(1-11)ささげもの
小学校低学年くらいだろうか。肩のあたりで切りそろえられた髪に動きやすそうな服。年齢相応のあどけなさはあるものの、その表情は不思議なほど落ち着いていた。
女の子は部屋にいる見知らぬ大人たちを見回すと、きちんと頭を下げた。
「はじめまして。ゆかりです。こんにちは」
村上は一瞬、言葉を失った。
これから魂を呼び出すという話を聞いていたため、もっと特別な雰囲気の人物を想像していたのかもしれない。目の前にいるのは、どこにでもいるごく普通の小さな女の子だった。
だが、すぐに我に返り村上は背筋を伸ばした。
「こんにちは。村上です。今日はよろしくお願いします」
「お願いします」
縁はもう一度、丁寧に頭を下げた。
岸田も慌てて姿勢を正し挨拶をする。
「岸田です。よろしくね」
縁は小さく頷いた。それからまっすぐに村上を見上げる。
「ささげものは?」
「……え?」
村上は一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「ささげもの?」
聞き返すと、縁は当たり前のことを尋ねるような顔で頷いた。
「うん。ささげもの」
そのやり取りを聞いて、莉理が美香の方を振り向いた。
「え? ちょっと美香。あなた手ぶらで来たの?」
「え? あれ? ごめん。そうだよね。そのまま来ちゃったよ」
美香は慌てて自分のバッグを見た。もちろん、中に入っているのは財布やスマートフォン、仕事で使う小物ばかりだ。手土産を用意するなど、まったく考えていなかった。
「そう……そうよね。美香はたぶん覚えてないんだよね……」
莉理は再び独り言のようにつぶやいた。
その言葉に、美香は少し気まずそうな顔をする。
「ごめんね。昔のことだし、私、そんなに詳しく覚えてなくて」
「ううん、いいの。仕方ないよ」
莉理は軽く首を振ると、村上に向き直った。
「あの、なんでもいいんですけど、捧げものをいただいてから儀式をするんです。お菓子でもおもちゃでも、高価なものじゃなくて本当になんでもいいんですけど……」
「捧げものですか……」
村上は少し考え込んだ。
儀式に必要なものなのか、それとも何か別の意味があるのか。聞きたいことはあったが、莉理や縁の様子を見る限りまずはその習わしに従うのがよさそうだった。
村上は上着の内ポケットから財布を取り出した。そして中を確かめると、一万円札を一枚抜き取った。
「現金でもいいかな?」
莉理は一瞬だけ札に目を落とし、それから穏やかに微笑んだ。
「はい。大丈夫です。では、いただいてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
村上が差し出した一万円札を、莉理は両手で受け取った。
それを見届けた縁が、すっと姿勢を正す。
「では、こちらへどうぞ」
その声には、先ほどまでの子どもらしい柔らかさとは、どこか違う響きがあった。
縁はくるりと身を翻して隣の部屋へと歩き出す。莉理も立ち上がり、美香たちに続くよう促した。
「こちらです」
村上と岸田は顔を見合わせた。美香もまた、どこか落ち着かない様子で立ち上がる。
四人は縁の後について、リビングに隣接する部屋へと向かった。そこが、これから行われるという儀式のための場所なのだろう。
村上は部屋の入り口で足を止めた。




