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俺が育てた孤児の娘たちが、全員神様になってました  作者: 綺村 亮介


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11_「巫女の役目」

 娘たちは、もうこの時代にはいない。

 けれど……あの子たちが生きた証はここに残っている。

 娘たちは俺が知らない時代を生きて、こんなにも大きなものを残したんだ。


 俺が目覚めたことにも、きっと意味がある。

 この時代を自分の目で見て、あの子たちが残したものを知る。それが、今の俺にできることなのかもしれない。


 いつまでも俯いていたら、娘たちに笑われてしまうな。

 まずはこの時代を知って、ここから生きていこう。

 そう思い直し、俺はヨリマシの巫女へと向き直った。


「まずはお礼を言わせてくれ。ここに連れてきてくれたこと。そして、銅像とはいえ娘たちとの再開を黙って見守ってくれていたことを」

 俺からお礼を言われるなんて予想外だったのか、ヨリマシの巫女は少し驚いた顔をしていた。初めて表情が崩れたな。やっと感情らしい感情が見えた気がする。

 

「これから質問だらけになると思うけど、許して欲しい。まず……俺のことは知っているんだよな? なら、教えてくれ。俺が死んでから……いったい何百年経っているんだ?」

「……はい。伝わっている伝承が正しければ、おおよそ九百年は経っているかと思われます……」

「きゅ、九百年も……!?」


 予想よりもはるかに長い年月だった。驚きで目を見開き、思わず自分の身体を見下ろした。

 九百年も経っているのに、よくもまあ腐らずに済んだもんだ。

 ……あれ? 俺の左半身は粉々に吹っ飛んだような気が……?


 うーん……生き返ったくらいだ。元通りになっていても不思議じゃないか。

 まあ、その辺はあとで考えよう。俺が今一番知りたいのは、もちろん――。


「俺が死んでから……5人の娘たちはどうなったんだ?」

 初対面の相手に聞くようなことじゃない。それは分かっている。

 でも、俺にはどうしても、ヨリマシの巫女が娘たちの関係者に思えてならなかった。


 俺の質問を聞いたヨリマシの巫女は、両手で顔を覆った。小さな肩が、ぷるぷると震えている。

 ……これはどういう意味だ? まさか、俺を怖がっているのか?

 しまったなぁ。娘たちにも、真剣に悩んでいる時の俺は怖い、って言われてたっけ。


 ヨリマシの巫女の手が、顔から離れる。祈るように胸の前で手を組んだかと思うと、

「――ええ、もちろんです!」

と、涙と共に満面の笑みを浮かべていた。


「ルイン様だと分かってから、言いたくて言いたくて仕方ありませんでした! ああ……まさかわたくしの代でお役目を果たせるなんて……! ヨリマシの巫女として、こんなに喜ばしいことはありません!!」

 ヨリマシの巫女は、嬉しさをこらえきれない様子で小さく身を弾ませた。さっきまでの神秘的な雰囲気は、もう欠片すらない。


「お、おう……」

 あまりの豹変ぶりに、俺は戸惑うしかなかった。

 だが、年相応の少女らしい笑顔――ちょっと過剰ではあるが――を見られたことで、俺は親近感を覚えていた。


「それで、ええっと……ヨリマシの巫女さん、っていうのも変だね。名前を聞いてもいいかな?」

「はい。クーラと申します」

 少女は――クーラは少し照れたように目を伏せ、それからきちんと俺の顔を見て名乗った。


「名字は?」

「ありません。ヨリマシの巫女になるために捨てましたから」

 クーラはそう言って、袖口を指先でつまんだ。大変なことを話しているはずなのに、声は穏やかだった。


「そうか……。ずいぶん大変なんだな、ヨリマシの巫女ってのは」

「い、いいえ、そんな! 適性で選ばれたとはいえ、わたくしが好きでやっていることですから!」

 クーラははにかみながら言った。さっきよりも表情が柔らかい。何となくだが、少しずつ心を許してくれているような気がした。


「はぁ……やっと緊張が和らいできました。まさか『伝説のルイン様』とお話しできる日が来るとは、夢にも思っていませんでしたから」

 どうやら緊張で無口になっていただけらしい。無表情で無愛想な子だと思っていたが、そうじゃなかったようだ。むしろ、その逆か。

 ――いや、それよりも気になる言葉が出てきたな。


「伝説の……って、どういうこと?」

「お言葉どおりですよ。ヨリマシの巫女は代々、ルイン様のご活躍を口伝で引き継いでいるのです。それから、身の回りのお世話もですね。一週間に一度、聖堂の清掃と、お召し物の交換、それに身体を拭かせていただいています。……いえ、もう『いました』、ですかね」

 最後のところで、クーラは少し寂しそうに笑った。


「それはそれは、ご丁寧にどうも……って、身体を拭いていた!? まさか全身を!?」

「ええ、もちろんです。汚れがあってはルイン様に失礼ですから」

 意識も何もなかったとはいえ、長年に渡ってこんな少女に全身を拭かれていただなんて……。

 それはなんというか……大変申し訳ないというか、とてつもなく恥ずかしいというか……。


「な、なんだか変なことをさせたみたいで悪いね……」

「いえいえ。それがヨリマシの巫女の役目ですから」

 うっ……穢れのない笑顔で言われると余計に辛い……。


「そして、ヨリマシの巫女の最大の役目が――いつかルイン様が目覚めた時に、貴方様の娘である【奇跡の孤児たち】のご活躍と、これまでの軌跡を教えて差し上げることなのです」

「それが、最大の役目なのか……?」


 何百年も、俺が目覚めるのを待たせてしまったのか。そう思うと、申し訳なさが倍になってぶり返してくる。とんだ寝坊助だな、俺は。

 けれど、クーラは責めるどころか、今こうして役目を果たせることを心から喜んでいる。その笑顔を見ているうちに、俺の胸の重さも少し和らいだ。


「なんだか申し訳なくもあるが……正直、今の俺にはすごく助かる話だ」

「それはとても光栄です。――では、お話しいたしましょう。【奇跡の孤児たち】の、奇跡のお話を」

 クーラは姿勢を正し、胸の前で両手を重ねた。けれど、話し始める前に期待を隠しきれないように目を輝かせる。語りたくて仕方がない、という気持ちが全面に出ていた。


「まず、魔王討伐を果たしました」

「ぶっ!」

 思わず吹き出してしまった。『まず』でそれかよ! パワーワードすぎるだろ!

 当たり前のように言ってるけど……魔王討伐だって!?

 三百年以上続いた魔王との戦いが、話の始まりで終わるのかよ!


「どうかされましたか?」

「い、いや、何でもない。続けてくれ」

 俺は冷静さを装い、続けるように促した。この時点でツッコんだら負けのような気がした。


「魔王討伐を果たしたのは、当時冒険者としてパーティーを組んでいた5人。その名は【オテルデュー・パトリア】。『最高の孤児院パトリア』、という意味だそうです。その功績を称えられ、後に【奇跡の孤児たち】と呼ばれるようになりました。もちろん、ルイン様の娘様たちのことですよ」

 クーラは誇らしそうに微笑む。俺もつられて微笑んだ。

 

「はぁー……まさか、うちの子たちが魔王討伐を果たしたなんてなぁ……」

「あら? それほど驚かれないんですね?」

 クーラは不思議そうに首を傾げた。長い銀髪が肩からさらりと滑り落ちる。少女はそれを指先で耳にかけながら、俺の顔をじっと見つめていた。


「あ、ああ……言われてみればそうだな……」

 三百年にわたる戦いに終止符を打ったんだ。もちろん驚いている。だがそれ以上に胸に浮かんだのは、あの子たちならやり遂げるだろう、という思いだった。


 5人ともそれぞれ強くて、優しくて、負けず嫌いだった。

 俺が知っているのは、まだ13~14歳頃の姿だ。それでも、あの子たちならそれぐらいやるだろうな、と不思議と納得できてしまう。

 全く。とことん親バカだな、俺は。


 ふと、黒騎士が言っていたことを思い出した。

 あの5人は、大いなる力を秘めている――と。どうやらその通りだったようだ。


 俺が果たせなかった魔王討伐を、娘たちが成し遂げた。

 会えないのは、やっぱり寂しい。けれど、あの子たちは確かに生きて、戦い、誰かを救った。その話を聞けることが、今は嬉しかった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけるとうれしいです。

ご感想も大歓迎です。


引き続き、本作をよろしくお願いいたします!

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