(1-07)莉理2
莉理が続ける。
『名前とできれば写真。それだけあれば大丈夫』
「名前と写真……」
『うん。それがあれば』
莉理はそこで言葉を切った。
「分かった。じゃあ、すぐ向かうね」
『待ってる』
通話が切れた。
美香はしばらくスマートフォンを手にしたまま動かなかった。
「……どうでした?」
岸田が訊く。
「名前と写真があれば大丈夫って」
「大丈夫って……」
岸田は思わず村上を見る。
村上も何とも言えない顔をしていた。
「で、どこに行けばいいんだ?」
「東陽町です」
「東陽町……東西線か」
村上は腕時計を見る。
「じゃあ、今から行こう」
「はい」
美香は立ち上がった。
そこでふと、村上が尋ねる。
「美香さんも一緒でいいんだよな?」
「はい、もちろんです」
「じゃあ、すぐ準備しよう。大石さんの写真もある。データもある……」
村上が机の上の資料をまとめ始める。
すると、岸田が当然のようについてきた。
「オレも行きたいです」
村上が顔を上げる。
「お前は留守番」
「えー」
「事務所、誰もいなくなるだろ」
「でも、こういうの気になるじゃないですか」
「仕事だぞ」
「分かってますって」
岸田は笑った。
「でも、魂を呼び出すんでしょ?」
「まだ決まってねぇよ」
「でも、本人がそう言ってるんですよね?」
「本人って、まだ会ってもいないだろ」
「だからこそですよ」
岸田は妙に楽しそうだった。
村上は呆れたようにため息をつく。
「……お前、完全に面白がってるだろ」
「ちょっとだけ」
「正直だな」
美香は二人のやり取りを見ながら、少しだけ笑った。
けれど、その胸の奥には別の感情があった。
莉理。
あの頃と同じなのだろうか。
――たましいを呼んでお話ししただけだよ。
子供だった美香には、それが何なのかはよく分からなかった。
ただ、男の子が見つかったのは事実。
もし本当に、莉理に何か特別な力があるのだとしたら。
今度は、自分たちがその力を借りようとしている。
「……美香さん? 行きますよ」
村上の声で、美香は我に返った。
「あ……はい!」
村上が資料を鞄に入れる。
美香も自分の荷物をまとめた。
「じゃあ、行きましょう」
「はい」
「オレも」
岸田が立ち上がった。
「……お前もか」
「もちろん」
村上は一瞬だけ迷ったが、結局それ以上は何も言わなかった。
「分かったよ。三人で行くぞ」
「はい!」
岸田の返事だけが、妙に明るかった。
こうして三人は、村上探偵事務所を出た。
行き先は、東陽町。
待っているのは、美香の古くからの友人――莉理。




