旅は道連れ
最終話です。 この堅苦しい、重い、メンドクサイ、伏線回収100%ではない物語に最後までお付き合いいただきました皆様、本当にありがとうございました!!
チャギの里を発つ間際のことだ。
レンゲは里長役の引退を決め、シュリは里の再興を計画すると言った。
ツバナは子供を産むと約束し、ワセイは里の外で働き口をみつけるつもりだと話した。
アケノはすべての後始末をつけると一族の説得を買って出て、コトは息を引き取っているのを発見された。
そして今日、チャギの里を後にする。
タカマはハルトオの正気を疑って訊いた。
「本気か」
「もちろん。一緒に来る気なら、早く乗ってくれ。深夜には雪が降りそうだから、いますぐ出立したいんだ」
ハルトオはマドカ・ツミドカ・クジ神の頭上から大声で叫んだ。
どうしても南国ミササギに急ぎの用で行かなければならないのだと、ハルトオはレンゲに協力を要請した。
だが山はすっかり雪景色で、樹氷がきらめき、山の積雪は既に七メグを超えていた。ひとの足で冬山を越えるのは困難だった。
困っていたところへ、マドカ・ツミドカ・クジ神が空中飛行の申し出をしてくれたので、ハルトオは即決し、現在に至る。
祟りの落ちたマドカ・ツミドカ・クジ神は翼のある白大蛇で、稀に見る希少種だと判明した。カジャを特に気に入って、ハルトオに神名を預け、今後の助力も約束したほどだ。
旅装と荷物などの身支度を整えたハルトオとカジャが、マドカ・ツミドカ・クジ神の頭部に大縄を轡のように嵌め、それに掴まった恰好で待機していた。
タカマは常識を放棄した。
意外になめらかな鱗状の胴部をよじ登り、独特の臭気に耐えて、ハルトオとカジャのもとまで這っていく。
そのときにはソウガドオ・ヒガラシ・エミシ神とフジ・ヤコウ・ゴウリョウ神も現れて、飛行のための安全を図ってくれていた。
眼下でチャギのひとびとが見送りの手を振っている。
マドカ・ツミドカ・クジ神の巨躯が意外な軽やかさで宙に浮く。翼はほとんど使用せず、推進力は抜群で、上昇はゆるやかだった。
雲の高みまで昇り、水平移動に移行する。うねりは少なく、揺れもおとなしい。
空にかかる細い月に白く照らされて、雪がちらつく銀の星海の下を進む。
「それはそうと」
しばらく夢心地で夜空の旅を愉しんだあと、ハルトオがタカマを見た。
「なんだ」
「私たちは用があってミササギに行く。そのあとはたぶん、また各地を放浪することになると思う」
「そうか」
「うまく件の鳥の神と会えても美の神も捜さなくてはいけないし、旅が当分続くわけで、せっかく知りあえたのだし、もし、そのう、タカマさえよければ――」
「落ち着け。つまり、なんだ」
「タカマさえよければ、もう少し一緒に旅をどうかな」
タカマは怪訝そうにハルトオを見返した。
「……私たちは、って、俺は数に入っていないのか。当然行くつもりでいたんだが」
「え、そうなのか」
「いつまで共にいられるかわからないが、こんな俺でもよければ、もう少しつきあわせてくれと言ったろう。迷惑か」
「違うよ。なんだ、そうか。もっと早くに訊けばよかった。いてくれるならよかった」
「どうして」
「旅の道連れは多いほうが楽しいじゃないか。な、カジャ」
「うん」
「……旅の道連れ、ね。まだその程度か」
「タカマは、どうしてだ」
「なにが」
「だから、どうして私たちと一緒に来てくれるんだ」
「あなたのことが好きだからだ」
タカマはそんなこともわからないのか、という眼でハルトオをじろりと見た。
意表をつかれた面持ちで、ハルトオはきょとんとしている。
だが外野のほうがうるさくなった。
特にソウガドオ・ヒガラシ・エミシ神とフジ・ヤコウ・ゴウリョウ神の怒気と嫉妬と説教ときたら、空に瞬く星さえも落とす剣幕だ。
この夜、西の空を流星雨が埋めた。
その無数のきらめきの中を、翼の生えた白い大蛇がよぎっていく姿が各地で目撃された。
吉兆だ、凶兆だと一時巷で騒がれたが、その頭上で子供が歌っていたという信憑性のなさゆえ、噂は間もなく立ち消えた。
だが、噂には尾ひれがついていた。
白い大蛇のすぐあとを、巨大な鳥が追っていく。
なぜかその様子を見た者は、愛に恵まれるのだと、そんな他愛のない逸話。
完
谷町クダリ様よりの頂き物です! ありがとうございました!
完結です。 この物語は、二ヶ月で書き上げました。それも仕事に忙殺され、趣味で踊っている練習にも出ないわけにはいかず、ものすごーく忙しいさなかにできました。いやあ、頑張りました。が、そのため、精密なプロットが立てられず、見切り発車でやったため、色々と弊害も出た物語でした。 ともあれ、書いていて楽しかったのは、神々。 もう少し出番を増やしてあげたかった……痛恨の極みです。 人物では、ハルトオが若い娘さんながら、苦労したためか、よくできていましたね。カジャの外見を責められて反論した場面など、自分なりには秀逸の出来です。あんな言葉がよくも私の中に眠っていたものだな、と自分でも驚いていました。 物語はいきもの。いきものにするために、会話が命。会話が命です。だから、生きたセリフを紡ぐために、常に『普通』に聴こえる会話を成立させるために努力の日々です。あああ、頭がよくなりたーい!! どなたか、会話が見事! という小説家をご存知でしたら教えてください。笑。 では、近々、次なる物語をはじめたいと思います。 神は~が和風だったので、次は洋風の剣と力の戦記ものでも。 最後になりましたが、ここまで読了してくださった皆様、心より深く、深く、感謝いたします!! 引き続きよろしくお願いいたします。 安芸でした。