04_「再び始まる物語」
目を覚ますと、そこは真っ白な祭壇のような場所だった。
どちらかといえば、亡くなった偉人を祀る、狭い墓所を思わせる。
頭上には白い丸天井が広がり、左右に並ぶ柱とアーチが、奥の祭壇まで続いている。
中央には、俺が寝ていた石の台座がひとつ据えられていた。
壁も柱も天井も、すべて白い大理石で――いや、これはまさか伝説のオリハルコンか!? 一度だけ現物を見たことがあるから、間違いないだろう。
掌サイズで豪邸が建つほどの価値があるというのに、この部屋全体に渡って使われているとは……。
……削って持って返ったらダメかな?
素材がオリハルコンであることを差し置いても、簡素な造りだというのに、厳かな気配が漂っていた。
それなのに、言いようのない懐かしさも感じた。
初めて目にするはずの場所なのに、ずっと前から知っていたような気もする……。
胸の奥に残るその感覚を確かめるように、俺はあたりを見回した。
白い壁にも、柱にも、見覚えはない。音ひとつしない空間で、俺の呼吸だけがやけに大きく聞こえた。
天井を見上げても、外の光が差す窓は見当たらない。
どうして懐かしいと感じるのか、その手がかりもなかった。
俺は自分の身体を見下ろした。
痛みはない。息もできる。手を動かせば、指先まで思いどおりに動いた。こうして立っていることが不思議なくらいだ。
俺は死んだはずなのに、どうして目を覚ましたんだ……?
入口と思われる方に目を向けると、手作りの木製プレートが掲げられていた。真っ白な世界の中に色が付いたようで、心が温かくなるを感じた。
近づいてみると、表面に文字が刻まれている。
『世界一の父親、ルイン=パトリア。ここに眠る』
ああ……そうか。やっぱり俺は、死んだのか……。
ここに眠る。名前の下に刻まれた言葉が、否が応にも心に深く刻み込まれた。
その下には、追記と思われる文章があった。少し不揃いな文字には、見覚えのある癖が残っている。
『そして、目覚めることをここに願う』
目覚めることを願う……?
文章の意味は分からない。分からないが、このクセのある文字には見覚えがあった。
間違いない。これは、5人の子どもたちが協力して書いた文章だ。
あの子たちが協力して、こんな立派な祭壇に埋葬してくれたのか……。
そう考えると、嬉しくて涙が出そうになった。
……いやいや、待て待て。
俺が死んで、ここに埋葬されたのなら、なんで目を覚ましたんだ……?
後半の文章なんて、可愛らしいお願い事だろう? 残念ながら願ったからといって、死者が目を覚ますわけがない。
でも……どういうわけか、俺は目覚めてる……。
祭壇のあちこちを見ても、答えはどこにも書かれていなかった。
考えれば考えるほど、分からないことが増えていく。
……あーーー!! もうワケがわからん!!
俺は考えるのもイヤになって、とりあえずこの辛気臭い祭壇から出ることにした。
外に出れば何か分かるかもしれない。
オリハルコン製の扉に手をかけると、突然、目の前に魔法陣が現れた。
恐ろしく複雑で、見たこともない術式だった。いくつもの紋様が重なり合い、扉を覆うように広がっている。
細部までは読み取れないが、封印――錠前のようなもの――の魔法陣だということだけは、辛うじて分かった。
もしかして……出られない? せっかく目覚めたってのに、ここに閉じ込められたままってオチはないよな……? そんな不吉な想像が頭をよぎる。
だが、俺の心配を余所に、魔法陣は音もなく回転を始めた。
輪がひとつ、またひとつと真っ二つに分かれていく。まるで、鍵を差し込まれた扉のようだった。
複雑な紋様が順番にほどけていくたび、閉ざされていた空間にかすかな揺らぎが走る。
やがて……一番大きな魔法陣が左右に分かれた。
少し遅れて、扉がゆっくりと開いていく。
隙間から光が差し込んだ。思ったよりも強い光に、俺は自然と目を細めた。
閉じられていた扉の向こうから、外の世界が少しずつ姿を見せる。
光が床を伸びてくるのを、俺はしばらく動けずに見つめていた。
なぜだろう? 数ヶ月ぶりに陽の光を浴びたような気持ちになったのは。
なぜだろう? 数年ぶりに呼吸をしたような気持ちになったのは。
俺は荘厳な扉をくぐり抜け、外へ一歩踏み出した――。
※
「……ここは、どこだ……?」
目の前には、まったく見覚えのない景色が広がっていた。
祭壇から続く石畳の先には、緑や黄金色の畑が広がり、小さな家や木々が点在していた。
その向こうには深い緑の山々が連なり、山あいには雲がたなびいている。
風にそよぐ畑に人影はなく、俺の知る街の面影もなかった。
剥き出しの土だった地面は、きれいに整備された石畳に変わっていた。
あちこちに点在していた廃屋も、キレイさっぱり無くなっている。代わりに見えるのは、見知らぬ畑と家ばかり。
何よりも大きな変化は――街そのものがなくなっていたことだ。
ここは、俺たちが暮らしていた孤児院の近くじゃないのか?
目の前に広がる景色を見回しても、知っている場所はひとつもない。
さっきまで胸の奥にあった温かさが、急に遠のいていく。
あの子たちは、今どこに居るんだろう……?
俺は、いったいどこに埋葬されたんだろう……?
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