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俺が育てた孤児の娘たちが、全員神様になってました  作者: 綺村 亮介


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14/19

14_「孤児の女神テテネ」

「はぁ……はぁ……すみません、お父様。900年以上ぶりに会えた感動で、つい取り乱してしまいました……。お父様成分が、もうとっくの昔に枯渇していたもので……」

 テテネはコホンと咳払いして場を取り直す。満足したのか、顔がツヤツヤしている。


「だ、大丈夫だ……。こ、これも父親としての役目さ。うん、そうだとも……」

 俺……あんなにもニオイを嗅がれちゃった……。

 34歳にして、こんなにも汚された気持ちになるなんて……。


 テテネはようやく腕の力を緩めた。やっと離れるのかと思ったら、俺の服の裾を両手でつまんだまま、潤んだ目でじっと見上げている。

 どうやら離れる気はないらしい。


「お父様ならそう仰ってくれると思ってました♪ では、もう少しだけ――」

「ま、待て待て。今は話をするのが先だ」

「ええー……そんなぁ……」

 しゅんと眉を下げるテテネ。俺は苦笑しながら、乱れた髪をそっと整えてやった。

 指先に触れる黒髪は、記憶の中と同じようにさらさらしている。テテネは目を細め、猫のように俺の手へ頬を寄せた。


 ……900年以上経った今、またこうして撫でてやれる日が来るなんてな……。


「それにしても、この歳でここまで振り回されるとは思いもしなかったよ……」

「ふふ、お父様は昔から私に甘いですから♪」

「ん? そうだったっけ?」

「そうですよ。私がお願いすると、最後にはいつも許してくれました」

 胸を張って言うテテネ。その言葉がきっかけで、昔の記憶がいくつもよみがえる。


 ほかの子たちの世話を焼くテテネを、よく頑張ったなと褒めてやったこと。少し大人びた顔でみんなを気遣う一方、俺の前では年相応に甘えてきたこと。そして、俺は困ったように笑いながら、結局は願いを聞いてやったこと。

 そのどれもが、つい昨日のことのようだ。


「それで……いったい何が起ったんだ? クーラから一瞬してテテネに変身したが……」

「変身ではありませんよ、お父様。『降臨』です」

「『降臨』……?」

 テテネはようやく俺の左腕から離れ、ピッと姿勢を正した。見た目は幼い頃のままなのに、佇まいは年齢とは不相応な、洗練された気品さがある。


「ヨリマシの巫女には、大きな役目が2つあるのです。一番の役目は、お父様のお世話。それには、私たちの話を伝えることも含まれています。そしてもう1つは、私が現世に顕現する為の目印ですね」

「現世に顕現……? それは、つまり……?」



「私、神様になったんです! えっへん!」



「…………はぁーーー!?」

 あまりの衝撃に、呼吸が止まりそうになった。

 神様? テテネが? 俺の娘が、神様になった……?


 はは、テテネ。俺をからかっているんだろう? それは、夢見る子どもがよく言う冗談だ。――危うくそんな言葉を口にしそうになった。

 ここが天国でなければ、これが夢でなければ……普通の人間が900年という月日を超えて俺の前に姿を現せるだろうか?


 テテネが幼い頃から俺は、成長したらきっと凄い事をやり遂げるだろうと信じていた。

 事実、俺の夢でもあった魔王討伐を成し遂げてくれた。

 そして、建国という偉業まで達成してくれた。

 もはや、歴史に名を残す英雄であることは疑いようがない。だがまさか……まさか神様にまでなるなんて……。


 歴史博物館で見た説明板が、頭の中によみがえる。

 『孤児の女神』――あれは後世の人々がつけた、立派な二つ名だと思っていた。よもや、文字通りだったとは誰が想像出来るだろうか。


 誇らしい。もちろん誇らしいに決まっている。だがそれ以上に驚きが大きすぎて、気持ちの整理がうまくできなかった。

 聞きたいことが次々に浮かんでくる。けれど、どれから尋ねればいいのか分からず、俺はただテテネの顔を見つめていた。


「お父様? 嬉しく……ないのですか?」

 テテネは俺の顔を覗き込みながら、不安そうに眉を下げた。

 娘が神になったという話は、心のどこかで信じられないでいる。

 だけど……それがどうした? 俺を見上げる顔は、昔のテテネそのままだ。

 なら――俺のすべきことは最初から決まっている。


「嬉しいよ、心の底から。テテネは凄いな。よく頑張った。さすがは俺の自慢の娘だ」

「じゃ、じゃあ……頭を撫でてくれますか?」

「ああ、撫でてやるとも。煙が出るくらい、いっぱい撫でてやるとも」

「えへへ……お父様にいっぱい褒められちゃった♪ ふふ、頑張って神様になった甲斐があったかも♪」


 テテネは身をよじらせながら、手を揉み合わせた。心の底から嬉しそうな笑顔に、俺の驚きも少しずつ和らいでいく。

 神様になった娘。まだその言葉を受け止めきれない。それでも、今こうして頭を撫でてやれることが、たまらなく嬉しかった。


「その……お父様の、自慢の娘になれましたか?」

 テテネは遠慮がちに尋ねた。嬉しそうに笑っていた顔が、少しだけ曇る。

 魔王を倒し、国を築き、神様にまでなった娘が、今もこんなふうに俺の返事を待っている。

 その姿が、どうしようもなく愛おしかった。


「ああ、なったとも。今すぐ大声で自慢したいくらいだ」

「ほ、本当ですか……?」

「ああ、本当だとも。お前がどれだけ立派なことを成し遂げたか、出会う人みんなに聞かせて回りたいよ。俺の娘はこんなにすごいんだぞ、ってな」

 テテネの目に、また涙が浮かぶ。それを見て、俺はいつものように頭を撫でる。テテネは目を細め、俺の手に頬をすり寄せた。


「お父様の手は、900年前と何も変わらないですね……」

「それを言うなら、テテネも900年前とほとんど変わってないな。正直、神様って感じがしないよ。昔も今も、俺の娘のままだ」

「じゃあ……これからもお父様に甘えていいですか? その……昔と同じように」

「もちろんだ。むしろ、900年以上我慢させた分まで甘えてくれ」

「えへへ……お父様、だーいすきです♡」


 テテネは、ぱっと顔を輝かせて俺の左腕に抱きついた。頬を押しつけ、猫のようにすりすりと身を寄せてくる。さっきまでの不安が嘘のように、嬉しさが全身からあふれていた。

 俺は笑いながら、彼女の頭を何度も撫でる。撫でるたびにテテネの肩が小さく揺れ、頬がますます緩んでいった。


「もっと撫でてください、お父様♪」

「はいはい。いくらでも撫でてやるよ」

「えへへ♪ とろけそうなぐらい幸せですぅ……♪」

 そういえば昔から、テテネは俺の左腕に抱きつくのが好きだったな。他の娘たちにも、右腕だったり背中だったり、それぞれお気に入りの場所があった。あの頃と同じ場所に、同じように甘えてくる。そのことが嬉しくて、俺は腕を回し、テテネをそっと抱き寄せた。


「はふぅ……。やっぱりお父様の左腕が、この世で一番落ち着く場所ですね……」

「そうか。なら、好きなだけくっついていなさい」

「本当ですか? じゃあ、遠慮なく♪」

 遠慮する気は最初からなさそうだ。テテネは腕に頬を寄せたまま、満足げに目を閉じる。

 神様になっても、娘は娘。こうして甘やかしてやれるのが、父親としてたまらなく嬉しい。



「……あっ、そうそう。言い忘れていましたが、ほかの4人も神様になってますよ」



「………………はあああぁぁぁーーー!!?」

 頭を撫でていた手が止まった。ついでに心臓も止まりそうになった。


「ま、待て待て待て! 今、さらっとすごいことを言わなかったか!? ほかの4人も神様になったのか!?」

「ええ、そうなんです」

「いやいやいや! そんな大事なことを、どうして今まで言わなかったんだ!?」

「お父様に会えたのが嬉しくて、つい……。それに、今は久しぶりのスキンシップの方が大事ですもの♪」

 そう言うと、テテネは俺の左腕にいっそう強くしがみついた。伝説に残る偉業を伝えることも、父親に甘える方を優先したいらしい。


「ちょ、ちょっと待ってくれ……。一旦話を整理させてくれ……」

 パニックにパニックが重なり、俺は過呼吸になっていた。正直、気絶しないだけでも凄いと思う。


 死んだはずの俺がよみがえり、娘たちは魔王を討伐し、国を作り、そして神様にまでなっていた。

 目覚めてからまだ数時間しか経っていないというのに、生涯かけても味わえないような奇跡を、これでもかというほど立て続けに浴びているのだから。


「その……神様になんて成れるもんなのか……? それも、5人全員が」

「案外成れるみたいですねぇ、これが。最初は英霊だったんですけど、莫大な信仰心が集まったことで全員が神様に昇格したみたいです」

「はぁー……そんな事があるなんて……。なんていうか、それは……本当に凄いな」

 俺はもう絶句に近い状態で、凄いとしか言えなくなっていた。

 いや、だってさぁ……俺の娘たち、本当に凄すぎないか……?


「ほかの4人とは、後で会う予定ですが……それまでは私がお父様を独占です♪」

「独占って……お前、神様なんだろ?」

「神様の前に、お父様の娘ですから♪」

 胸を張るテテネに、俺はまた笑ってしまった。そこまで言い切られたら、もう仕方がない。


「分かった。今日は好きなだけ独占していいぞ」

「本当ですか!? じゃあ、日が暮れるまで、このままで……」

「ああ。何時間でも、何日でもいいぞ」

 テテネは安心しきった様子で俺の左腕に頬を寄せ、幸せそうに目を細める。


 考えることも、知らなければならないこともまだまだ山積みだ。

 けれど……今は、今だけは全てを忘れておこう。

 俺だって、娘との再会を全力で喜びたいのだから。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけるとうれしいです。

ご感想も大歓迎です。


引き続き、本作をよろしくお願いいたします!

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