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OTOGI WORLD 〜和の国編〜  作者: SMB
一つ屋根の下で、の巻
35/35

猫の気持ち2


スリスリ。


スリスリスリ。

スリスリスリスリ。

スリスリスリスリスリスリ。


車の中、沈黙を守っていた私。

静かなのは良いのだけれど、その代わりに肌と肌の擦れる音が耳のすぐ近くで聞こえてくる。


スリスリスリ。

スリスリスリスリ。


あぁー....


強面の男達にとっ捕まえられ乗せられた車の乗り心地は、そう悪くは無かった。

静寂性(車内でのもそうだし)、そして安定した走行。

....さすがはベンツだと言える(運転手の腕が良いのかもしれないが)。

こんな高級な車を乗り回しているなんて、やはりこの集団は怖い人達なのだろう。


そんな怖い人達に捕まり、何処に連れて行かれるのか分からない状況で、まだ余裕がある理由はこいつにある。


海希「.....何してるの?」


訊かなくても大体は分かる事だが、一応形として訊いてみる。

さっきから、スリスリスリスリと。

私の顔面半分が摩擦で火がついてしまうのではないかと心配になるほどだ。


レイル「何って、見て分かんない?」


と、レイルは私と再会してから1番の笑顔を見せてくれる。

見て分かるのは、私の頬骨がまだ削れていない事だけだ。


レイル「愛情表現。アマキロスしてたから、充電してんの」


そう言って、また頬擦りしてこようとするのを、とりあえず押し退けて阻止する。

まだ話しは終わっていない。


海希「さっきまでの憤りはどうしたの」


そう言う問題でもないが、まずはこの事だろう。

男達の事を気にしつつ、声を潜めて言った。

少し前まで、犬がどうのとか猿がどうのと言っていたのはお前じゃないか。

おまけに私をビッチ扱いした事も忘れていない。

ついでにもう少し遡れば、私の顔なんて見たくないとも言っていた。

今では、顔を見るどころかその顔に擦り寄って来ている。


レイル「んっ?だって、俺の事好きだって言ってくれたろ?だから、それでチャラにしてあげる」


海希「チャラって?」


レイル「これまでの事は水に流すって事。俺も酷い事したと思うし、浮気したのは許してあげるよ。その代わり、あいつらに関わるのは今後一切禁止な」


浮気....

一体何を前提に話をしているのか。

続きだと言わんばかりに、また顔を近付けて来ようとするレイルを再び押し退ける。


海希「浮気なんてしてないんだけど」


レイル「あんたも素直に謝ればいいものを」


海希「あんただって謝ってないじゃない」


レイル「アマキの方が酷い事したろ。俺がいながら、あんな馬鹿犬にそそのかされて身体まで許しちゃって。俺には触れさせもしなかったくせに」


海希「あれは誤解だって言ったでしょ!白とはそんな関係でもないし、あんたとは恋人でもなんでもない!」


思わず大声を出してしまい、運転席と助手席に座る男達に目をやる。

私達の話を聞いていないのか(聞こえてはいると思う)、反応はない。


レイル「誤解ね〜?まっ、そこまで言うなら信じるけど。とにかくこれ以上、俺を妬かせるなよ」


海希「妬かせるなって....あんた、私の事がまだ好きなの?顔も見たくないって言ってたのに?」


レイル「はぁ?アマキ....男心を全然分かってないな」


と、レイルはこれ見よがしに溜息を漏らす。

少なくとも今のお前の心情は全然分からないよ、と心の中で言い返しておく。


レイル「当たり前だろ。今まで何度も何度も好きだって言ってんのに、そんなに簡単に嫌いになる訳ないだろ。もしかして、俺の愛が伝わってなかったのか?ひっどいよ、本当に酷い。俺の事弄んでんの?」


酷いのはビッチ扱いした事を含め、私を未だに悪女扱いしているお前の方だよ。

お前からの愛は、昔からガンガンに伝わっている。

ただ、完全に無視していただけだ。


レイル「顔も見たくないってのは....ほら、俺も焦ってたし、あのままアマキの側にいたらもっと傷付けちゃいそうだったから。なに、俺が本気であんな事言ったと思ってんの?」


海希「あんな剣幕で言われたら、誰だって本気に取るわよ!」


あの時のレイルは、今までに見たことの無い怒りを露わにしていた。

あんなのが本気じゃなかったと言われたら、本気の本気だった場合はどんな感じなのだろう。

....想像しただけでも恐ろしい。


レイル「これで誤解は解けたろ?まぁ、付き合ってたら喧嘩の1つや2つはあるだろうし、こんなの簡単に乗り越えないとな」


海希「付き合ってないってば!何度も言わせないで!」


とりあえず、あんな事をしていて謝りの言葉もないなんて信じられない。

酷い事、と言う認識があるなら尚更だ。


レイルに会わない間、私はたくさん彼の事を考えていた。

思い出してはいけないと、いつも頭の外へと弾き出そうとしていたが、かなりしつこく居座っていた(夢にまで出てきたぐらいだ)。


その度に、心にもない事を言ってしまった、彼を傷付けてしまったと、一言でも謝りたいと私自身深く反省していたのに。

なのに、今では馬鹿みたいに思えてくる。

ここまで悩んでいたのは私だけなのか....

とにかく、先に謝れよと言いたい。


レイル「ふ〜ん....俺の事、好きなのに?」


もともとお互いの顔の距離が近かったのに、更に距離を詰められてしまった。

目と鼻の先に、レイルの顔がある。

口角の上がったニヤついた表情に、意味深のある一言。

私の口元が引き攣った。


海希「....なによ?」


いちいち口にして欲しくない。

少しだけ、頬に熱を持ったのが分かった。

レイルは楽しそうに続ける。


レイル「好きなんだろ、俺の事」


驚いた、こんな恥ずかしい事を二度も言うのか。


いや、こいつは私の口から言わせたいのだ。

既にその台詞を私は二度も口にしていると言うのに。

そうやって、また誘い出そうとしている。


海希「だからなに」


私も私で素直じゃない。

好き、と言ってやれば終わる事なのに。

いや、死んでも言ってやるもんか。

そもそも、あまり人に使わない言葉なのにそう簡単に言う私ではない。

それに、雰囲気と言うものがある。

ここは車内で、第三者がいる事を忘れないでほしい。


レイル「分かんないの?俺はあんたの口から聞きたいんだ。俺にばっかり言わせてるのはズルイと思うけど」


はっきり言おう(口にはしていないが)。

私が言わせているのではなく、勝手に言っているのだ。

なので、ズルイもクソもない。

こいつの意見を聞き入れる必要もなければ、こんな恥ずかしいやりとりを今すぐ終わらせるべきだと言える。


....が、私とレイルが言い合っている間に、どうやら男達の目的地に到着したようだった。


静かに止まった高級車。

ブレーキを踏んだと気付かせない静けさ。

エンジン音が聞こえなくなった事でそれに気がつき、私は窓越しに外を覗いてみた。


一体何処に連れてこられたのだろう...


それは、私のよく知る場所だった。

高い石垣に、見事に手入れされた生垣。

大きな門の先に見えるのは、海の底にあるべき城だった。









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