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(1-06)莉理1

 美香は、自分のスマートフォンを取り出した。

 普段からSNSではつながっているし、よくメッセージのやり取りをすることもある。それでも、こういう話をするのは少し緊張した。


 小学生の頃。

 あの男の子がいなくなった時以来、莉理の「力」について二人の間でまともに話したことはほとんどなかった。


 たましいを呼んでお話ししただけだよ。

 ふーん、そうなんだ。


 当時の会話はその程度だった。

 でも、それでよかった。

 莉理はあの日以降も何も変わらなかった。


 自分でも、なぜ所長に莉理の話をしてしまったのかよく分からない。

 莉理なら何とかしてくれるかも。

 ただ何となくそう思っただけだった。


 美香は少し躊躇ったあと、メッセージを打ち込んだ。


  | 莉理、急にごめん

  | あの小学校の時の能力ってまだある?

  | 実は行方不明の事件で八方塞がりで

  | 何かアドバイスもらえないかなって


 送信。


 送った直後になって急に恥ずかしくなった。

 既読がつく。


 そして――。


 ほとんど間を置かずに返信が来た。


  | いつから行方不明なの?


「……え?」


 美香は思わず声を漏らした。


「どうした?」


 村上が顔を上げる。


「あ、いえ……」


 美香はスマートフォンの画面を見つめた。莉理は、能力について何も聞き返してこなかった。「そんなのまだあるわけないじゃん」とも「何言ってるの?」とも。

 ただ、行方不明になった期間だけを訊いてきた。


 美香は指を動かす。


  | 一週間くらいだって


 送信。


 今度は既読がつくより先にスマートフォンが震えた。


 着信。

 画面に表示された名前は、莉理。


「え……」


 美香は少し戸惑った。


「どうした?」


「莉理から電話が……」


「出てみろよ」


 村上が言う。


「はい」


 美香は通話ボタンを押した。


「あ、もしもし莉理。ごめんね急に」


 返事はすぐにはなかった。


 ほんの数秒。

 けれど、美香には妙に長く感じられた。


『……一週間なのね?』


 莉理の声がした。


「うん」


『いなくなって一週間?』


「そうみたい」


 すると、電話の向こうで小さく息を呑む音がした。


『……なんだか、すごく胸騒ぎがする』


「え?」


『美香、今どこ?』


「事務所だけど」


『すぐウチに来れる?』


「え!?」


 思わず声が大きくなった。


『できれば、今すぐ』


「ちょ、ちょっと待って」


 美香はスマートフォンを耳から少し離した。


 そして、目の前にいる村上を見る。


「所長……莉理がすぐに来れるかって」


「今から?」


「はい」


 村上は一瞬、黙った。

 隣では岸田も話を聞いている。


「……何て?」


「すぐに来たほうがいいって」


「理由は?」


「それが……」


 美香は困ったように莉理へ聞き返した。


「莉理、何か分かるの?」


 電話の向こうから、少し間を置いて返事があった。


『まだ何も分からない』


「え?」


『でも、一週間って聞いた瞬間、ちょっと嫌な感じがした』


 その声は、冗談を言っているようには聞こえなかった。


『だから、できるだけ早く来てほしい』


「……分かった」


 美香は村上を見る。

 村上は小さく頷いた。


「行けるって言ってくれ」


「うん」


 美香は再びスマートフォンを耳に当てた。


「もしもし莉理。行けるって」


『よかった』


 その返事には、ほんの少しだけ安堵したような響きがあった。


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