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(1-08)予備校

 東陽町の駅を出る。

 村上が先頭を歩き、その少し後ろを美香と岸田がついてくる。夕方の街は、仕事帰りの人や買い物へ向かう人でそれなりに賑わっていた。

 さっきまで事務所で話していたことが嘘のように、周囲はいつも通りの日常だった。


 その中を歩きながら、村上はふと思った。

 そういえば、自分は莉理という人物についてほとんど何も知らない。分かっているのは美香の小学校時代の友人であること。そして、どうやら「魂を呼び出す」ようなことができるらしいこと。

 それだけだった。


「なあ、美香さん」


「はい?」


「莉理さんとは小学校からの友達ってことでいいのかな?」


「そうですね」


 美香が頷く。


「中学までは一緒でした。高校は別になって……その後、大学も違うんですけど二人とも東京だったので」


「東京でまた会うようになった?」


「そうなんですけど、大学時代はお互い忙しくてたまに会う程度で。卒業してからまたよく会うようになりました」


「なるほど」


 村上は頷いた。

 隣を歩いていた岸田が、ふと思いついたように尋ねる。


「そういえば、美香さんって出身どこなんです?」


「長岡京(ながおかきょう)市です。京都の」


「長岡京市……」


 岸田が少し考えるような顔をする。


「俺、長岡京って一度も行ったことないです」


「俺もだな」


 村上も言った。


「長岡京の人ってあんまり出会ったことないかも」


「そうなんですね」


 美香は笑った。


「長岡京、普通の町ですよ。京都市に比べたら全然田舎ですけど」


「昔の都があったところだろ?」


 村田が言う。


「そうです。小学校の時授業で習いました」


「へぇ」


 そんな他愛のない話をしながら歩く。

 しかし村上の頭には、別のことが引っかかっていた。


「ところでさ……莉理さんは小学生の頃からそういうことをよくやってたのか?」


「そういうこと……?」


「魂を呼び出すとか、そういうの」


 美香は少し考えた。

 歩きながら視線を上へ向ける。


「いや……うーん……どうだったかな。よく遊んでいた記憶はあるんですけどね」


 美香は苦笑した。


「でも、そういうことをしていたかと言われると……」


 そこで、美香の足がほんの少し遅くなった。


「……あ」


「どうしました?」


 岸田が振り返る。


「そういえば、莉理ってよく『予備校があるから』って言ってた気がします」


 美香は何かを思い出したようだった。


「予備校?」


 岸田が目を丸くした。


「予備校って……」


「小学生で?」


 村上も思わず聞き返した。


「そうなんですよね」


 美香は困ったように笑った。


「今考えるとちょっと変ですよね」


「小学生が予備校って……」


 村上が言う。


「でも、当時は私も子供だったので、そんなに変だと思ってなかったんです」


「塾じゃなくて?」


「莉理は確かに『予備校』って言ってました」


 美香は記憶を辿るように話す。


「今日予備校があるから遊べないとか、明日は予備校の日とか」


「へぇ……」


 岸田が首を傾げる。


「小学生が予備校って、何するんだろう?」


「私もよく分かってなかったんですよ。だから『ふーん』って聞いてました」


 美香は笑った。


「まぁ、普通に考えれば進学塾みたいなものだった、ってことだろうな」


「たぶん、そうなんだと思います」


「けっこう教育熱心な親御さんだったってことか?」


「どうなんでしょう……莉理のおじさんもおばさんもとても優しくていい人だった、という印象しかないんです」


 美香は首を傾げた。


「厳しい親って感じじゃなかった?」


「全然」


「じゃあ、本人が勉強好きだったとか?」


「うーん……」


 また、美香は考え込んだ。


「莉理、勉強はできたと思います。でも、いわゆる勉強ばっかりしてる子って感じでもなかったんですよね」


「へぇ」


「普通に遊ぶし、漫画も読んでたし、学校では結構おしゃべりでしたし」


「それで小学生から予備校か」


 村上は何となく奇妙な感じを覚えた。


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