風圧で吹き飛ぶんじゃないかと思った……

ただジョッキが置かれただけなのに迫力が違いすぎる。


かなりデカい音がしたはずなのに、

ロニアとシェイラは一切気にした様子がない。

おそらく、これが平常運転なんだろう。


ジェルグが腰から袋を取り出す。

今度はなんだ?

……干し肉だ。


狩りのための携帯食料なのか、干し肉を取り出した。

そしてそれをそのまま、食べた。

おつまみだ……


それ、保存食じゃないのか!?

そんな晩酌のあてみたいな感じで食べていいのかよ。

サイズもジェルグ仕様で、

アメリカンステーキをそのまま干し肉にしちゃいました!

みたいな感じの干し肉だ。


ブチッと嚙みちぎり、水のように酒を流す。

にこにこだ……

なんだこれ??

豪快なおっさんが酒を楽しんでる絵面なのに、

表情だけはスイーツを楽しむ女子みたいだ。


多分、うまいものが好きなんだろう。

俺がじっと見てると、ジェルグがこっちに気付く。

視線を上にあげ、少し考えてる。

その後、ああ!と気づいたような反応をして、

そのまま俺の方にドンッとジョッキを置いてきた。


いや、無理無理無理!

俺も晩酌くらいするけどこの量は無理!

俺はジェルグに向かって首を必死に横に振る。


どうやら酒が欲しいわけではないとわかったジェルグが、考えている。

その後、ブチッと干し肉をちぎって渡してきた。

それでもないんだけどな……


どれくらい狩りに出かけてたのか、

汚れ具合から何かわからないかと思って見てたんだが……


せっかくだし、もらっておくか。

一切れ受け取る。

一切れで普通の市販サイズくらいだ。


受け取った感じ、ビーフジャーキーみたいだ。

香りは……なんだろ。

燻製みたいに燻してるのかな、いい匂いがする。


一口かじる。

「ん、うまい!!」

肉のうまみが凝縮されてる。

塩味がきついかと思ったらそんなこともなく、

燻製の香りがいいアクセントになってる。


俺の様子を見てたジェルグが満足そうにした後、席を立つ。

そのまま棚の方に歩いていき何かを取り出す。

なんだ?


ジェルグがこっちへ戻ってくる。

手には小さめの、俺でも普通に持てそうなコップがある。

そのコップをそのまま俺の前にそっと置いた。


コップから、ジェルグのジョッキと同じ香りがする。

同じ酒だろうか。

これくらいなら、まぁ……

とひとくち口に含む。


え、うまい!!

ワインなんだろうか。

フルーツっぽい甘みがあるお酒で、

口当たりもよくて飲みやすい!

しかもアルコール度数もそこまで高くなさそうだ。


ってジェルグの奴、

あのいかつさでこんなOLみたいな酒飲んでたのか……

だけど本当に美味い。

干し肉の塩味が、酒の甘みをより際立たせる。

片方食べるともう片方を飲みたくなる。


干し肉をかじる。

酒を飲む。

「美味い!!」

手が止まらないなこれ。


そんな俺の様子をジェルグが満足そうに眺めてくる。

って、違う違う!

美味すぎてつられてしまったが、そうじゃない。


ちらりとジェルグの方を見てみる。

そんなに汚れた様子もない。

というかかなりキレイだ。


少なくとも何日も野宿して歩き回った感じはない。

日帰りか、長くても一晩くらいだろうか。

大したことはなかったみたいだ。


ってことは、ロニアはほんとに一人暮らしなのか。

ロニアとシェイラの方を眺める。

あんなに仲いいのにな。

まぁ、でもそんなもんなのか。


「ん?」

ロニアとシェイラが外に出ていく。

何処に行くんだろ。


ジェルグ……はうまそうに楽しんでるな。

まぁ、聞いてもわからないか。そもそも聞けないし。

俺は席を立って、ふたりを追いかけることにした。


詰め所を後にし、外に出る。

改めて思うが、空気がうまい。

なんというか澄んでいて、冷たい感じがする。

最初に見たときに張り詰めた雰囲気を感じたのもこれかもな。


あたりを見回す。

カンッカンッと来た時に聞いた音がする。

「お、いたいた」

ロニアとシェイラが鍛冶場の方にいた。


なにしてんだろ。

ふたりの方へ歩いていく。


シェイラが火のそばで金槌を振っている。

少し離れたところからロニアが手元をのぞき込んでた。


ロニアの横から同じように手元をのぞき込む。

なんだこれ、ナイフか??

手のひらサイズくらいの刃を金槌で整えている。


刃を目の高さまで持ち上げ、のぞき込んでいる。

シェイラの視線がナイフを捉える。

まるで彼女自身が一本のナイフみたいだ。


獲物を狙うときもこんな感じなのかな。

集中し、研ぎ澄ます。

言葉では簡単に言えるけど、実際に見るのははじめてだ。


叩き、整え、削り、また整える。

力強いだけでなく、その動作一つ一つが洗練されている。


ロニアが夢中になって見るのがわかる。

シェイラがただナイフを打ってるだけなのに、

その様子がすごく絵になる。


シェイラが額の汗を腕でぬぐい、一息つく。

どうやらキリがいいところまで進んだらしい。

そのままこちらに気付き、

「――!」

両肩を大きく跳ねさせた。


俺とロニアがじっと見てたのにびっくりしたらしい。

「――!」

ロニアの耳が大きく揺れる。

楽しそうに笑ってる。


そんな様子をみてシェイラがやれやれと溜息をつく。

シェイラの前では意外といたずらっ子なんだな。

ロニアらしい一面に頬が緩む。


シェイラが席を立つ。

机のところまで歩き、コップを手にグイッと一気に飲み干す。

すごい汗だな。

それもそうだ、少し離れた俺の位置でも炉の熱さが伝わるくらいだ。

実際に打ってたシェイラはその比じゃないだろう。


汗をぬぐい、涼しそうにしている。

俺はとっさに目を外した。

もう少し、周りを気にしてほしいな……

事あるごとに刺激が強い。


そのまま鍛冶場を眺める。

炉や金床だけじゃなく、砥石や資材など。

必要そうなものは一通り揃ってる。


だいたいのことはここで事足りそうだ。

棚の方を見ると、三角形の鉄の塊が並べられている。


これって、矢尻か??

尖った先に返しのようなものが付いている。

自分たちでだいたいのものは作ってるらしい。


……俺の顔くらいあるんじゃないかって矢尻がある。

誰のものか考えるまでもないな……

作るだけで苦労しそうだ。


鍛冶場を見て回ってると、遠くに吊るされた皮が見えた。

「たしか、あっちは……解体場だったな」

机に動物みたいなの乗せられてたしな。

せっかくだし、解体場も見ていくか。

詰め所や鍛冶場と違ってあんまり見るものはなさそうだけどな。


どれどれっと。

「うわ……」

俺の見立てが甘かった。

ある意味、ここが一番狩人らしさを感じる場所かもしれない。


動物を解体する場所。

一言でいえばただ単にそうなんだけど、

実際に目にすると印象が違いすぎる。


外からは皮が吊られてるのしか見えなかったが、近くまで来ると色々見えてくる。

肉と皮と骨に分ける。

それぐらいのイメージしかもってなかった。


けど実際に見ると、肉は部位ごとに細かく分けられている。

骨だけでも大きい骨と小さい骨、再利用できないであろう骨で分別されている。


さらに印象的だったのは、腑分けだ。

内臓がいくつかの種類に分けられて、腱なんかは取り分けて吊るされている。


桶に血が溜められている。

なにかに使うんだろうか。


これは……ちょっと……

あまりにもグロテスクな光景に少し血の気が引く。

1つの命を余すことなく、きちんと使い切る。

敬意にも似た徹底さを感じる。


俺の見積もりが完全に甘かったな……

そらそうだ。

獲物だって有限だ。

生きるためには無駄になんてしてられない。


机の上の生き物だったものを見る。

俺もこいつに生かされたのかな。

「ごちそうさまでした」

俺は静かに両手を合わせ、感謝した。


さて、そろそろ戻るか。

と戻ろうとした時に、視界の端に何かが映る。

え……?

これって……鉈??


だけど、それは鉈と言うにはあまりにも大きすぎた。

大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。

そんなナレーションが聞こえてきそうなデカさだ。


いや、これもうただの両手剣だろ。

少なくとも解体に使うものじゃねぇよ。


思わず両手で握りしめ振り回してみたくなる。

そんなわんぱく衝動と葛藤してると、

「リスケ!」

シェイラが呼んでいる。


やべっ俺なんかやらかしたか??

咄嗟に謝ろうとしたが、どうやら違うらしい。


シェイラが上を指さし、そのまま下を指さした。

なんだ??

俺は上を見上げる。

日が傾いてきて、空がすっかりオレンジ色に染まっている。


どうやらもう下へ降りるということらしい。

よかった……怒られたわけじゃなかったんだな。

呼ばれたタイミングもちょうどよかった。


このままだと俺の中のわんぱく心に負けてただろうし。

それこそ本当にシェイラに怒られかねない。

シェイラ怒った時怖そうだしな……

いや、俺がバカやったって知ったロニアの方が怖いか。


俺はシェイラの後を追うように、詰め所に戻った。


中に入るとジェルグがすっかり出来上がってた。

うそだろ??

量が量とはいえ、アルコール度数はかなり低かったぞ??

あれからずっと飲んでたのか?


まぁ、ジェルグのことはジェルグがなんとかするだろう。

シェイラもロニアも気にした様子はないし。

放っておいても大丈夫そうだ。


「リスケ!」

ロニアがぱたぱたと駆け寄ってきた。

そのまま杖を渡してくる。


ロニアから杖を受け取る。

よし、じゃあ帰るか!

と出ようとした時、

俺の視界に机の上の山が映る。


「あっ……」

しまった……完全に忘れてた。

プレゼントの山が鎮座している。

ゴゴゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてきそうな佇まいだ。


おいおいどうすんだこれ……

上りはジェルグに持ってもらって、ただ上るだけで息切れしたのに。


思わず天井を見上げる。

視界を上に逃がしても、まだ見える。

荷物の大きさを改めてわからされただけだった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


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