(1-05)やってみるか
村上は美香を見る。
「その莉理って人に相談してみないか、ってことか?」
「……はい」
美香は小さく頷いた。
「私、今でも莉理とは親友なんです。探偵事務所に雇ってもらったことも話してあります。だから……ちょっと聞いてみるだけでも、どうかなって」
言い終わった瞬間、美香は急に恥ずかしくなった。
しまった。
言い過ぎたかもしれない。目の前にいるのは自分を雇ってくれた所長だ。そして、探偵として何人もの人間を探してきたプロだ。そんな人に向かって「友達が魂を呼び出せるんです」だなんて。こんな話し、普通なら笑われても仕方がない。
美香は膝の上で手を握った。
「……すみません。なんか……余計なこと言いましたよね」
「いや……うん、まぁ……」
村上は腕を組んだ。
そして少し考える。
超能力。
霊能力。
魂を呼び出す。
普通に考えれば、信じろというほうが無理がある。だが、村上はそういうものを頭から否定するタイプではなかった。科学で説明できないものが世の中に一つもないなどとは思っていない。人間がまだ知らない現象はあるだろうし、少なくともそういう可能性くらいは残しておいてもいい。何より今は他に手がかりがない。
「その莉理さんって、今もそういうことをしてるのか?」
「実は分かりません」
美香は正直に答えた。
「親友なんですけど、そんな能力みたいな話はあまりしないので……」
「そうか……」
村上は机の上の大石純恋の資料を見る。
一週間。
調べられるところは、ほとんど調べた。
警察にも相談している。
家族から聞ける話も聞いた。
友人関係も調べた。
それでも、何も出てこない。
だったら。
ほんのわずかでも可能性があるなら、試してみる価値はある。
「……まぁ、やってみるか」
村上が言った。
「え?」
「その莉理さんに、それとなく聞いてみてくれるかな?」
美香が目を見開く。
「いいんですか?」
「いいも何も、こっちは八方塞がりなんだから」
村上は苦笑した。
「それに、別に金を払って依頼するわけじゃない。ちょっと話を聞いてみてくれ、ってことだ」
「はい!」
美香の顔が少し明るくなった。
「ありがとうございます」
「ただし無理に頼むなよ。何となく微妙な空気になるようだったら引いてくれ。それまでだ」
村上が人差し指を立てる。
「分かりました」
「それと、こっちのことを詳しく話す必要もない。まずは、そもそも今もそういうことができるのかどうかだけでも、ちょっと興味がある」
「はい」
美香は頷いた。
その隣で、岸田は黙って二人のやり取りを聞いていた。
口元がほんの少し緩んでいる。
「岸田。なんだその顔」
「はい? あ、いや……」
岸田は隠しきれない笑みを浮かべた。
「なんか、面白くなってきたなと思って」
「面白がるなよ」
「だって、魂を呼び出すんですよ?」
「まだ本当かどうか分からんだろ」
「でも……なんだかワクワクしませんか?」
「……」
この時は誰もまだ知らなかった。
この何気ない会話が、村上たちの日常そのものを変えていくことを。




