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砂槍の用心棒  作者: 蓋
序章~主無き用心棒
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2.用心棒として~後編


魔道と言うのは、人間が魔法を使うために体系化された学問で、その実態は純粋な魔法には未だ程遠い。

そもそも魔法は、古に滅んだ「妖精」等がもたらした技術で、既にそれ自体も滅びつつある。

そんな魔法を研究し、滅びる前に保存しようというのが、王立魔道研究館だ。



研究館はお城の敷地内にある。

私はいつも通り、日の出と共に家を出た。

道中の空気は冷たく、寝坊ぎみな街は静寂そのものだ。

でも、私はそれが好きだ。




お城の正門に近づいていくと、門番のおじさんが挨拶をしてくれた。

私も挨拶を返し、庭の離れにある研究館を目指す。

勿論、入城の書類は提出してきた。


よく手入れされた庭は気持ちの良い空間を演出し、はためく蝶は舞台を舞う踊り子のようだ。

まぁ、踊り子の踊りなんて見たこと無いんだけど………。




研究館の扉を開けると、古い本の、ある意味で刺激的な香りが一瞬で体内を満たした。

そびえ立つ巨大な本棚の出迎えは、いつまで経っても飽きることはないだろう。

そこに並んでいる古書が、いつまでも読み終わらないのと同じように。

と、ここで私はあることに気がついた。



「鳥の羽?」



足元に落ちていたのは、銀色に近い色の軽やかな鳥の羽だった。

勿論、研究館で鳥は飼ってないし、窓もしまっている。

夜のうちに誰かが入り込んだのかもしれない。


そんなふうに思いつつ、私は屈んで鳥の羽に手を伸ばした。

羽に指が触れると不思議なことに、これまで羽に見えていたはずの物が、少しずつ形を変えて、紙切れになった。

簡単な変容魔法が掛けられていたようだ。

似たようなイタズラを過去に受けたことがあるような………。


紙切れには、こう書かれている。

「今夜 王都中央街 ディンの酒場 奥から二番目のテーブル席 ネイクルより」


正直なんのことかはわからないけど、銀色っぽい羽と最後の名前に痛烈な心当りがある。





研究館での仕事が終わり、私は門の外に出た。

空はオレンジに染まって、夜の始まりに近づいている。

でも、このまま家に帰るわけにはいかない。

私はさっきの紙切れをポケットから取り出して、改めて内容を確認した。

王都中央街と言うと、この大通りをまっすぐに進んだ先である。

ディンの酒場は知らないけど、探せばきっと見つかる……と思う。


私は道をまっすぐ歩き出す。











……見つからない。

この辺りを探し回ってどれくらいが経っただろう。

ディンの酒場という酒場はいっこうに見つかる気配がない。

いや、そもそもそんなものあるのだろうか?

本当は無い………わけないか。

あの人は基本嘘はつかないし。

人も少なくなってきたしいったいどうすれば………。


「あの、道を聞きたいのだが………」




「えっ?」



私は後ろから声を掛けられたようだ。

反射的に振り向くとそこには、背の高い男が立っていた。

男は茶色いローブに身を包みまっすぐこちらを見て困った顔をしている。



「これなんですが………。」



男はそう言いながらこちらに紙切れを差し出した。

それは私にとっても見覚えがある物で、すかさず私も同じものを差し出した。


彼と私は顔を見合わせる。


『貴方もか。』

「貴方もですか?」


思わず私はクスッと来てしまった。

だけど、二人とも同じメモで迷っていて、言うことも被るなんて。



「あの、もしかして、ネイクルさんの知り合いの方ですか?」



「あ、ああ、はい。」



案の定。

どうやら今回、ネイクルさんは、彼と私を引き合わせたかったようだ。


何故かは知らないけど……。



「おや、お二人。ディンの酒場をお探しかい?なら、ついてくると良い。」



そう言って近づいてきたのは深いフードの青年だ。



「ここで話すのもなんですし、一旦酒場にいきませんか?」



「それもそうだ。」



「では、案内します。」







ディンの酒場は案外近くにあった。

なのにいったい、酒場探しで何時間が潰れたのか。

特に簡易的な地図に示してあるのが、移店前のディンの酒場の位置だったことなんて本当に憎らしい。

まぁ、今ディンの酒場で奥から二番目のテーブル席に着いているのだから、良いんだけど。




「俺はバヒム。用心棒をしています。」




先に自己紹介をしたのは彼の方だった。

それによると、バヒムさんはリア・ネキード出身の用心棒で、ずっと砂漠の行商人に雇われていたようだ。

つい先日、その商人の老人が行方不明になる前までは……。

ネイクルさんからは、私を連れてくるように言われているそう。

ひとつ気になることがあるとすれば、腰に下げた木刀で用心棒が勤まるのかと言うことくらいだろうか。




「じゃあ、次は私の番ですね。


私はメリエラ・ダノン。


お城の王立魔道研究館で魔法を研究してます。

出身はここから北東のメキナドで………」




私も自己紹介を終え、バヒムさんと簡単な食事と世間話をしたあと、会話は本題に入った。



「それで、どうしてネイクルさんは私をつれてこいと?」




「詳しいことはわからない。」




「うん。ネイクルさんらしいや。」




「貴方とネイクルはどういう関係なんだ?」




「彼は、私の先生なんです。4年前まで私は王立イルシャミナス魔道学院の生徒だったんですが、そこで私はネイクルさんから、古代魔道に魔道創作術、古代語、魔法語、とか色々を学んでいたんです。」




「ネイクルは先生だったんですか!?」




「はい、良い先生でした。それに今時、混血の先生なんて珍しくて……」




「混血?」




「聞いてないですか?あの人は、滅んでしまった妖精族の血を引く魔法血 (ルーンブラッド)なんですよ。」




「それは初めて聞いた。」




「だから、寿命も長くて若く見えるみたいです。」




「どうりで年のわりに若すぎるわけだ。」




「妖精族」

現代に伝わる解明済みの魔法のうち約8割が、それらのもたらしたものだとされる。

妖精由来の魔法の特徴は二つあって、ひとつは自然を操る形で作用すること。

だから、砂漠に湖を出したり、湖を燃え上がらせたりすることはできない。

出来るのは、火種を一気に燃え上がらせたり、雨を強めたり弱めたりすることくらいだ。

とは言え雨の操作等の大がかりなものはあまり実用的じゃないし、現実的じゃない。


もうひとつの特徴は、人間でも比較的再現しやすいこと。

言い換えると、必要とする魔力の量が少ないのだ。

お陰で、妖精の魔法はかなり研究が進んでいて、私もある程度習得している。

と言うか、イルシャミナス魔道学院の卒業試験に採用されていたから、習得は必須だった。





「バヒムさんはネイクルさんとどういう関係なんですか?」





「同じ酒場の仲間ってところだ。何年か前に突然酒場に現れて、そこで打ち解けたんだよ。

………それで、俺が貴方を砂漠まで連れていく話だが………俺は用心棒としてネイクルに雇われたんだ。

だけど、報酬は相手方に聞くように言われてる。

だから聞かせてくれないか?

いったいネイクルと貴方が、俺にどれだけの報酬を払えるのかを。」




「えっ?報酬を?」




「ああ。

こっちも生活しなきゃなんないからな。」



「………じゃあそれは、向こうに着いてから要相談という事で…」




「はぁ……こっちもか……」







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