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俺が育てた孤児の娘たちが、全員神様になってました  作者: 綺村 亮介


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08_「ヨリマシの巫女」


 俺とラケルトーススの間に割って入った少女は、とても小柄だった。年齢は13~14歳ぐらいだろうか? けれど、その場にいる誰よりも静かで、誰よりも目を引く。


 腰を越えて流れる銀髪は、光を受けて淡くきらめいていた。伏せがちな長いまつげの下には、澄んだ青い瞳。手は身体の前で静かに重ねられ、表情にも動揺は見られない。

 身にまとっているのは、純白の装束だった。広がる袖や裾は儀式に使われる衣を思わせ、腰には金色の帯飾りがあしらわれている。

 生地の質感も、どこか普通の衣服とは違う。何となくだが、俺が今着ている服に似ていると思った。


 少女の姿は、この場の緊迫感から切り離されているように見えた。武器を構えた門兵たちに囲まれているのに、少しも怯えていない。


「ヨリマシの巫女様! そこからお離れくださいませ! その人物は危険ですな!」

 ラケルトーススは盾だけを拾い、先ほどまでの威圧感をかなぐり捨てたように慌てて駆け寄ってくる。


 少女を保護しようとしているのか? それとも先に俺を制圧するつもりか?

 今がチャンスなのか、ピンチなのか、長年の経験を持ってしても分からない。――だが、事態は思わぬ方向へと転がっていく。


「……ヨリマシの巫女として告げます……。全員、今すぐ武装を解除し、この者を解放しなさい……」

 声を荒らげたわけではない。それなのに少女の言葉は、門兵たちのざわめきも、ラケルトーススの荒々しい足音も、すべてを押しとどめるように響いた。


 その言葉を聞いたラケルトーススは、動きを止めた。彼の顔から焦りが消え、代わりに深い畏敬の色が浮かんだ。

 手にしていた盾を静かに下ろすと、重い鎧をまとった巨体がその場に膝をつく。

 周囲の門兵たちも、それに続くように武器を下ろしていく。ひとり、またひとりと膝をつき、先ほどまで俺を取り囲んでいた者たちが少女に頭を垂れる。



 それはまさに、神の一声だった。



 何が起きたんだ……? あれだけ殺気立っていた門兵たちが、たった一言で儀礼に臨む者のような厳かな静けさを取り戻している。


 なぜ、門兵たちは少女に従ったんだ?

 なぜ、『ヨリマシの巫女』と呼ばれているんだ?

 なぜ、俺のことを助けたんだ……?


「あ、あなたはいったい何者なんだ……?」

 聞きたいことは山ほどあるのに、俺が口にできたのはその言葉だけだった。あまりの出来事に、それしか言えなかった。


「……それは後ほど答えさせていただきます……。まずはこちらへどうぞ、『ルイン様』……」

 少女――ヨリマシの巫女は、穏やかな声で俺を門の中へと促した。

 その声に、敵意は微塵も感じられない。だが、どうして俺の名前を知っているんだ? さっきの押し問答をどこかで見ていたのか? それとも……。


「ほ、本当に入っていいのか……?」

 俺はおそるおそる門へと近づいていく。

 あれだけ立ちはだかっていたラケルトーススは、膝をついたまま微動だにしない。


 ヨリマシの巫女というのは、騎士団長よりも上の地位なのか?

 それとも、地位だけでは説明できない何かがあるのか……?


 目の前の少女は、ただ静かに俺を待っている。問い詰めたい気持ちはあったが、今は何から聞けばいいのかさえ分からなかった。

 だから俺は、例えこれが罠だとしても進もうと決めた。なんとしても、娘たちに会うために。



 こうして俺は、自分と同じ名前を持つ国――パトリア国にようやく一歩足を踏み入れたのだった。



 ※



 城門をくぐってすぐ、俺は安堵のため息をもらした。

 どうやら罠ではなかったようだ。これで捕らえられる心配も、追い返される心配も無くなったと思っていいだろう。

 胸の奥に張りつめていたものが、少しだけほどけた。


 へえ……これがパトリア国の中か。

 目の前に広がる景色を見て、今度は感動をため息をもらした。


 石畳の道が、奥へとまっすぐ続いている。道の左右には、苔の浮いた石壁が高くそびえ、狭い空を切り取っていた。

 その国が栄えているかどうか、一目で判断する材料がある。それが――道路だ。貴族だけが栄え、国民が困窮に貧している国は、ほぼ例外なく道路が荒れ放題だ。

 その点で言えば、パトリア国の道路は思わず唸ってしまうほどキレイに整備されてある。なんとゴミすら落ちていない。ハリボテの繁栄ではなく、下から上まで豊かな証拠だろう。


 整備された道路の先には、更に大きな門が見えた。

 門を抜けてきたばかりだというのに、目の前には次の防壁が立ちはだかっている。


「まさか……城壁の内側にまた城壁があるのか……!?」

 俺は驚きの声をあげた。

 国家の中心と呼ばれた『ケントルム城』でさえ、分厚い一層の城壁だけだというのに、パトリア国は二重城壁なのか……!?

 いったいどれだけ堅牢な城なんだ……。


「……そんなに珍しいのですか……? その門を越えれば、もう一枚城壁がありますが、それも珍しいのでしょうか……?」

 ヨリマシの巫女は、首を傾げながらポツリと言った。


 もう一つの城壁……? まさか……三重城壁なのか!?

 ありえない。三重城壁の城なんて、実在するはずがない。

 なぜならそれは――俺が机上の空論として考えた、理想の城塞だからだ。


 だがその理想像が、その構想像が……今、現実として目の前にある。驚きと興奮で、胸が騒いだ。

 この国は本当に何なんだ……? こんな大国が世間に知られていないのはなぜなんだ……?


 俺は、前を歩くヨリマシの巫女に目を向けた。

 腰を越えて流れる銀髪が、白い装束の背に静かに揺れている。小さな背中からは、先ほど騒然としていた場を一声で鎮めた人とは思えないほど静かな気配が漂っている。


「なあ……どうして俺を助けてくれたんだ?」

 俺がそう聞いてもヨリマシの巫女は、

「……どうか付いてきて下さい……」

と言うばかりで、質問には答えてくれなかった。


 どうやらここで教えてくれるつもりはないらしい。

 ……仕方がない。今は大人しく付いていくとしよう。





ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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引き続き、本作をよろしくお願いいたします!

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