12_「奇跡の孤児たち」
「それで、次はどうなったんだ?」
気づけば、俺はクーラの方へ身を乗り出していた。続きが気になって仕方がない。勇者の冒険譚を聞く子どもみたいだ。
クーラは俺の様子に目を丸くしたあと、嬉しそうに頬を緩めた。胸の前で重ねた手に、少し力がこもる。
「その後、民衆から絶大な支持を受け、建国しました」
「ぶはっ!!!」
またしても吹き出してしまった。魔王討伐の次は建国かよ! 段階がおかしいだろ!!
「……そういえば、国の名前の由来って分かるかな?」
「はい。何となく察しているかと思いますが、自分たちが暮らした孤児院の名前からだと伝わっています」
やっぱりそうか……。娘たちは、俺が作った孤児院を本当の家だと思ってくれていたんだな……。
思えば、パーティー名にも『パトリア』って入っている。あの子たちにとって、そんなに大切な名前になっていたなんて……。
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分だ。
だって、本当に適当につけた名字だよ? もっと格好いい名前にしとけばよかったな。
俺と娘たちの絆は、今も国の名前として残っている。人々が暮らすこの場所そのものに、娘たちが歩いた跡が続いている――。
間違いない。俺が目覚めたことにも、きっと意味がある。
まずは、この国を知ろう。娘たちが作った国を歩いて、あの子たちが何を残したのか、自分の目で確かめよう。
そう決めると、沈んでいた気持ちの中に、小さな灯がともった気がした。
「【奇跡の孤児たち】の手腕は素晴らしく、建国から二十年が経つ頃には、大陸で一番豊かで幸せに満ちた国となりました。それはまさに、奇跡と呼ぶにふさわしい偉業でした」
盛り上がる部分なのか、クーラの声に少しずつ熱がこもっていく。やがて、言葉に合わせて小さく両手を動かし始めた。
その身振りは控えめなのに、話を続けるのが楽しみでたまらないのが伝わってくる。青い瞳はランランと輝き、銀髪の先が動きに合わせて楽しそうに揺れていた。
「そして……【奇跡の孤児たち】は、最後にもう一つの奇跡を起こしたのです……!」
クーラはゆっくりと天を仰いだ。まるで天上から語りかける声に耳を澄ませ、その言葉を受け取ろうとするかのように両手を空へ伸ばす。
物語のクライマックスを期待させる、大きな動作だった。
「それは――!」
その時、どこからともなく声が響いた。
『……はい、そこまで。その先は私が教えたいから、交代ね……』
それは、聞き覚えのある声だった。
誰の声か、すぐには思い出せない。それでも、胸の奥をくすぐるような懐かしさがあった。忘れるはずのない誰かの声。周りを見渡したが、もちろん誰も居なかった。
「それは――ああ、光が……!」
クーラは空に向かって限界まで両手を伸ばす。まるで、更なる光を求めるように。まるで、降り注ぐ『何か』を受け取るように。
奇跡を目の当たりにしたかのような、恍惚に満ちた笑みを浮かべ――次の瞬間、彼女の身体からふっと力が抜けた。
「ええ!? お、おい!? どうしたんだ!?」
糸が切れたように倒れかかるクーラを、俺は慌てて抱きとめた。
「クーラ!? おい、大丈夫か!?」
身体を揺すってみるが、何の反応もない。
病気だったり、ショック性の気絶を心配したが、呼吸は落ち着いているし、顔色は悪いどころかむしろ良いぐらいだ。
いったい何が起ったんだ……? それに、さっきの声は……?
ところが、俺の心配を余所にクーラは、まるで何事もなかったかのようにパチリと目を開けた。
「クーラ!? 気がついたのか!?」
腕の中でクーラは、何度もパチクリと瞬きしている。意識が戻った。そのことに安堵して、俺はようやく息を吐いた。
「……うん、平気。――いいえ、大丈夫ですよ。ちょっと話し疲れただけですので。心配してくれてありがとうございます」
クーラは俺に向かって、にっこりと笑った。それから、腕の中から離れるどころかむしろより一層密着してくる。
……ん? さっきまでのクーラとは何かが違う気がするが、気のせいだろうか……?
「もしかして……無理してないか? 娘たちの話をしてくれるのは嬉しいが、倒れるほど疲れたんなら、続きはまた明日にして――」
「ま、待ってください!」
クーラは勢いよく身を起こし、両手を前に出してぶんぶんと振った。長い銀髪も、それに合わせるように暴れまわっていた。
「全然大丈夫です! ちょっと話し疲れたっていうのは、言葉のあやですから! まだまだ元気です! おと……えっと……ルイン様と、もっともっとお話ししたいです!」
「いや、でも……」
「じゃ、じゃあお話はいったんお休みにしましょう! ええっと……そうです! 気分転換にお外を散歩しましょう! ねっ!? そうしましょう!!」
クーラは俺の返事を待たず、俺の左手をぎゅっと掴んだ。細い指が手の甲に回り、ぐいぐいと引っ張ってくる。
「お、おい、クーラ?」
「こちらです、ルイン様!」
先ほど倒れたばかりとは思えない勢いだ。加えて驚いたのは、華奢な身体からは考えられないほど力が強い。腕相撲したら、負けるかもしれないぐらいに。
それにしても、まさかこんなに強引な子だったとは……。
最初は神秘的で物静かな子だと勘違いし、次は無愛想な子だと思い違いし、更に明るくておしとやかな子なんだな、なんて思い込んでいたなんて……。
年頃の少女というのは、こうもコロコロと変わるものなんだろうか?
ただ、ただなんというか、その――。
「本当の案内はここからですよ、ルイン様!」
俺は引かれるまま一歩踏み出した。小さな背中を追いながら、安堵と困惑の入り混じった気持ちで、その横顔を見つめる。
――なぜだろう? こんなに懐かしいと感じるのは。
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