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砂槍の用心棒  作者: 蓋
序章~主無き用心棒
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3.ドルフィンキラー~前編



「パルフェリア軍が既にサロディニア海を渡りつつあると言うのか。

フフ、弱小の島国がどこまでできるか、見ものだな。」



「いや、油断はしない方がいいだろう。

向こうには大陸随一と謳われた、白騎士団がいるのだぞ。」



「いえ、従軍魔道師の偵察によれば、白騎士は見当たらなかったそうです。」




「よし!ならば今のうちに徹底的な迎撃の準備をさせよう。」




「待て将軍、違和感は感じないのか?

確かに、我がエルメスト王国と隣国パルフェリア王国は、大昔から良き隣人どうしでは無かった。

しかし、こうも唐突に宣戦布告されることがあるだろうか?」



王城クラウリディア三階のとても広い会議室では、国民から選ばれた栄誉ある国政審議官、主要貴族、そして国王に加え、軍事を統括する将軍が、合わせて計百人程度で、臨時の会議を行っていた。

それも、これからの国の未来に関わる重要な会議だったのだが、既に出席者たちの意見はまとまろうとしていた。



「リメル様、お気持ちはわかります。

近年、あの島国と国交が復活しつつあったのは、紛れもなく貴方様の外交でのご活躍あってのことでしょうし、誰もがそれを喜ばしく思っていたことでしょう。

しかし、現実を見なければなりません。

かの島の蛮人どもは大群を成して、このエルメスト王国に今も差し迫っているのです。」




「だが将軍よ、私は………」




「リメル様、いえ、国王陛下。

ここは、皆の意見を聞いてみるのはいかがでしょうか?

そのために、各地の主要貴族と国政審議官を臨時に集めたのではありませんか?


良いですか?

では………。

今すぐに軍を動かし、パルフェリア王国軍を迎撃するという事に、意義がある者は立ち上がって、その旨を述べるが良い。」




………………。




「誰か意義のあるものはないか!?」



…………。



「フフフ、では国王陛下、私は迎撃の準備に取りかかります。」





「…………。」



傾きつつある赤い日の光は、会議室を照らすとともに、その場の影の濃さをも引き立てた。


将軍と呼ばれた男、「ノウサ・パルクド」は颯爽とその場をあとにし、他の者も彼に続いた。

ただふたり、若き国王「リメル・ガシュヴァル・エルメスト」と、彼の友人であり、有力貴族でもある「フェンターラ・ウォーラ・セルデナン」を除いて。






王城の長く続く廊下を、名だたる貴族たちが行く姿は、見ごたえのあるものであったが、その先頭にたつ軍服の男は貴族の類いでもなければ、普段ならこのような会議に呼ばれる立場でもなかった。

しかし今回、20年続いた平和が再び戦火に包まれんとする状況では、王国軍を取り仕切る彼の存在と役割は、それだけに大きなものだったのだ。




「パルクド将軍、ご報告があります。」



将軍に声をかけたのは、未だ戦を知らぬ綺麗な鎧を身に付けた一人の若き騎士であった。



「海豚の件か?」




「左様です。」



そう聞くと、将軍は次の廊下の分かれ道を、貴族たちとは逆の方向へ進んだ。

その先は王城クラウリディアと、隣接する王国軍衛士隊詰所塔を繋ぐ渡り廊下であり、将軍はその渡り廊下の途中で口を開いた。




「して、報告というのは?」




「………サソリからの報告で、『目標を還した』だそうです。」




それを聞いた将軍は足を止めて、右手に見える庭の方を表情ひとつ変えずに見た。

ちょうど女が一人、そこを横切ったが、彼の目には写らなかった。



「なにが『還した』だ…裏切り者でありながら未練を惜しげもなく……

だがそうか………。奴は死んだか。」




「…………」




将軍の声はもの寂しげに庭に降り注いだ。

ただ、自軍のトップを目の前にした若き騎士には、そんなものを感じとる余裕はなかった。

そんな緊張にさらされたまま、将軍の斜め後ろで彼は、将軍が見つめる先の夕日をともに見つめた。

その日が大地に飲まれるまで。


やがて空にはそのわずかな名残が現れて、将軍は再び口を開く。



「………。

サソリは予定通りに始末しろとアイツに伝えろ。

あとはそうだな……レドの特務騎士隊を召集しろ。

きっと海豚も溺れた頃だろう。」




「わかりました。」





将軍は止めていた足を再び詰所塔へ向けた。

勿論、物陰から聞き耳をたてる深いフードの青年に気付くことなどは、無かった。




「海豚が溺れた頃……ね。

確証もないのに口走るもんじゃないよなぁ。」



青年は小さく呟くと、深くフードをかぶり直して日の沈んだ庭に消える。






それを城の三階の会議室から、ちらりと見た美しい正装の男は、背後で頭を抱える若き国王リメルにその様子を伝えはしなかった。

ただ、特有の冷めた目で彼を見るばかりだ。




「……また戦争になるな。」



王は吐き出すように言った。

それを聞き、冷めた目の男は眉をピクリと歪ませて、こう答える。



「リメル、お前が気負うことはなかろう。

軍事の最高責任者はパルクド将軍だ。」




「しかし、最終的に将軍の手綱を握るのは私だ。

はぁ…どうしてこうも唐突に……。」




「ここで悩んだところで、どうにもなるまい。

………それに勿論、使うものは使うのだろう?」




「最悪のときだけだ。」




「ならば、このエルメスト王国に敗北はない。」




「そうだな………また罪の無い犠牲者が、報われぬ死を遂げるだけだ………。

二十年前のように。」





「できれば使いたくはない手段だが、この国の歴史上、そうはいかないというものさ。」






「本当にそうだろうか?」






「…フッ、お前ならこの呪いを本当に断ち切ってくれそうだな。

どこまでも私はお前に着いて行くよ。

友としてな。」




美しい正装の男はそう言い残し、会議室を出ていく。

ただ、あとに残された王の表情には、未だ躊躇いが残っていた。




「呪い…か。」












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