(1-09)普通
頭の中に莉理の姿を想像する。
小学生。
友達と遊ぶ一方で、学校が終われば一人でどこかへ通う。
しかも本人は、それを「予備校」と言っている。
村上が勝手に思い描いたのは、眼鏡をかけた真面目な少女だった。
大人になった今なら頭の切れるキャリアウーマン。仕事のできる女性。そんな姿が自然と浮かんだ。
「莉理さんって、今はどんな仕事してるんです?」
岸田が訊いた。
「今は専業主婦です、確か。大学を出てからは何か研究みたいなことをしてたんですけど、結婚を機に退職して」
美香は少し笑った。
「そうか。ご結婚されて……お子さんは?」
「はい。女の子がひとり」
「そうか、女の子のお母さんか……」
村上が呟いた。
しばらく歩く。
駅から少し離れるにつれて、通りの人影が減っていく。
「この辺か?」
「はい。もうすぐです」
村上は周囲を見回した。
住宅街だった。
大きな道路から一本入っただけなのに急に静かになる。古い家と新しい家が混じり合い、ところどころに小さな公園や植え込みがある。
「なんか普通の住宅街ですね」
岸田も辺りを見回す。
美香が笑う。
「莉理の家も普通の一軒家です」
その言葉に、村上は何となく違和感を覚えた。
普通。
さっきから、美香は何度もその言葉を使っている。
普通の町。
普通の家庭。
普通の女の子。
なのに。
小学生の頃から「予備校」に通っていた。
魂を呼び出すようなことをしていた。
そして今、行方不明者の話を聞いただけで、
――一週間?
――すぐ来て。
と、美香に電話をかけてきた。
どうにも普通とは思えない。
村上は腕時計を見た。
まだ、事務所を出てからそれほど時間は経っていないのに妙な胸騒ぎがしていた。
「……ここです」
美香が足を止めた。
三人の前に一軒の家があった。
「ここ?」
「はい。莉理の家です」
村上は家を見上げた。
確かに、ごく普通の一軒家だった。
何か特別なところがあるようには見えない。
ただ――
玄関脇に置かれた鉢植えの葉が、風もないのに一枚だけ揺れた。
村上は一瞬、そちらへ目を向けた。
「……どうしたんです?」
美香が訊く。
「いや」
村上は首を振った。
「なんでもない」
美香が玄関へ近づく。
そして、チャイムに手を伸ばした。
ピンポーン。
静かな住宅街に、呼び鈴の音が響いた。
三人は、何も言わずに玄関を見つめた。
やがて――
家の中から、ゆっくりと足音が近づいてきた。




