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俺が育てた孤児の娘たちが、全員神様になってました  作者: 綺村 亮介


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06_「最強の門兵」


「あ、ああ……気を使わせて悪いね。こんなに大きな城壁を見るのは初めてでさ。思わず驚いちゃって」

 俺はとっさに嘘をついた。まさか本当のことを話すわけにもいかない。


「ほう、我らが国に初めてお越しとは嬉しいですな。となると、遠くの国からお越しですかな? 申し訳ありませんが、国外からの来訪となれば、より綿密に調べさせていただくのが決まりでしてな」

 丁寧な口調とは裏腹に、男の目は俺の様子を注意深くうかがっていた。

 大柄な身体をわずかに傾けただけなのに、逃げ道をふさがれたような圧迫感がある。

 くっ、しまった……。墓穴を掘ったか……?


「……その前に、一つ聞いてもいいかな? あなたはどう見ても新米の門兵には見えないんだが、どうして門番をしているんだ?」

「ん? はて、どうしてとは……? 我らが国では――ああ、これは失礼。つい当たり前のことだと思い込んでいましたな」

 太い眉がわずかに動き、男は口ひげを指先でなぞった。

 よし、なんとか話題をそらすことに成功したようだ。……まあ、気になっていたのも本当だけど。


「自己紹介がまだでしたな。吾輩の名前は、ラケルトースス=トローススと申します」

 男は胸を張り、堂々と名乗った。やけに『スス』が多い名前だな、おい。


「お察しの通り、吾輩は騎士団長を務めております。我らが国では長年の習わしとして、その年の『一番の戦士』が門番をすることになっているんですな」

 大きな身体に負けない、よく響く声だった。自分の役目を誇っているようにも聞こえる。


 待て待て、『一番の戦士』ってことはつまり……この国で最強ってことじゃないか!?

 そんなのが門番をしているだなんて、どういう習わしなんだ……?


「不思議に思われますかな? しかし、治安維持にはこれが一番効果的でしてな。なにせ、悪人は借りてきた猫のように大人しくなり、悪徳商人は裸足で逃げ出しますからな」

 ラケルトーススは、口ひげを揺らしてガッハッハと豪快に笑った。

 肩や胸板まで揺れるほどの大笑いだ。――しかし、俺を見る目だけは笑っていなかった。

 笑顔が消えたわけでもないのに、その鋭い眼差しは俺の反応を見逃すまいとしている。


 間違いない。俺のことを賞金首か、スパイじゃないかと疑っている。

 さっきから言葉の端々や表情を探られているのが分かる。ここまで警戒されてしまったら、適当な嘘を重ねてもかえって怪しまれるだけだろう。


 どうせこのままでは、門を通してもらえない。

 それに……俺に悟られまいと、後方の兵士たちは何食わぬ顔で俺の退路を絶っていた。

 どうやらここは、腹をくくって正直に話すしかなさそうだ。

 無事門を通れるか、ここで捕まるか。それはどこまで信じてもらえるか次第だろう。


「俺はルイン=パトリアだ。冒険者で、元Aランクパーティー『悠久の調和』を組んでいた。もしかしたら知っているかもしれないが、孤児院の――」

 自己紹介を終える前に、両肩を掴まれて言葉を遮られた。

 分厚い手が肩に食い込み、俺は思わず息をのむ。力を込めて振りほどこうとしたが、びくともしなかった。


 見上げると、ラケルトーススの目が大きく見開かれていた。厳めしい顔から笑みが消え、驚きがそのまま表情に張り付いている。ゴーストもゾンビも裸足で逃げ出す形相だ。


「ルイン……パトリアですとな……?」

 名前を聞いて、そんなに驚くとは思わなかった。

 いや、俺は死人のはずだ。死んだ人間が目の前に現れたのなら、驚くのも当然だろう。むしろ、落ち着いている方かもしれない。さすが騎士団長、腹が据わっている。


 そう思ったのだが……ラケルトーススは予想外の言葉を口にした。


「貴殿は吾輩をバカにしているのかな……? パトリアの姓を名乗れるのは、この国の王族のみだ!! ルインなど聞いたこともない!!」

 お、王族……? 何を言っているんだ、コイツは。

 パトリアは、孤児だった俺が勝手につけた適当な名字だ。それが王族の姓だなんて、冗談にしても笑えない。


 肩を掴む手は、まだ離れない。逃げることも、話を切り上げることもできそうになかった。……まさか、冗談じゃないのか?

 ここまで来たら、分からないことを一つずつ確かめるしかない。そう自分に言い聞かせ、俺は息を整えた。


「……もう一つだけ聞かせてくれ。この国の名前は、なんていうんだ……?」

 今になって気づいた。俺はまだ一度も、この国の名前を聞いていないことに。


「貴殿、ふざけておるな? それともまさか、本当に何も知らずにここへ来たというのか?」

 ラケルトーススは俺の両肩を掴んだまま、太い眉を吊り上げた。声が鋭くなり、疑いが怒りに変わっていくのを感じる。


 ラケルトーススは両肩がせり上がるほど大きく息を吸い、そして――俺の鼓膜を破る勢いで叫ぶ。


「ならば聞かせてやろう!! ここは世界最高の国家!! パトリア国であるな!!!」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけるとうれしいです。

ご感想も大歓迎です。


引き続き、本作をよろしくお願いいたします!

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