(1-10)家系
玄関先で待っていると内側から鍵の開く音がした。
ドアが開き、顔を出したのは先ほど電話で話した金子莉理だった。
「いらっしゃい、美香。どうぞどうぞ、あがって。探偵さんですね? さ、みなさんあがってください」
莉理は美香の顔を見るなり懐かしそうに笑った。それから村上と岸田にも気さくに会釈し、三人を家の中へ招き入れる。
「お邪魔します」
村上がそう言って頭を下げると、岸田も続いて挨拶をした。
玄関には子どもの靴が一足、きちんと揃えて置かれていた。奥からは、かすかに環境音楽のようなものが聞こえてくる。ごく普通の家庭の穏やかな昼下がりといった雰囲気だった。
莉理に案内され、三人はリビングへと通された。
明るい室内には、家族の写真が飾られている。小さな女の子を真ん中に、莉理と夫らしき男性が並んで笑っていた。写真の中の女の子は、まだ幼いながらもどこかしっかりとした表情をしている。
「莉理、こちらがウチの所長の村上さん。それから岸田くん」
美香が二人を紹介する。
「村上です。今日は急にお邪魔してすみません。美香さんから話を聞いて少し驚いてはいるんですが……まずは、お話だけでも聞ければと思いまして」
「岸田です。よろしくお願いします」
岸田も丁寧に頭を下げた。
内心では、聞いてみたいことがいくつもあった。魂を呼び出すとはどういうことなのか。本当にそんなことができるのか。そして、なぜすぐに来てほしいと言ったのか。
だが、いきなり質問を重ねるのも失礼だろう。岸田は好奇心を抑え、まずは黙って莉理の出方を待つことにした。
「金子莉理です。こちらこそ、急にお呼びしてしまってすみません。なんだかとても気になってしまって……」
莉理はそう言うと、村上たちにソファを勧めた。
美香が隣に腰を下ろし、村上と岸田も向かい合うように座る。莉理はテーブルを挟んで三人の前に座った。
「美香さんから聞いた話だと、なんでも魂を呼び出して会話をする、とか……?」
村上が慎重に尋ねる。
「ええ、そうなんです」
莉理は特にためらう様子もなく答えた。
「うちは家系的に代々『女』がその力を継いでいるんです。私も小さい頃はその力を使っていました。でも、今は娘がやっています」
「え? 縁ちゃんが?」
美香が思わず声を上げた。
「え? あれ? 美香に話したよね? 縁を産んでから私の能力が薄くなってきたって」
「えー? そうだったっけ?」
美香は困ったように笑いながら首を傾げた。
「ごめん。なんか聞いたような気もするけど……すっかり忘れちゃってた」
「そう……」
莉理は少しだけ目を伏せた。
なにか小さくつぶやいたようだったが誰も聞き取れなかった。
村上と岸田は、互いにちらりと視線を交わした。
魂を呼び出す能力が家系で受け継がれている。しかも、母親から娘へと移るものらしい。にわかには信じがたい話だったが、莉理の口ぶりには作り話をしているような不自然さがなかった。
「それで……今はお嬢さんが?」
村上が確認するように尋ねると、莉理は頷いた。
「はい。ちょうど今、準備をしているところです」
莉理がそう言ったときだった。
リビングに続く隣の方からぱたぱたと小さな足音が聞こえ、やがてひとりの女の子が姿を現した。




